マッキンゼーが先日「‘Great Attrition’ or ‘Great Attraction’? The choice is yours」(意訳:大規模離職か、応募殺到か?それは会社次第)という論考を発表しました。コロナ禍において人材の流動性が急速に高まり、大離職社会が到来しつつある中で、優秀な社員を惹きつけるために企業は何を成すべきかについてまとめた調査研究論文です。日本の実情と違う所もあるように思いますが、参考になるところが多いですので、概要をご紹介します。
※【注意】一部、和訳が正確でない所があるかもしれません。詳しく知りたい方は、原文を確認してください

論考の概要

本稿では、マッキンゼーが新たに行った「大規模離職」の性質と特徴、およびその要因についての調査結果を紹介します。「大規模離職」は起こっており、それは広範囲にわたっており、加速しないまでも継続する可能性が高いです。そして、多くの企業は、最善の努力をしているにもかかわらず、何が起こっているのかを理解していません。これらの企業は、誤った仮定に基づいて効果的でない行動をとっているのです。

しかし、企業が従業員の離職理由を理解し、従業員を引き留めるために意味のある行動をとるために一丸となって努力すれば、「Great Attrition(大規模離職)」は「Great Attraction(応募殺到)」になるかもしれません。このユニークな瞬間を捉えれば、企業は、ポストパンデミックにおいて繁栄する組織を作るために必要な人材を惹きつけ、育て、維持するという人材獲得競争において優位に立つことができます。

しかし、これは簡単なことではありません。企業とそのリーダーが従業員を真に理解する必要があるからです。リーダーは、従業員が経験していることに深く共感し、思いやりに基づき行動して変化していくという決意が必要です。そうして初めて、企業は従業員の要望やニーズを従業員とともに適切に再検討し、人々が切望する柔軟性、連結性、一体感や目的意識を提供することができるのです。

アメリカでは、大規模離職が起きている

2021年4月以降、米国では1,500万人以上の労働者が仕事を辞めています。
この記録的なペースは、あらゆる場所のビジネスを混乱させています。その理由は、そもそも従業員が退職する理由をよく理解していないという単純なものです。多くの企業は、離職の真の原因を調査する時間を取らずに、短絡的な解決策に飛びついています。例えば、給与を引き上げたりなど経済的メリットの提供で対応するのですが、結果、従業員は感謝を感じるのではなく、取引だと感じてしまうのです。

この1年半で私たちが学んだことは、従業員は仕事の人間的側面を重視することを切望しているということです。従業員は疲れており、多くの人が悲嘆に暮れています。彼らは、自分の仕事に新たな目的意識を持ちたいと思っています。同僚や上司との社会的、個人的なつながりを求めています。彼らは、自分たち居場所や価値観の共有を求めているのです(They want to feel a sense of shared identity. )。給料、福利厚生も欲しいが、それ以上に組織や上司に評価されていると感じたいのです。彼らは、単なる取引ではなく、有意義な交流を求めています(対面でなくても構いません)。

大規模離職は、アメリカだけの話ではない

従業員の離職率が低下ている、あるいは特定の業界に限定されていると考えている経営者は、誤った認識を持っています。今回の調査では、従業員の40%が、今後3〜6ヶ月の間に少なくとも多少は辞める可能性があると答えています。また、18%の回答者は、「可能性が高い」から「ほぼ確実」までの範囲で回答しています。これらの調査結果は、調査を行った5カ国(オーストラリア、カナダ、シンガポール、英国、米国)すべてで共通しており、業種間でもほぼ一致しています。

さらに、こうした傾向は今後も続く可能性があります。雇用者の53%が、自発的な離職が以前より増えていると答えています。53%の雇用者は、自発的な離職が以前よりも増えていると答え、64%はこの問題が今後も続く、あるいは悪化すると考えています。

離職率はさらに悪化する可能性がある

今回の調査では、過去6ヵ月間に退職した従業員のうち、36%が新しい仕事が決まっていない状態で退職していました。これは、「大規模離職」がこれまでの不況と回復のサイクルとは根本的に異なることを示しており、また、雇用者が過去18ヶ月間に従業員にとってどれほど厳しい状況にあったかを理解していない可能性を示しています。
「新しい仕事をせずに退職した」と答えたのは、米国の従業員が最も多かった(40%)。業界別では、医療・福祉関係者の42%が転職せずに退職しており、パンデミックの影響が現場の労働者に及んでいることを示しています。また、ホワイトカラーの退職者の4分の1は、転職先が決まっていない状態で退職したと回答しており、これは所得水準に関係なく見られました。
この傾向は今後も続く可能性があるだけでなく、さらに悪化する可能性もあります。今後3〜6ヶ月の間に仕事を辞める可能性が多少なりともあると答えた従業員のうち、約3分の2が新しい仕事を探さずに辞めると答えました。

場所を選ばないポジション(=リモートワーク可)は重要

今回の調査では、60%の従業員が「今後3〜6カ月以内に辞める可能性は全くない」と答えていることを、CEOは慰めにしたいと思うかもしれない。しかし、雇用主はこの60%を離職の可能性から「安全」と考えるべきではありません。リモートワークの選択肢を提供する企業も増えているため、これらの従業員が意思を変える可能性もあります。

いくつかの重要な調査結果として「辞める可能性は全くない」と答えた従業員のうち、65%が「仕事を続ける主な理由は、住んでいる場所が好きだから」と答えています。しかし、過去6カ月間に新しい都市で新しい仕事に就いた調査回答者のうち、約90%が転居を必要としなかったと答えています。これは、リモートワークを認める企業が非常に増えているためです。特に、経営者がハイブリッド・ワーク環境への移行を誤ったり、頑なに提供しなかった場合には、「場所を選ばない」ポジションが増えることで、満足していた従業員が現在働いている会社で今後も働き続けるかを再検討し始める可能性があります。

企業(雇用者)は、従業員が会社を辞める理由を理解できていない

この流れを止めるには、上級管理職が従業員の離職理由を理解する必要があります。しかし、多くの企業ではその理解が進んでいません。例えば、従業員が辞めた理由を聞かれた雇用主は、報酬、ワークライフバランス、身体的・精神的な健康状態の悪さなどを挙げています。これらの問題は従業員にとって重要でしたが、雇用主が考えていたほどではありませんでした。対照的に、従業員が辞める理由として挙げたトップ3は、「組織や上司に評価されていない」(54%)、「職場に帰属意識がない」(52%)でした。特に、自分を非白人または多人種と分類する従業員は、白人の従業員よりも「自分の居場所がないから辞めた」と回答する割合が高く、黒人従業員をはじめとするマイノリティグループが抱える不公平感を改めて認識させられました。

優秀な社員を惹きつけるために企業は何をすべきか

今回の調査では、パンデミックが人々が仕事に求めるものを根本的に変えてしまったことがよくわかりました。企業が新しいハイブリッドワークのアプローチを試す中で、状況は今後も変化していくでしょう。もしあなたがCEOやトップチームのメンバーであれば、今の施策は「一時停止」して、次の手を考える時間を持つことです。強引な職場復帰ポリシーや上からの命令は、どんなに良かれと思ってやったことでも、裏目に出る可能性があります。

45%の人が、家族の世話をする必要があることを離職を決断する要因として挙げています。また、辞めようと思っている人も同様に、家族の介護の必要性を挙げています。託児所や介護サービスなど、家庭や家族を重視した福利厚生を拡充することで、そのような従業員を離職させず、人間として評価していることを示すことができます。先進的なワークプレイスポリシーの旗手であるパタゴニアは、事業所内の保育施設や親へのその他の福利厚生により、新入社員のほぼ100%を維持しています。

社員はキャリアパスと成長の機会を求めています。従業員は、より良い、より強いキャリアの道筋がある仕事を求めています。彼らは評価とキャリア開発の両方を望んでいます。賢明な企業は、新しい職務に就くだけでなく、既存の職務の中でさらに高いレベルに昇進させることで、従業員に報いる方法を見つけます。これは、企業が優れた仕事をした人に、より迅速に報酬を与え、評価する方法の一つです。

職場というコミュニティへの所属意識をどのように構築していくかも大切です。リモートワークは万能ではありませんが、完全な現場(オフィスワーク100%)に戻ることもできません。人と人とのつながりは、組織にとって大きなメリットがあります。しかし、健康と安全への懸念は進化し続けており、特に従業員のニーズと期待が変化しているため、適切に対応するには管理者の注意が必要です。例えば、予防接種を受けていない幼い子供を持つ社員は、大規模な対面式の集まりでは危険を感じるかもしれません。

大規模なチームや会社を率いる経営者は、このことを覚えておいてください。「大規模離職」は現実であり、今後も続くでしょう。しかし、このユニークな瞬間は、大きな機会(チャンス)でもあります。このチャンスをつかむためには、一歩下がって耳を傾け、学び、従業員が望む変化を起こすことが必要です。まずは、従業員が最も求めている仕事の人間関係の側面に焦点を当てましょう。従業員が辞めていく理由を理解し、思慮深く行動することで、「大規模離職」を「応募殺到」に変えることができるかもしれません。

望まぬ離職を防ぐ最も有効な打ち手とは

(以上が、マッキンゼーの論考の概要でした。ここからは、当社による解説です)

マッキンゼーの論考は、主にアメリカで起きている事象の調査・分析に基づくものです。しかしながら、日本においても、コロナ禍により、社員の働く上での価値観が大きく変わり、会社側に変化が求められているというのはその通りでしょう。日本においては、アメリカほどの雇用の流動性はありませんので、アメリカ並みの大規模離職が今後発生するとは正直考えにくいですが、それでも、新しい働き方に対応できない企業では離職が増え、従業員のニーズにあう雇用環境を提供できる企業に求人が流れるという動きは間違いなく活発化しそうです。現に、メルカリでは、多様な働き方を尊重した 「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル “YOUR CHOICE”」の導入を開始し、リモート/出社の有無、働く場所などパフォーマンス・バリュー発揮がもっとも高まるワークスタイルを社員が自由に選択可能にするということで、先進的な取り組みと言えるでしょう。

企業の競争力の源泉は”人”であり、全ての従業員がその能力を発揮できる組織環境を構築することの重要性は指摘するまでもありません。また、特に経営資源が限られている中小企業においては、優秀な社員の退職は、痛手が大きいものです。こうした企業にとって望まぬ従業員の退職(離職)を防ぐための、最も有効な打ち手とは、従業員の退職リスクを予見することです。どの従業員が、どれほど退職可能性があるのか事前に分かれば、企業は事前に当該従業員へのフォローを行うことで、退職につながる原因を解消することができます。

当社が運営する組織診断サービス「パルスアイ」は、AI分析により、従業員の退職リスクを「高・中・低・リスクなし」の4段階で評価します。これにより、毎月、退職リスクのある従業員が何名いるか把握することができます。

また、退職リスクの従業員の状況についても把握できるので、退職リスクにつながっている要因を推察することもできます。リスクの高い従業員に対しては、人事部、もしくは、上司から適切なフォロー・対策をすることで、退職リスクを引き下げることに繋げられます。

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