順調に成長している企業においては、従業員の自律的な成長モチベーションを高めるさまざまな施策を導入している企業が少なくありません。

今回紹介するfreeeは組織が急拡大する中で、一時的に従業員の満足度低下が課題として上がっていた企業です。この記事では、freeeがとった従業員の成長に着目した企業経営の手法について紹介します。

freeeはどんな企業?

freeeは基幹サービスであるクラウド会計ソフト「freee」を提供して、バックオフィスのさまざまな自動化を実現する企業。同ソフトへの評価を背景に、順調に業績を伸ばしている企業です。まずはfreeeの概要について紹介しておきます。

クラウド会計ソフト「freee」の普及

freee基幹ビジネスは、クラウド会計ソフト「freee」によるサービス提供です。クラウド自体はfreee以外でも広く応用が進んでいる技術で、インターネット上にデータを保存することで、社内にデータ保管機能を持たずに業務を行うことができるもの。

freeeのクラウド会計ソフト「freee」では、社内に会計関連のソフトウェアやデータベースの構築をすることなく、会計管理を効率的に行うことが可能に。初期費用などを大きく圧縮できるため、中小企業や個人事業主などでも簡単に導入できることが大きな強みとなっています。

そのほかにも複数のクラウドサービスを展開

クラウド会計ソフトからはじまったfreeeですが、現在ではほかにも複数のクラウドサービスを展開しており、バックオフィスの自動化を可能にする総合的なクラウドサービスに発展しつつあります。

特に給与計算などを自動化している「クラウド人事労務ソフトfreee」は同形態のサービスの中ではシェアNo1となっています。

2020年現在で次のようなサービスを展開しています。やはり、全般として個人事業主や中小企業(もしくはこれから創業を控えている人)がメインターゲットとなっているのが特徴です。

  • 会計ソフト
  • 人事労務ソフト
  • プロジェクト管理
  • 会社設立
  • 開業
  • 税務申告
  • マイナンバー管理
  • クレジットカード

freeeの業務内容のイメージ

参考freee2021年6月期 第4四半期決算説明資料

freeeの業績は順調に推移

企業のDX推進の潮流に乗る形で、freeeの業績は順調に伸びています。過去3年で見ると経常利益は赤字ですが、売上高が着実に伸長。自己資本比率も上昇傾向にあることから「将来の成長のために積極的に投資」していることによる赤字であると考えられます。

freeeの業績推移

参考freee2021年6月期 第4四半期決算説明資料

2020年にはマザーズにも上場していることから、この赤字は特に東証の審査上懸念されていないことがわかります。

freeeが感じた課題と人事制度の刷新

業績面では赤字ながらも、売上を見ると現在順調に成長していることがわかるfreee。しかし、組織としてはさまざまな課題を感じており、それが足元の人事制度の刷新につながったようです。

まずはfreeeが近年感じていた課題意識について紹介していきます。

組織の拡大と成長実感の喪失

2018年に実施した社内調査の中で、同社の社員の多くが「スモールビジネスを世界の主役に」という同社のミッションに共感しているにもかかわらず、人事制度に対する満足度が低下していることがわかりました。

従来は急速に発展するスタートアップとして、従業員の多くが自他ともに成長している「実感」を得ていました。しかし、上場に向けて組織が大きくなる中で、その成長実感が薄れつつあったのです。

また、組織が急速に大きくなる中で、一部の等級にメンバーが偏るなどの弊害も起きていました。

成長実感と成長機会の創出を目的として人事制度の刷新へ

企業のミッションに対する共感だけを軸にして組織運営を行うことに限界を感じ始めていた同社は人事制度の刷新を進めることにしました。特に重要視されたのは、従業員が自発的に成長し、また成長を実感できるような人事制度を構築することでした。

従業員それぞれが長期的に成長し続けることが、企業全体の成長の原動力となり、freeeのさらなる発展に不可欠であると考えたのです。

freeeの人事制度とは?

社内サーベイによって課題が浮き彫りとなったfreeeでは、従業員が働きがいを持って働くために「成長実感」を持ってもらうことが重要であると考え、人事制度を刷新しました。今では従業員それぞれが自発的に成長し、また成長を感じられる組織へと進化しています。

ここからは刷新されたfreeeの人事制度について紹介していきます。

成長評価「インパクトマイルストーン」の刷新

freeeの人事評価は、現在のプロジェクトにおける成果の度合いである「業績評価」と成長に対する評価である「インパクトマイルストーン」の2軸で成り立っています。

これ自体は従来より採られていたシステムですが、インパクトマイルストーンの尺度が曖昧であったため、「わかりづらい」という意見と、やや形骸化し一部の等級に従業員が集中するという状況になっていました。

そこで、インパクトマイルストーンを「インパクト創出軸」と「たけのこ軸」という2つの軸に分けました。

インパクト創出軸は、その従業員が周囲にどの程度影響力を及ぼし、また巻き込んでいけるかを示したもの。そして、「たけのこ軸」は、自発的に成長し続ける力を評価したものです。過去の成功体験にとらわれない学び続ける姿勢や、積極的にフィードバックする力・受け取る力などを評価します。

二つの軸によってfreeeが求める「成長」を明確にしたうえで評価することで、従業員の成長が正当に評価に反映される企業に進化。従業員はマイルストーンごとに求められる「成長性」が明確になり、自律的な成長を目指しやすくなったのです。

freeeが重視する「マジ価値」とは?

freeeでは従業員の成長や業績を図るうえで「マジ価値」という考え方を重視しています。これはfreeeが社会に対するコミットメントとして「マジ価値を届けきる集団である」と掲げていることに由来するもの。従業員それぞれが、ユーザーにとってプラスとなるような「価値」をより多く創出することが重要であると考えているのです。

先に紹介したインパクトマイルストーンにおいても、いかに大きな「マジ価値」を提供するか、また今後提供できるように成長していくか、が評価において重視されるのです。

freeeのマジ価値2原則

参考freeeのマジ価値2原則

相互フィードバックにより成長を促進

(freeeではマネージャ職のことを「ジャーマネ」と呼ぶため、以下こちらの表現を使用します)

従業員の自律的成長のためには、ジャーマネからのフィードバックも重要であると考えられています。freeeにおいてジャーマネは「役割」に過ぎず、スタッフ・ジャーマネ間に上下関係はないとの考え方が浸透しています。

特に人事評価に関するフィードバックについては「相互フィードバック」として、従業員全員が平等であるものとして行われます。

実際のフィードバック現場ではスタッフからジャーマネにフィードバック面談の場で「マジ価値」の不足を指摘するような場面も。それぞれの思いを正直に共有することが、従業員それぞれ、ひいては企業の成長、及び信頼関係の構築に役立つと考えられているのです。

とはいえ、ジャーマネには「役割」としてフィードバックを通じてスタッフの成長を促す責務があります。freeeではジャーマネのコーチングスキルやマインドを育成するチームが存在しており、ジャーマネのトレーニングやワークショップなどを行なっています。

このような制度や取り組みが、フィードバックをより身のあるものにし、従業員の自律的な成長を促しているのです。

「キャリブレーション」によりフィードバックの質を向上

さらにフィードバックを従業員の成長につなげられるように、freeeでは「キャリブレーション」というシステムによって、フィードバック内容をブラッシュアップしています。

キャリブレーションとは、従業員それぞれについて「その人の成長余地・課題は何か」を議論して、フィードバックに役立てていくための会議です。ジャーマネ〜シニアジャーマネ間の「チームキャリブレーション」、シニアジャーマネ同士の「ファンクションキャリブレーション」そして、CEOやCOOも参加する「メンバーサクセスコミッティーキャリブレーション」の3段階で実施されます。

3段階の会議によって、従業員それぞれの成長ポイントを明確にしたうえで、前述のフィードバックを実施。そうすることで、従業員それぞれの課題が明確になります。従業員は課題の克服を目指して活動していくことで「成長実感」が得られ、インパクトマイルストーン評価も向上するという仕組みなのです。

freeeの人事制度に対する口コミ

freeeの人事制度に対しては、従業員発と思われる口コミも多数見られます。口コミサイトOpenworkに寄せられた意見を参考に、freeeの人事制度に対する口コミを紹介していきます。

「マジ価値」をベースとした評価制度は概ね好評

まず「マジ価値」をベースとした評価制度については、おおむね前向きなコメントが散見されます。

  • 『マジ価値』にコミットするというユニークなカルチャーが働きがいにつながっている
  • 『マジ価値』をベースにして、失敗してもそれを糧として次につなげるような文化がある

マジ価値に重点が置かれていることで目的意識がはっきりし「成長の方向性がわかりやすい」ことや、マジ価値の創出に向けた積極的な挑戦を支持するカルチャーがあることが、従業員にとっても働きやすさや働きがいにつながっているようです。

成長を実感できるという意見は多い

現在の人事評価制度のもとで、成長を実感できるという意見も多く見られ、freeeの人事制度が従業員の働きがいにつながっている実態が見えます。

  • ギリギリ達成できるかどうかの成長目標を設定でき、成長が実感できる。また四半期全てにおいて最大限の力を発揮しようという気持ちになれる
  • フィードバック面談の優先度が極めて高いところに好感。ジャーマネそれぞれのスタッフの成長に対するコミットが非常に高い

フィードバックやキャリブレーションにより、従業員にとってもプラスになるような成長目標が設定され、それが従業員の成長実感につながっているようです。

結局はプロジェクトに対する貢献が重視されるという意見も

ほとんどの企業がそうであるように「全てが完璧」というわけにはいきません。中にはこのような意見も見られます。

  • プロジェクトの期限に追われながら仕事をしている。確実な進捗を出すために、新技術よりも小慣れたやり方が評価される場合もある

ビジネスである以上、その時その時の業績が評価されてしまうのは致し方ないことではあります。今後新しい人事評価システムが浸透していけば、成長を実感し、やりがいを持って働くfreeeの従業員は、さらに増えていくかもしれません。

参考:openwork

そのほかの従業員の「働きがい」を高める施策

freeeでは、人事評価制度以外にも従業員の働きがいを高める施策をおこなっています。これらの施策が人事評価と違いに連携し合うことで、freeeは従業員によって成長を実感し、企業を信頼しながら働ける企業となっています。

「グロースビジョン」の言語化

「成長」に軸足を置いた新たな人事制度をよりうまく機能させ、また従業員に自発的な成長を促すために、freeeでは「グロースビジョン」という概念を重視しています。

グロースビジョンとは、各従業員の「成長の方向性」を示すもの。これは2〜3年後の自分の「なりたい姿」を記すもので、先に紹介した評価とは切り離されています。

例えば、「数年後には子供が欲しいから、それまでにこれくらいのキャリアは積み上げておきたい」というものや、「地元で新たなチームを立ち上げるべく、実際に現地に赴いて地域を巻き込んだ活動をしたい」といったものなど。実は業務に関係がなくてもOKという建てつけなのですが、結果的には多くの従業員がfreeeでの仕事に結びつけて書いています。

また、「ありたい姿」を書いたあとは、「どのようにその姿に近づいていくか」を自分なりに記します。

このシステムにより自分にとっての目標が言語化され、より目的意識を持って仕事をし、また成長していける社員が増えています。また、キャリアパスを考えるうえでも、より建設的に人事などと議論をし、「ありたい姿」を実現するために異動などを実現した従業員もいます。

ワークライフバランスの重視

freeeでは「ワークライフバランス」をとても重視しており、ここまで紹介した「マジ価値」の創出や成長へのコミットがなされている限りは、さまざまな個人の事情を考慮して働くことができます。

残業についてはみなし残業制度となっていますが、みなし残業時間の消化は必ずしも要求されません。また、幼稚園への送迎など子育て関連の用事を優先的にこなすことができる社内風土が形成されています。

裁量労働制やフレックス制を活用しているチームや従業員は、それが形骸化することなく、自分の都合に合わせて労働時間帯を決められます。

有休についても着実に取ることを推奨され、逆に少なすぎるとしっかりと休むように促されます。1〜2週間の長期休暇も多くの社員が積極的に取得しています。

コミュニケーションは「効率化させない」カルチャー

バックオフィス業務の効率化を目指すfreeeですが、コミュニケーションは「効率化させない」ことを重視しています。従業員がエンゲージメントを高め、組織が一体となって活動していくためには、従業員間の交流がとても重要であると考えているからです。

freeeでは企業のミッションなどをトップダウンで通知して徹底させるようなことを良しとしません。シニア層が態度や日々の会話の中でそれを示し、自然と従業員に浸透させていくことで「ルール化させることなく共有させる」ことが大切であるとしています。

また、WorkPlace(Facebook社が提供している社内コミュニケーションツール)上には常に社内のさまざまなニュースが共有されています。従業員それぞれは、良いニュースであれば「おめでとう」と直接伝えるなど、オフラインでの交流を積極的に実施。また、今でも全社集会を毎週開催しますし、上場の際には全社でパーティーを開催しています。

従業員同士が積極的にコミュニケーションをとり、信頼関係を構築することで、フィードバックでも遠慮せず議論ができるようになるなど、従業員の成長のための制度がうまく機能するようになるのです。

コロナ禍でコミュニケーションを非対面で効率的に行おうとする企業が多い中、freeeでは意図的に「非効率」なコミュニケーションを大事にし、従業員の一体感を高めています。

従業員の成長にコミットする企業は強い

上場に至るまでに成長したfreee。急速に成長する中で、一時は従業員の満足度が低下する局面もあったわけですが、人事制度の刷新など、従業員が互いに信頼を高め、また成長を実感できるシステムを構築。組織の一体感を高めています。

従業員それぞれが企業へのエンゲージメントを高めながら自律的に成長することで、企業全体としても力強い成長力を維持していくことが可能です。急拡大する企業においては、freeeのように従業員の成長に着目した経営手法を積極的に取り入れていくのもおすすめです。