現在、国内の企業では慢性的な人手不足が大きな問題となっています。ただでさえ、人材の確保が難しい中、第一線で活躍してきた社員にも退職されてしまうと、会社としての業務が滞ってしまいかねません。

優秀な社員の離職を防ぐには、どのような施策が有効なのでしょうか。離職の原因を知った上で人事や管理職が行うべき対策や、離職しにくい職場づくりのポイントを合わせてご紹介します。

優秀な社員が辞める理由

社員が離職を決意する背景にはさまざまな問題が隠れています。まずはその理由に目を向けてみましょう。

正当に評価されていない

「長年勤めているのにまったく昇進がない」「成果が給料に反映されない」など、自分の仕事が正しく評価されていないのではという不満は、従業員のモチベーションを低下させます。

評価者(経営者や上司)の感覚ではなく、客観的な指標を持った人事評価制度を導入するなど早期に見直す必要があります。

業務過多になっている

労働環境が整っていない職場は従業員が定着しづらく、常に人員不足の可能性があります。そういった現場では、本来なら複数人で行う業務がひとりに集中してしまいがち。サービス残業や長時間労働が当たり前になると、社員の体調も心配です。

特定の社員に業務が集中していないか、適切な労働時間が守られているか、人事や管理職は常に気を配らねばなりません。

人間関係がうまくいっていない

離職理由の上位に入るのが、「職場の人間関係」です。仕事をする上では社内社外を問わずコミュニケーションが欠かせません。しかし、その中でトラブルが起こってしまうと、ストレスで働く意欲が失われたり、業務が円滑にこなせなくなったり、さまざまな悪循環が生まれます。

もっとも多いのが上司との関係。同僚と違って対等な立場ではないため、人間関係のトラブルが起こりやすいと言われています。昨今ではハラスメントも社会問題として認識されているため、定期的に面談をするなど予防に努めましょう。

他社からのヘッドハンティング・起業

優秀な人材の場合は、他社からの引き抜き、いわゆるヘッドハンティングにも注意が必要です。たとえ会社に不満がなくても、他社により良い条件を提示されたり、魅力的なポストを用意してもらえたりとなれば心が動く人もいることでしょう。

また、社員の中にはこれまでの経験をもとに起業を目指す人も出てくるかもしれません。転職によるキャリアアップが当たり前の時代、これらを未然に防ぐことは難しいもの。「ずっとここで働きたい」と思える魅力的な職場づくりが求められています。

優秀な社員が辞めるとどんな影響があるか

優秀な社員の離職は、その時ばかりか中長期的に見てもさまざまな影響があります。具体的にどのような事態が想定されるか、まとめてみました。

連鎖退職の可能性

連鎖離職とは、社員が次々と離職をして、歯止めがきかなくなる現象のこと。優秀な社員の離職は、会社本体のみならず他の社員にとってもインパクトが大きいもの。離職の事実が、社員の間に「あの人が辞めるなら私も」「会社に未来がないのでは」といった考えを想起させ、連鎖離職の原因になります。

たとえ退職の意思のない社員であっても、多数の離職者の分の業務が集中するなどして、結果会社を去らねばならなくなることも……。ひいては人材不足や業績悪化、企業イメージの低下などを招く恐れがあります。

管理職候補を失う

優秀な社員であればあるほど、将来、管理職としての未来を期待されています。当然、そこまで育て上げるため、会社側も多大な採用・教育コストを払ってきたわけで、その損失は計り知れません。

失った穴を埋めるためには、また新たな投資をする必要があり、会社に取っても大きな負担となるでしょう。当然、先々の会社の経営にも影響を及ぼします。

業績悪化につながるおそれも

「人財」という言葉もあるように、企業を支える重要なリソースのひとつが人です。人材を安定的に確保するのは、事業を継続・拡大させるために欠かせないもの。事業の根幹を支えてきた社員の退職により、クライアントが離れたり新規顧客獲得がままならなくなるなどの可能性もあります。

特に社員数の少ない中小企業では、致命的なリスクになるかもしれません。

優秀な社員が辞める兆候とは

退職を決意した社員にはある兆候が見られると言います。もしこのような変化に気づいたら、まずはじっくり話を聞きましょう。一緒に解決方法を探るなどフォローが効く状態か見極めることが重要です。

有休消化が増える

いつもより有給を取るペースが頻繁になったと感じたら、転職活動を始めているのかもしれません。特に、週の半ばで休みが増えている場合は要注意。面接は平日に行われるため、仕事を休んでいる可能性があります。

また、退職前に有休を消化したいという考えから、休日の回数が増えるとも考えられます。

職場に置いている荷物の整理

年度末といった区切り以外で、机の上やロッカーの荷物を整理している様子が見られたら、離職のサインかもしれません。本格的に退職の日が決まってからバタバタしないように、少しずつ準備を始めている状態に見受けられます。

副業を始める

近年は社員の副業を認めている会社も増えました。はじめは「空いた時間で経験を積みたい」「スキルの幅を広げたい」といった理由で始めた副業かもしれませんが、反響があったり、軌道に乗ってきたりすると、離職して独立しよう考える人もいることでしょう。

将来的にフリーランスや起業を考えている社員がいた場合、副業を始めたら覚悟しないといけないかもしれません。

愚痴や不満が増える

仕事に対する多少の不満は誰にでもあるもの。ですが、口にする頻度が目に見えて増えたり、仕事中の笑顔が減った、業務に取り組む姿勢にやる気が感じられなくなったら離職を決意しているサインかもしれません。

また、愚痴の内容も重要です。仕事への不満なのか、待遇への不満なのか、それとも同僚や上司への不満なのか、何を思っているかで対処も変わります。

ただし、愚痴が聞かれる段階ではまだ引き止められる可能性はあります。本当に見切りをつけて次へのステップを考えている人は、退職時に不利になるような不満は控えるものです。

優秀な社員が辞めない職場づくりのポイント

優秀な社員にはできるだけ長く働いてほしいもの。どんな対策を取っておけば、離職を未然に防げるのでしょうか。ポイントをまとめてみました。

密にコミュニケーションを取れる環境づくり

日頃からコミュニケーションが活発で、オープンな関係性ができている職場なら、仕事や人間関係に対する不満があって解決につなげられる可能性があります。たとえば、上司と部下が定期的に面談をする1on1ミーティングや、年齢の近い先輩が仕事の悩みを聞いてくれるメンター制度などを導入するのは良い例です。

その際に注意したいのは、個々のコミュニケーション能力に委ねるのではなく、組織ぐるみでコミュニケーションの機会と頻度を維持する仕組みづくりをすること。社内イベントや交流会を実施したり、ブログやSNSを活用したりすることも効果的です。

キャリアプランの見直し・再設定

「このまま同じ会社いても成長が見込めないのでは」と考える人にとって、離職はひとつの選択肢になってしまいます。このまま会社に勤めていくことでどんなスキルが身につき、評価が得られるのかというキャリアパスを改めて提示してあげることで、自身の将来も具体的にイメージできるようになるはずです。

社員の意向を汲み取りながら、臨機応変に再設定できる環境があれば、必然的に社員のモチベーションが高まります。

業務負荷の軽減

ひとりに仕事が集中していたり、長時間労働が常態化している職場では、早急な是正が必要です。業務の棚卸しや効率化の見直しを行い、業務量が適正かどうかは人事や管理職が常にチェックしておくようにしましょう。

タイムカードやICカード、勤怠管理システムを導入し、労働実態“見える化”し、必要に応じて負荷を軽減するなどの対策を取ることが離職防止につながります。

多様な働き方を認める

労働条件の折り合いがつかず人材が流出している場合は、柔軟な働き方ができる条件整備が必須です。たとえばテレワークの推進やフレックスタイム制の導入、時短勤務など、労働時間と勤務場所に柔軟性を持たせることで、社員ひとりひとりの働きやすい環境づくりに取り組みましょう。

また、副業の解禁も選択肢のひとつ。社員の意欲を尊重する姿勢が求められます。

裁量権を与える

ある程度の経験やスキルがある人ほど、自分の裁量で仕事をしてみたいと思うもの。それなのに上司の判断を仰がないと進めない状態が続くと、自分が信用されていないように感じることもあるかもしれません。

社員にある程度の裁量権を与えることがモチベーションアップにつながり、離職の機会を減らすきっかけになるでしょう。

新たなチャレンジの機会を用意する

成長意欲のある社員の中には、新たな経験やスキルを習得したいと考える人も少なくありません。そういった場面では、研修やワークショップといった学びの機会を積極的に作り、各社員が自分にあった研修を受けられる環境づくりが有効です。

また、他セクションへのジョブチェンジも可能にする制度があったり、部門横断のプロジェクトなど、新たな挑戦の機会が与えられたりすることでもモチベーションアップをはかることができるでしょう。

待遇面の改善

たとえば、従業員をスキルや成果に応じて評価し、給与などにも反映する仕組みを取り入れるなど、客観的な評価体制の構築や、報酬面の見直しも必要かもしれません。また、成果やスキルに応じた等級を設け、それに応じた給与や評価基準をオープンにすることも有効で、目標が定めやすくなり働く意欲を引き出します。

そのほか、食費や住宅の補助、資格取得の支援やレジャー施設への招待など、福利厚生の充実もエンゲージメント向上に役立ちます。

優秀な社員が辞める前兆を察知する方法

優秀な人材の流出は、企業に大きなダメージを与えることがわかりました。もし、離職を決意しそうな社員がいたら、なるべく早い段階で察知し、引き止めたいところ。仕事に対するモチベーションが低下したり、不満を抱いていたりする時点でフォローすることが、離職防止につながります。

日常的に密なコミュニケーションをはかる

日頃から社員との関わり合いを増やすことは、その人の考えや価値観を把握しやすくし、少しの変化にも気付けるようになるメリットがあります。社員にとっても、積極的にコミュニケーションを取ってくれる上司には心を開きたくなるもの。たとえ、小さな悩みであっても真剣に聞いてあげる姿勢をもつことが重要です。職場にひとりでも信頼できる人がいたら、離職を思いとどまってくれるかもしれません。

モチベーションを把握する

離職防止のため、社員と直接話をして不満や不安を聞き出そうとしても、実際はなかなかうまくいかないことも多いでしょう。そんな時に、社員の心理状態を把握する方法としてモチベーション管理ツールを導入する企業も増えています。

モチベーション管理ツールとは、アンケート等により潜在的な心理状況を調査収集し、データとして見える化できるツールのこと。たとえば、「パルスアイ」なら、毎月1回簡単なWEBアンケートを配信し、従業員個人と組織の課題をデータ化。AIが、従業員の退職リスクを判定し、退職する可能性が高い従業員をいち早く察知することができます。

社員のモチベーションやエンゲージメントといった心理的な状態をスコアとして把握できるので、問題に対する解決策も具体的に検討できる機会が得られるはず。人に言えない悩みや不満を早期にキャッチする手がかりになります。

まとめ

優秀な人材を定着させることは、あらゆる企業にとって大きな課題。終身雇用制度が崩壊した今では、キャリアアップを目的にさまざまな会社を渡り歩く人も増えていますが、そういった前向きな離職とは裏腹に、待遇の不満や人間関係に悩み辞めて行く人がまだまだ多いのが現状です。

重要なのは自社が抱える問題点を明確にし、会社ぐるみで離職防止に努めていくこと。業務改善やコミュニケーションの活性化、適切なツールの導入などで、社員が働きやすい職場を目指しましょう。