物事に対する動機付けや、熱意を意味する『モチベーション』。企業においては、従業員のモチベーションを高めることにより、生産性の向上や離職率の低下が期待できます。しかしながら、「従業員のモチベーションを維持するのは難しい」と感じている人も多いのではないでしょうか。
今回は、従業員のモチベーションを上げる方法や企業事例、モチベーションの計測方法などについて、わかりやすく解説します。
モチベーションとは
モチベーションの意味と、ビジネス上の使い方
モチベーションとは、「人が何かをする際の動機づけや目的意識」のことです。ビジネス上では、仕事に対するやる気や、意欲のことを指して使われています。
2種類のモチベーション
モチベーションには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の2種類の考え方があります。
・内発的動機づけ
自分の興味や関心、やりたい事などから生まれるモチベーションのことです。楽しい、嬉しい、誰かの役に立ちたい、こういう自分になりたいといった感情が主体的な行動を促します。
・外発的動機づけ
自分以外の何かにより生まれるモチベーションのことです。例えば企業の評価や報酬、与えられる仕事の内容などが、外発的動機づけの要因となります。誰かに褒められる、怒られるなどのいわゆるアメとムチもこの外発的動機づけにあたります。
モチベーションとエンゲージメントの違い
モチベーションと似たような言葉では、エンゲージメントと言う言葉があります。モチベーションとエンゲージメントには、以下のような違いがあります。
・モチベーション
自分自身が主体となり、感じたり生まれたりするものです。何らかの行動を起こす前に抱く、動機づけやその要因を指します。
・エンゲージメント
従業員が所属組織の成功に対して主体的に関与していきたいという心理的なロイヤリティ(帰属意識/貢献意欲)のことです。
エンゲージメントについてさらに詳しく知りたい方は、従業員エンゲージメントを左右する3つのポイントを参考にしてください。
モチベーションとエンゲージメントには、感情を抱く対象が自分自身なのか、それとも会社や組織に対してなのか。また、行動を起こす前に生まれる感情なのか、それとも行動の結果として生まれた感情なのか、という違いがあります。
モチベーションの測定方法
ではモチベーションとはどのように測定すればいいのでしょうか。モチベーションの測定には従業員サーベイが有効です。ここでは従業員サーベイの実施方法について具体的に紹介します。
従業員サーベイの実施方法
従業員サーベイを実施する際には、以下のような検討が必要です。
・何を調査するのか
従業員サーベイを実施するにあたり何を調査するのか、目的を明確にするようにしましょう。一口にモチベーションと言っても「内発的動機づけ」に由来する個人の心の状態を可視化したいのか、「外発的動機づけ」のような組織や会社の制度に関わる課題を明確にしたいのか、ポイントは様々です。
・調査結果の活用方法
従業員サーベイを実施後、調査結果をどのように活用するのかを検討するようにしましょう。人事施策立案のための材料するのか、それとも組織マネジメント用にマネージャーに共有するのかなど、その使い道により従業員サーベイの設計も大きく変わることになります。
従業員サーベイの実施方法についてさらに詳しく知りたい方は、【良くわかる】組織診断アンケートの設計方法を参考にしてください。
具体的なツールの紹介
従業員サーベイの設計が終わったら、今度はそれを実現するためのツールを選定します。ここでは具体的な従業員サーベイ用のツールを紹介します。
・パルスアイ(株式会社ジャンプスタートパートナーズ)
パルスアイは、様々な組織課題を可視化し、従業員の意欲活性化につなげる組織改善ツールです。
・Wevox(株式会社アトラエ)
Wevoxは、ワークエンゲージメント・従業員エンゲージメントの可視化からデータとAIで改善サイクルを生み出すエンゲージメント解析ツールです。
・モチベーションクラウド(株式会社リンクアンドモチベーション)
https://www.motivation-cloud.com/
モチベーションクラウドでは、20分程度の簡単なサーベイに回答するだけで従業員のエンゲージメント状態を可視化・数値化することができます。
モチベーションを上げるためには
では次はモチベーションを上げる為に必要な事について説明します。
モチベーションの考え方・理論の紹介
まずモチベーションについての考え方や理論にはどのようなものがあるのでしょうか。ここではその一部を紹介します。
・マズローの5段階欲求
アメリカの心理学者マズローが考案した理論です。マズローの法則によれば、人間には「生理的欲求」、「安全の欲求」、「社会的欲求(所属と愛の欲求)」、「承認欲求」、「自己実現の欲求」の5段階の欲求が存在します。これらの欲求はピラミッド型の序列が存在し、低次の欲求が満たされるごとに、上層の欲求を抱くようになるという理論です。
・ハーズバーグの衛生理論
ハーズバーグによって提唱されたモチベーション理論です。仕事に対する満足を感じる要因と、不満を感じる要因が異なることを示し、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と呼びました。「動機づけ要因」は、例えば仕事の達成感、責任範囲の拡大、自身の能力向上が挙げられます。「衛生要因」は、会社の理念や経営方針、労働環境、報酬などの人事制度などが挙げられます。ハーズバーグによると、「動機づけ要因」を与えることにより、満足を高め、モチベーションを向上させることが可能です。
モチベーション向上に必要な取り組み
以上を踏まえ、モチベーションを向上させる具体的な方法を考えてみたいと思います。
・目標管理、成果の可視化
モチベーションを向上させるためには、自身、または部下の目標を明確にし、それを可視化することが必要です。特に設定する目標には注意が必要で、「SMARTの法則」に則ったものが望ましいと言われています。
SMARTの法則は以下を満たした目標設定を指します。
- Specific(具体的な)
- Measurable(測定可能な)
- Assignable(誰がやるのか割り当て可能な)
- Realistic(現実的な)
- Time-related(期限が明確な)
・働き方の見直し
モチベーションを適切に保つには、仕事に対してやりがいや達成感、責任感を感じることが重要です。例えば、タスクを可視化しチェックリストにしてみたり、タスクをクリアしたら休憩を取ると、自分ルールを設定してみたり、小さな成功を積み重ねて自己効能感や、自己肯定感を高めていくと良いでしょう。また休養の時間を取るなどし、心にゆとりを持つことも必要です。目の前の作業を片付けるだけでなく、メリハリを付けて働くことを心掛けましょう。
・適切なフィードバックの実施
部下を持つマネージャーにとって、フィードバックは部下のモチベーションを左右する重要なマネジメントとなります。以下のような点に注意して、適切なフィードバックを実施するように心がけてください。
・信頼関係を築く
フィードバックを行う上で最も重要なことは、実施する側と受ける側の信頼関係です。信頼関係が欠如している場合、ネガティブなフィードバックを行う際に、必要以上にネガティブに受け取られてしまうこともあります。日頃から丁寧な人間関係を構築するよう努め、部下が助言を受け入れられる体勢を作るようにしてください。
・タイムリーに実施する
フィードバックを効果的に行うためには、タイミングを重視しましょう。フィードバックの対象となる出来事から時間が経過すれば経過するほど、フィードバックの効果が薄れてしまいます。記憶が新鮮なうちに行動を振り返り、良い点・悪い点を具体的に伝えるようにしてください。
・客観性を大事にする
ネガティブなフィードバックを行う際には、使う言葉やフレーズに注意しましょう。思わず感情が昂った場面でも、冷静かつ客観的に伝えるように注意してください。事実だけを端的に伝え、具体的な改善点を示す、または相手に示させるようにしましょう。
社員のモチベーションを向上する取り組み(事例紹介)
ここではモチベーション向上に取り組む企業を紹介します。
株式会社リクルートホールディングス
リクルートでは社員の「社員皆経営者主義」のもと、新規事業の開発などに積極的に取り組んでいます。一人ひとりが経営に対する責任と、参画意識を持つことでモチベーションを向上させています。リクルートの新規事業提案制度「New RING」では、社員が小集団で活動し、新規事業を提案しています。この取り組みを通して、これまでに「ゼクシィ」、「ホットペッパー」、「R25」、「受験サプリ」といった新規事業が展開されています。事業の拡大と、社員の高いモチベーションが高い次元でマッチしている事例と言えます。
クックパッド株式会社
クックパッドでは、新たに人員が必要となった場合、社外からの求人募集に加え、社内に向けても「社内公募」を行います。自らがやりたい事に対し、手を挙げて意志を示すことで責任と自主性を生み出しています。さらにクックパッドでは、「語学サポート制度」や、希望者に対する海外研修「プログレス」制度など個人のやりたい事を後押しする多様な人事制度が整備されています。
セールスフォースドットコム
働きたい企業ランキングでも上位に取り上げられるセールスフォースでは、Ohana Culture(オハナ文化)を重視し、社員やステークホルダーを家族のように大事にしているそうです。「1-1-1モデル」と呼ばれる社会貢献活動にも積極的で、社員が会社に所属することを誇れるような取り組みが多くあります。また新型コロナウィルスのパンデミックにおいては、いち早くテレワーク制度を拡充し、従業員の「心理的安全性」の確保に努めるなど会社が一丸となって仕事に没頭できるような環境づくりに取り組んでいます。
関連書籍の紹介
では次にモチベーションに関する書籍を紹介します。
モチベーション3.0(ダニエル・ピンク)
著者はモチベーションを、生に対するモチベーションを1.0、報酬に対するモチベーションを2.0と述べ、内発的動機を伴うモチベーションであるモチベーション3.0が必要になると述べています。
日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?(ロッシェル・カップ)
海外企業との比較から、日本企業の課題、制度的な問題点について書かれています。また本当に望ましいマネジメントとは何かという点にも触れているので経営者やマネジメントに読んでいただきたいです。
図解 モチベーション大百科(池田貴将)
本記事でも触れたモチベーションに関する理論や研究が掲載されています。要点が図解されているので、非常に読みやすい構成となっています。
まとめ
いかがだったでしょうか。モチベーションの維持・向上は企業の業績に繋がる重要な項目です。社内の取り組みについて見直してみるのはいかがでしょうか。