近年、人事領域でAI(人工知能)を活用する例が増えており、業務効率化や従業員エンゲージメント向上、離職率低減、人材育成の強化など様々な効果が期待されています。
例えばAIにより社員のモチベーションを管理し離職リスクを早期察知したり、客観データに基づく公平な評価、採用工程の効率化と精度向上、人事業務の属人化解消による戦略業務への集中といったメリットが報告されています。本報告では、(1) 人事部の主要業務ごとにAI活用方法とポイント、(2) 人事業務へのAI導入事例(国内外)、(3) AIによる従業員エンゲージメント向上・離職率改善策、(4) おすすめの人事系AIツールについて、調査結果をまとめます。
人事部の主要業務におけるAI活用
人事部が担う主な業務(採用、配置・異動、人事評価、人材育成、人事制度の策定・運用、労務管理、福利厚生)それぞれで、AIをどのように活用できるかを解説します。業務ごとの活用ポイントと導入時の注意点も併せて述べます。
採用業務へのAI活用
AIによる応募者のスクリーニングと選考支援: 採用では大量の応募者情報を短時間で処理する必要があり、AIが有効です。例えば応募者の履歴書やエントリーシートを自然言語処理で分析し、経験スキルのマッチ度合いやキーワード抽出によって絞り込みを行います。AI面接サービスを利用すれば、オンライン動画面接で応募者の回答内容や表情・声の特徴を解析し、適性をスコアリングできます。実際にソフトバンクでは新卒採用において動画面接の評価をAIで自動算出するシステムを導入し、面接評価作業時間を約70%削減できる見込みと報告されています。また、チャットボットを採用窓口に配置すれば候補者からの質問に24時間対応でき、面接日程調整の自動化なども実現します。
採用AI活用のポイント: AIにより選考プロセスの効率化(担当者の作業負荷軽減)や客観的な評価基準の適用が可能となります。人間の主観や先入観によるバイアスを減らし、公平な評価につなげられる点がメリットです。一方で注意すべきはAIモデル自体に内在するバイアスです。過去の採用データに偏りがあるとAIも偏った判断を学習してしまう恐れがあり、実際にAmazonでは社内実験中の採用AIで女性候補者のスコアを低く評価する偏りが発覚し、修正が難しかったため開発を中止した事例があります。したがって、導入時にはAIの判断根拠を人事担当者が検証し、不適切な差別や統計的偏りが生じていないか監視する必要があります。また、応募者に対してはAI選考を行っている旨を開示し、必要に応じて人間の目による確認プロセスを設けることで、候補者体験の向上と透明性の確保を図ります。
配置・異動業務へのAI活用
AIによる適材適所のマッチング: 社員の適性や希望、スキル情報を総合的に分析することで、最適な人員配置や異動提案にAIを活用できます。例えばタレントマネジメントシステムに社員の経歴・スキル・評価・資格・研修履歴などを一元管理し、AIが個々人の強みや潜在力を分析します。その上で「〇〇のプロジェクトに最適な人材は誰か」「将来的にリーダー候補となる人材は誰か」といった問いに対し、AIがデータに基づいて候補者リストを提示します。明治安田生命では、社員約1万人を対象にAIで適性・能力を分析し、生産性の高い配置を実現する方針を打ち出しており、電通国際情報サービスの人事システム上に各人のキャリアや資格を集約した上で、必要なスキルに合致する適任者を検索できる機能を導入しています。これにより人材のミスマッチを減らし、適材適所による組織力向上が期待されています。
配置AI活用のポイント: AIの提案によって、これまで見落とされていた人材を発掘できる可能性があります。客観データに基づき社員の潜在能力を評価することで、派閥や先入観にとらわれない公平な登用や社内公募の活性化につながります。配置シミュレーションでは、組織全体の生産性や将来の人材ポートフォリオを見据えた計画が立てやすくなります。注意点としては、最終判断を人間が行う仕組みを維持することです。防衛省でも人事評価や異動へのAI活用を検討していますが、「あくまで補助的に用い、最終判断は人間が行う」としています。AIはあくまで意思決定を支援するツールであり、本人の希望や現場の状況など定性的な要素も考慮する必要があります。また、AIの提案に社員が不信感を抱かないよう、説明責任を果たしつつ運用することが大切です。
人事評価業務へのAI活用
客観データに基づく評価支援: 人事考課や評価プロセスでもAIが力を発揮します。従来、評価者の主観が入ることで部署間で評価基準がズレたり、公平性に課題が生じることがありました。AIを導入することで、統一された評価基準で社員のパフォーマンスを分析し、公平性を高めることができます。例えば営業実績やKPI、360度評価のコメントなど大量の評価関連データを機械学習で解析し、従業員ごとの貢献度や強み・弱みを数値化します。また、評価面談にAI面接官を同席させて会話内容を分析し、評価レポートを自動生成することも可能です。外食チェーンの松屋フーズでは、店長昇格試験にAI面接サービス「SHaiN」を導入し、300通りの質問からAIが必要項目をヒアリングして結果を分析する仕組みを採用しました。その結果、面接評価のバラつきがなくなり、エビデンスが残ることで的確なフィードバックが可能になるなど、評価の納得感・統一感が向上しています。同時に人事部の負担軽減や業務効率化にもつながったと報告されています。
人事評価AI活用のポイント: AIによる評価支援は、評価プロセスの透明性を高め、社員にとっても「データに裏付けられた公正な評価」という安心感につながります。特に多面的な評価項目(成果だけでなく行動特性や価値観の体現度など)をAIで分析すれば、評価漏れや主観偏重を防げます。一方で注意すべきは評価の全自動化は避けることです。人間には業績数字に表れない良さや可能性を見る力があります。防衛省も評価の全てをAIに任せるのではなく補助とする方針で試験導入を予定しています。AIの評価結果はあくまで参考情報と位置づけ、最終的な昇進・昇格判断は人事担当者や現場上長が総合的に判定することが重要です。また、評価アルゴリズムに過去の偏見が組み込まれていないか継続監視し、社員にも評価基準について一定の説明を行うことで、AI評価への納得感を得る工夫が求められます。
人材育成・研修業務へのAI活用
パーソナライズされた学習支援: AIを用いることで、従業員一人ひとりに最適化した育成プランを提供できます。具体的には、社内のeラーニングシステムや研修データと連携し、各社員のスキル習得状況や業務上の弱点をAIが分析します。その上で「この社員には○○の研修がおすすめ」「△△のスキル習得度が低いためフォローが必要」といった個別最適化された育成提案を自動で提示します。人事担当者はAIの提案を参考に、適切な研修機会を提供したり、配置転換による成長促進を検討できます。またAIコーチ/メンターの活用も有効です。チャットボットが社員からのキャリア相談に応じたり、目標達成に向けたアドバイスを行うことで、マンツーマンの育成支援を自動化できます。たとえば新入社員のオンボーディング支援では、AIが組織カルチャーへの適応度合いをモニタリングし、適応を助けるコンテンツやアドバイスを提供します。ある企業の提供する「HaKaSe Onboard」というサービスでは、入社後の新入社員に対し相性分析に基づく配属先とのマッチングや、データに基づいた育成方針の提示、同僚からの評価を可視化する仕組みを導入しました。その結果、新入社員の即戦力化スピードが2倍に向上したとの報告があります。
人材育成AI活用のポイント: 社員各自のペースや関心に合わせた学習機会を提供できれば、従業員の能力向上とエンゲージメント向上につながります。AIは大量のスキル情報を処理して適切なコンテンツをレコメンドできるため、従来の画一的な研修より効率的かつ効果的です。注意点として、AIの提案に過度に依存しないことが挙げられます。AIが提示した育成プランが本人のキャリア志向と合わない場合もあるため、最終的には上司や人事が本人と対話して目標をすり合わせる必要があります。また、AIが推奨しない分野でも本人に強い希望があれば尊重する柔軟さも求められます。データ分析には個人の学習履歴や評価といった機微情報も含まれるため、プライバシー保護や情報セキュリティに配慮した運用(アクセス権管理やデータ匿名化など)が不可欠です。
人事制度の策定・運用へのAI活用
制度設計へのデータ活用: 人事制度(評価制度、報酬制度、福利厚生制度等)の設計にも、AIによるシミュレーションや分析が活用できます。例えば過去の人事データから、どの要因が離職率や社員満足度に影響しているかを機械学習で分析し、制度変更のインパクトを予測することが可能です。「評価査定配分を変更すると離職リスクはどう変化するか」「テレワーク制度導入後の生産性傾向はどうか」といった問いに対して、AIが関連データを解析し示唆を与えてくれます。さらに、AIに社内規程や就業規則のドラフト作成を支援させるケースもあります。生成AIを用いて人事制度文書のたたき台を短時間で作成し、人事担当者がブラッシュアップするといった使い方です。このように活用すれば、制度策定にかかる調査や文書作成の時間を短縮できます。
制度運用へのAI活用: 制度運用面ではチャットボットを窓口化する例が増えています。新しい制度を導入した際に、社員からの問い合わせ対応に人事担当者が忙殺されることがありますが、AIチャットボットが質問に回答する仕組みを整えれば24時間対応が可能です。実際、ホクト株式会社では「hitTO(ヒット)」というAIチャットボットを人事部に導入し、働き方改革や制度変更に伴う従業員からの質問に対応させています。これにより「いつでも気軽に質問できる環境の整備」「リモートワーク下での問い合わせ対応」「人事ナレッジの体系化による属人化解消」といった効果を狙っています。人事制度に関する社員の理解度向上や運用上の不明点解消にもAIが貢献しています。
制度策定・運用AI活用のポイント: データに基づく制度設計は、エビデンスに裏付けられた人事戦略を立案する上で有用です。ただし制度決定には経営方針や企業文化との整合も重要なため、AIの分析結果を鵜呑みにせず人事の専門家が判断することが必要です。また、生成AIによる規程ドラフトは便利ですが、そのままでは法令遵守や企業独自の事情が反映されていない可能性があります。必ず人事・法務チェックを経て修正しましょう。チャットボット運用においても、回答の正確性を担保するため定期的なQ&A更新やログ監視が欠かせません。誤った回答を放置すると社員からの信頼を損ないかねないので、AIの回答精度向上に向けたチューニングを継続的に行います。
労務管理業務へのAI活用
勤怠・健康データの分析: 労務管理では、出退勤記録や残業時間、有給取得率、休職情報など大量の勤怠データをAIで分析することで従業員のコンディション管理や働き方の傾向分析ができます。例えば、ある部署で残業時間が突出して増えていればAIが検知してアラートを発し、管理者に改善を促すことができます。同様に、有給休暇の取得状況や深夜労働の頻度などから過労やメンタル不調の予兆を掴む試みも行われています。日立ソリューションズの提供する人事ソリューション「リシテア」では、社員属性情報や勤怠データをAIに学習させ、過去データを読み込ませることでストレスケアが必要な組織を検出し早期の対応につなげる機能を開発しています。ストレス状態を可視化することで離職リスクの軽減やメンタル休職の抑止を支援できると報告されています。また、このような人事関連データを統合的に分析するサービス(例:NECの「HR Tech クラウド」)では、各社固有の人事データをAIモデルに学習させ、社員の業務適性を数値化することも可能です。これにより、人事担当者が配置や指導の判断を下す際の材料を提供します。
労務管理AI活用のポイント: AIを労務データに用いることで、人間では見落としがちな傾向を客観的に把握できます。例えば「残業が続くと一定期間後に離職率が上がる」「特定の上司の下で働く社員の有給取得率が低い」といったパターンを発見し、先手を打った対策が可能です。労務管理の自動化(勤怠の異常値検知やシフト最適化)は、人事労務担当者の定型作業を減らし、より付加価値の高い業務に時間を割く余裕を生みます。注意点としては、社員のプライバシー配慮が挙げられます。AIで社内メールやチャットの内容まで監視しようとすれば「監視されている」という不信感を招きエンゲージメントを損なう恐れがあります。分析は統計的な傾向把握に留め、個人を過度に追跡しないようにする、もしくは本人同意の上で限定的に行うなど、倫理面・法令面に配慮した運用が必要です。また、AIの検知結果に基づき管理者が行動を起こす際も、デリケートな問題(メンタルヘルスなど)についてはプライバシーに十分配慮しつつ支援策を講じることが求められます。
福利厚生業務へのAI活用
パーソナルな福利厚生提案: 福利厚生の分野でもAI活用が進んでいます。社員一人ひとりの属性(年齢・家族構成・ライフイベント)や利用履歴に基づき、適切な福利厚生メニューをレコメンドすることが可能です。例えば、社内ポータルサイトでAIチャットボットに「利用できる手当を教えて」と質問すれば、AIがその社員の勤務年数や家族構成から利用可能な制度(住宅手当、育児支援、自己啓発補助など)を案内してくれます。福利厚生メニューが多岐にわたる企業では、このようなガイドがあると社員が恩恵を受けやすくなりエンゲージメント向上につながります。また、健康増進系の福利厚生(フィットネス補助やメンタルヘルス相談など)にAIを組み合わせ、従業員の健康データを分析してウェルビーイング向上のためのアドバイスを提供する例もあります。ウェアラブルデバイス等から収集した運動量や睡眠データを分析し、「運動不足傾向です。週2回のウォーキングをしてみましょう」といったコーチングを自動で行う仕組みです。
福利厚生AI活用のポイント: 社員にとって必要な福利厚生をタイムリーに届けることができれば、会社から大切にされていると感じるきっかけとなり、結果的に会社への愛着(ロイヤリティ)向上に寄与します。特に若手社員などは、自分に合った支援策がすぐ見つかることで仕事と私生活の両立がしやすくなり、離職抑止にもつながるでしょう。一方で注意点は、健康データなど個人情報の保護です。プライベートな情報をAIが扱う場合、それが人事評価など他目的に使われないという信頼を社員に与える必要があります。データの取り扱い範囲を明確にし、本人同意の下で活用することが重要です。また、AIの提案が行き過ぎて干渉的にならないようバランスを取り、最終的な利用判断は社員本人に委ねる姿勢も求められます。
以上、主要な人事業務ごとにAI活用の方法とポイントを概説しました。次章では、実際に企業が人事領域でAIを活用している事例を具体的に紹介します。
人事業務にAIを活用している企業事例(国内外)
AIを人事領域に導入して成果を上げている企業の取り組み例を紹介します。国内企業の事例を中心に、海外企業の例も交えて列挙します。
- ソフトバンク(日本): 新卒採用のグループディスカッションを廃止し動画面接に移行、AIで応募者の動画を解析して客観的に評価するシステムをエクサウィザーズ社と開発ai-market.jp。インターン選考の映像データと熟練担当者の評価をAIに学習させ、新たな候補者の評価を自動算出するもので、選考時間を約70%削減でき。これにより移動負担軽減と公正な選考を両立。
- ホクト株式会社(日本): きのこ製造販売大手のホクトは、人事部にAIチャットボット「hitTO」を導入。働き方改革や制度変更時に社員から寄せられる多数の質問にチャットボットが24時間対応し、人事担当者が戦略的業務に集中できる環境を構築。ナレッジを体系化して属人化を解消し、リモート勤務下でも気軽に質問できる仕組みで生産性向上と従業員サポート充実を実現。
- なかやま牧場(日本): 食品スーパー運営の同社は、人事評価クラウド「あしたのクラウドHR」を導入。社員の目標に対する取り組み度合いを可視化し、結果だけでなくプロセスも含めて公平に評価できる仕組みを構築。評価制度運用における期日管理や書類回収もクラウド上で一元化され、工数削減に成功。適切な評価制度を定着させ企業理念の浸透にもつなげた。
- 松屋フーズホールディングス(日本): 飲食チェーンの同社は店長昇格試験にAI面接サービス「SHaiN」を導入。AIが対話形式で候補者に質問し回答を分析、評価レポートを自動作成する。導入前は評価基準のばらつきにより納得感に課題があったが、導入後は同一基準での見える化と評価精度向上を実現。面接評価のエビデンスが残り、的確なフィードバックや人事部の負担軽減など複数のメリットが得られた。
- 防衛省(日本): 約4万人の幹部自衛官を対象に、人事評価や人事異動にAIシステムを導入予定と発表。AIスタートアップACES社の助言を得ながら、ディープラーニング技術で自衛官の健康・評価データ等を分析し組織全体のパフォーマンス向上を支援する取り組み。ただし最終判断は人間が行う補助的利用と位置づけており、公平性と効率化を両立する狙い。
- 明治安田生命(日本): 内勤社員約1万人を対象に、人事異動にAI技術を活用する方針。電通国際情報サービスの人事システム「POSITIVE」を導入し、人材情報(キャリア・評価・資格等)を一元管理。AIが各社員の適性・能力を分析し、最適な配置・組織構成を提案することで生産性の高い組織づくりを目指す。将来的には蓄積データ×AIで客観的な教育・配置を行う仕組みを検討しており、AIの提案を考慮しつつ人事担当者が異動を決定する予定。
- 日立ソリューションズ(日本): 人事ソリューション「リシテア / AI分析」を開発。勤怠データや社員属性データをAIに学習させ、過去データを解析することでストレスが高まっている組織を検出し早期ケアを促進。可視化されたストレススコアにより、離職リスクの高い部門を特定して対策できるようにした。
- IBM(米国): グローバルIT企業のIBMは、社内の人材分析AI「予測的離職プログラム」を開発。従業員の業績・スキル・給与・勤務状況などから離職しそうな人を95%の精度で予測し、管理職に対して予防措置の提案(追加報酬やスキル開発機会の提供など)を行っています。このAIにより300百万ドル以上の人材流出コストを削減できたとCEOが述べており、プロアクティブな人材流出防止策につながっています。
- ユニリーバ(英国): 消費財大手のユニリーバは、新卒採用にAIとゲーム技術を導入したことで有名です。応募者はオンラインでゲーム型適性検査を受け、さらに録画面接で質問に回答します。これらのデータをAIで分析し、適性の高い候補者のみを最終面接に進めるプロセスに変えました。その結果、面接に要する人時間を50,000時間以上削減し、年間100万ポンド以上のコスト削減、採用所要期間の90%短縮、さらに採用された新人の多様性16%向上などの成果が報告されています。大規模な応募者を効率よく公平に選考し、時間短縮と質の向上を両立した好例です。
(上記の他にも、パナソニックによる社内情報のAI検索、Septeni社のオンラインインターンシップ提供、NECのHR Techクラウドによる人事データ分析など多様な事例がありますが、本報告では代表的なケースに絞りました。)
エンゲージメント向上・離職率改善におけるAI活用
従業員のエンゲージメント(仕事に対する熱意・愛着心)を高め、離職率の改善に繋げるために、AIを活用してできる施策を解説します。ポイントは従業員の声やデータを拾い上げて早期に手を打つことと、一人ひとりに合った対応を可能にすることです。
- 離職予兆の検知と対策のパーソナライズ: AIは従業員の勤怠・業績・人事評価・アンケート回答などのデータを総合分析し、誰が離職リスク高いかを予測できます。例えば「パルスサーベイ(従業員意識調査)」の結果をAIが解析し、「退職リスクスコア」を算出するツールがあります。PULSE-AI(パルスアイ)では仕事内容や人間関係、健康状態などに関する設問からAIが離職予兆を検知し、「離職予兆捕捉率○○%」という指標でリスクを可視化します。さらにリスク要因に応じた具体的な対処策をAIチャットボット(AIメンター)が提案してくれるため、個々の社員に適したフォローが可能です。IBMの事例でも、AIが退職しそうな社員を高精度に予測し、**先手の働きかけ(昇進・異動や報酬見直し等)**によって優秀な人材の流出を防いでいます。このように、AIで離職の兆候を逃さずキャッチし、社員ごとに効果的な引き留め策を打つことが離職率改善につながります。
- 従業員エンゲージメントの見える化と改善: 従業員満足度や職場環境に対する声を継続的に収集し、AIで分析することで組織のエンゲージメント状態を把握できます。例えばエンゲージメントサーベイツールのWevoxでは、3分程度の定期アンケートで集めた「従業員の声」データをAIが分析し、組織の健康度を多角的に可視化します。特徴的なのは、AIがフォローが必要な従業員を検出し、優先順位を可視化するとともに、各人の特性に合った具体的な施策(上司との面談設定、仕事内容調整など)を提案してくれる点です。さらにチャット形式でAIに「どの部署に課題がありますか?」と質問すれば、分析結果に基づいたレポートを生成してくれる機能もあり、問題の把握と改善策検討のスピードが上がります。このようなピープルアナリティクスにより、従業員エンゲージメントを左右する要因(例えば「上司からのフィードバック不足がモチベーション低下につながっている」等)をデータで裏付けて発見し、的確な対策を講じられます。
- 従業員の声の傾聴とSOSの早期発見: 従業員エンゲージメント向上には「社員の声を経営が素早く把握し対応する」ことが不可欠です。AIは自由記述のコメントや社内SNSの投稿内容から感情や不満の傾向を解析することができます。従来、人事担当者が目視でチェックしていたアンケートの自由回答も、AIがキーワードや文脈を判定してネガティブな兆候を検出できるようになりました。これにより「助けが必要な社員のSOS」を見逃さず拾い上げ、フォローすべき対象を精度高く特定することが可能です。例えば「最近残業続きで辛い」といったコメントをAIが察知した場合、人事はすぐ該当部署の管理職に注意喚起し、本人との面談設定や業務調整を行うといった対処につなげます。社員は声を上げれば迅速にケアしてもらえる安心感を持てるため、結果的にエンゲージメント向上と離職防止に寄与します。
- モチベーション管理と組織風土醸成: 社員のモチベーションを日々トラッキングする用途にもAIは役立ちます。例えばWillysmのようなシステムでは、社員が「今の気持ち」を簡単なボタン選択で入力すると、そのデータがチーム全体のモチベーションマップとして可視化されますboxil.jp。AIは蓄積データからチームの士気低下の傾向を捉え、管理者にアラートを上げたり、モチベーションアップの施策(イベント開催、表彰など)を提案したりします。こうした取り組みは従業員エクスペリエンス(EX)の向上に直結し、組織へのエンゲージメントを高める効果があります。ポイントは、日常的な小さな声も拾い上げて素早く対応し、「社員を大切にしている」というメッセージを伝えることです。AIは大量のフィードバックデータからトレンドを即座に抽出できるため、タイムリーなモチベーション管理が実現します。
- キャリア成長機会の提供: 社員が会社にエンゲージして離れず成長していくためには、キャリアの展望を持てることが重要です。AIは社内の公募情報やプロジェクト情報と社員のスキル・志向をマッチングさせ、適切な挑戦機会を提案できます。たとえばタレントマネジメントシステムに「新規事業に興味がある人」と入力すると、AIがデータベースから該当社員を見つけ出しアサイン候補として推薦してくれる、といった使い方です。社員からすれば、自分でも気づかなかったキャリアパスの選択肢が提示されることで新たな目標が生まれ、仕事への意欲向上につながります。IBMでも「スキルを文化の中心に据えるべきだ」とCEOが語っているように、社員のスキルアップと社内異動を積極支援することがエンゲージメントを高める鍵となります。AIがそれを後押しすることで、社員の成長支援とエンゲージメント向上を両立できます。
- コミュニケーション活性化とフォロー体制: AIチャットボットや社内SNS解析は、従業員同士や従業員と会社のコミュニケーション活性化にも寄与します。チャットボットがいつでも相談相手になることで、特に新入社員やリモートワーカーも孤立しにくくなります。上司向けのAIコーチングツールでは、「部下Aさんが最近ストレス傾向です。1on1ミーティングで話を聞いてみましょう」などマネジメント上の気づきを通知してくれるものもあります。これにより現場マネージャーが適切なタイミングで声かけ・フォローを行え、信頼関係の構築やエンゲージメント維持に役立ちます。総じてAIは、データに裏付けられたタイムリーなコミュニケーション支援を行うことで、従業員が安心して力を発揮できる職場作りをサポートします。
以上のように、AIを活用することで従業員の状態を可視化し、個別最適なアプローチでエンゲージメント向上と離職防止を図ることが可能です。ただし、プライバシーへの配慮や人間らしい共感の要素も忘れずに、AI+人間のハイブリッドな人材マネジメントを行うことが成功のポイントと言えます。
おすすめの人事系AIツール
最後に、人事部門でのAI活用を支援する主要なツール・サービスを紹介します。採用、エンゲージメント分析、タレントマネジメント、離職防止など目的別に優れたAI搭載の人事ツールをいくつかピックアップします。
- タレントパレット(Talent Palette) – プラスアルファ・コンサルティング社: 従業員のあらゆる人事データを一元管理し、人材の見える化と活用を支援するタレントマネジメントシステムです。離職防止、人材ポートフォリオ分析、リスキリング支援など人事に必要な機能をオールインワンで備えています。特徴は生成AIを活用した分析機能で、ダッシュボード上の人材データに対しプロンプトを入力するとAIがスキル習得状況や組織全体のレベルを解析し、解説文を自動生成してくれます。またAIによる人材検索機能も強力で、「〇〇の経験がある人」等の条件を入力すると、データベースから適任者をマッチング抽出できます。適材発掘や配置のミスマッチ防止に役立つでしょう。
- Wevox(ウィボックス) – アトラエ社: 組織エンゲージメント可視化ツールの代表格です。定期的なエンゲージメントサーベイやカスタムアンケートで従業員の声を収集し組織状態を見える化します。AI搭載の分析機能により、社員一人ひとりのサポート優先度を判定し、個人特性に合った打ち手(フォロー施策)を具体的に提案してくれる点が特徴です。さらにAIとチャットで対話しながら「分析や改善策の相談」や「レポート出力依頼」も可能で、レポーティング業務の効率化にもなります。SlackやTeamsなど外部ツールとも連携可能で多言語対応しており、グローバル企業の組織力向上にも活用されています。
- ミキワメ – リーディングマーク社: 採用と従業員定着の双方で役立つユニークなサービスです。適性検査と従業員サーベイを組み合わせており、まず採用段階で候補者の性格傾向・価値観を分析して活躍できる人材かを見極めます。入社後も定期的に社員の心理状態や満足度を測定し、蓄積情報をAIが解析して各社員に合った最適なマネジメントやケア方法を提示します。例えば「Aさんは論理的に指示されると動きやすいタイプ」等をAIが教えてくれるため、上司は部下ごとに管理スタイルを調整できます。主観では捉えきれない本音部分を客観データで補完し、採用ミスマッチ防止と離職防止に繋げるツールです。
- パルスアイ(PULSE AI) – ジャンプスタートパートナーズ社: 従業員アンケートによる組織診断と、離職リスク分析に特化した組織改善ツールです。定期的にパルスサーベイ(簡易アンケート)を行い、仕事の充実度・人間関係・健康状態などをスコア化して組織力の向上に役立てます。AIによる「退職リスク判定」を搭載しており、勤怠・業務・健康など様々なデータから社員それぞれの離職予兆を検知し数値化します。「退職予兆捕捉率○%」のようにリスクレベルが表示されるほか、AIチャットボットに相談するとアンケート結果に基づいたアドバイスをくれるAIメンター機能もあります。さらに離職リスク以外にも組織コンディションやエンゲージメント指標をダッシュボード管理でき、人事担当者が効率よく手を打てるよう支援します。
- SHaiN(シャイン) – タレントアンドアセスメント社: AI面接サービスの草分け的存在です。時間や場所を選ばずスマホ等で受けられるオンラインAI面接官で、対話型の質問に候補者が答えると、AIが内容を分析して評価レポートを生成します。300種類にも及ぶ質問テンプレートからAIが適切なものを選んで質問を投げかけるため、短時間で網羅的なヒアリングが可能です。導入した松屋フーズでは、店長候補の昇格試験で評価基準の統一と人事負担軽減に役立てました。面接官による評価のばらつきを無くし、候補者の特性を客観的に把握できるツールとして、新卒採用から社員登用試験まで幅広く利用されています。
- AIチャットボット「hitTO」 – ジェナ社: 人事部門向けに特化した社内向けAIチャットボットです。人事・総務に寄せられる問い合わせ対応の自動化に強みを持ち、「〇〇の申請方法を教えて」「△△制度の対象は?」といった質問に24時間即時回答します。FAQデータや社内規程を読み込ませておくことで、人事担当者が対応しなくてもAIが標準的な回答を提示します。ホクト社での導入例では、人事部門の問い合わせ対応負荷が下がり、その分戦略人事や従業員支援策にリソースを割けるようになったとのことです。テレワーク下でも社員が気軽に質問できる環境を整え、従業員の疑問解消スピードが上がることで制度の利用促進やエンゲージメントにも寄与します。
以上、代表的な人事系AIツールを紹介しました。この他にも、社員の感情解析AI「Empath」や、求人票作成を支援する「Textio」(求人文面のAIチェックツール)、社内公募マッチングプラットフォーム「Gloat」など海外発の先進ツールも登場しています。自社の課題に合わせて適切なツールを選定し、現場の受け入れ態勢を整えた上で導入することが重要です。
まとめ: 人事部門におけるAI活用は、採用から育成、労務まで幅広い領域で進んでおり、業務生産性の向上(作業効率化と戦略業務へのシフト)、エンゲージメント向上(データに基づく適切なフォローと動機付け)、離職率改善(予兆検知と早期対応)、人材成長の支援(個別最適な学習・キャリア機会提供)といった効果をもたらします。AIを上手に活用することで、人事担当者はデータドリブンな意思決定が可能になり、従業員一人ひとりに目を配ったきめ細かな人材マネジメントを実現できます。ただし、テクノロジーに頼りきりになるのではなく、人間の判断やコミュニケーションとのバランスを取ることが成功のカギです。AIの提案を人事のプロが吟味し、社員と対話しながら施策に反映させることで、初めてAIの真価が発揮されます。人事領域でも今後AIは不可欠なパートナーとなっていくと考えられますが、その力を最大限引き出すために、人事担当者自身もデータリテラシーを高め、AIと協働できるスキルを身につけていく必要があるでしょう。
