日本の人事制度は、欧米の影響を受けて変化するものと言われています。欧米での人事評価制度に変化が起きると数年を置いて日本企業の制度にも大きな変化の波が訪れます。では、ここ最近の欧米の人事評価制度の動向はどのようになっているのでしょうか。本記事では、日本と欧米の人事評価制度の違いから、欧米の特徴について解説しています。人事評価制度の変化については、さまざまな情報がありますので、自社における人事評価制度を見直す際には、それらの情報も活用し実践していきましょう。
人事評価制度の違い
最初に日本と欧米での人事評価制度の概念の違いについて見ていきましょう。現在では、どのような違いがあるかについて理解をし、今後、訪れる人事評価制度の変更を予測することは大事なことです。人事評価制度の違いを理解し、取り入れられる概念についての検討を行ってみましょう。
日本での基本的概念
年功序列制による人事制度が変わり、現在は能力主義と言われている国内での基本的概念は、成果主義です。業績に対しての貢献度合いに比例して評価していくことが現在の主流の概念です。プロセス評価も徐々には増えているとは言われていますが、目標に対しての結果(業績、貢献度)により評価ウエイトが高く、それに応じた昇給、昇進が実施されています。通常、年間や四半期、月間での目標を設定しその達成度合いを人事評価につなげる流れです。
変化する欧米での概念
従来、欧米でも成果主義として業績主義や貢献度に重点をおいた評価制度を設けていました。しかし、2010年頃からこの成果主義に変化が訪れています。従来の成果主義の一部を廃止する動きです。主に、年次で行う評価、ランクによる評価を廃止したノーレイティングでの評価を取り入れる企業が増加しています。
※本記事で表記しているランク/ランク付けとは評語(SやA)や評点(55/100など)を意味しています。
欧米の人事評価の特徴
欧米の人事評価制度には、日本とは異なる特徴があります。その特徴は、主に2つあります。欧米では、この特徴を元にノーレイティングを導入しています。
リーダー層と一般社員は別基準
まず、評価についてはリーダー層や一般職については別基準を設けて実施している点です。ポジションに応じて、実施すべきこと、責任の範疇は異なります。置かれているポジションに応じた評価を行うことこそ、本当の評価になるという考え方です。この考え方は、国内でも採用されている企業もあり、国内においても実施する業務の難易度はポジションにより異なること、評価ウエイトの違いがあると考え採用されています。実際に営業部門の長は、部門全体の売上の達成度合いによる評価に対し新入社員の営業社員は自分の売上の達成度合いにより異なるなどの違いがあります。
ランク付けを止める動きが盛んに
ランク付けを行うことに意味はないという考え方も特徴の1つです。個々人が行う業務には違いがあること、それぞれの業務には違いがあること、求められる成果は異なることから評価軸が異なると考える考え方です。コンペの形式により成果を競うやり方は依然として残っていますが、ランク付けではなくあくまで個々人の成果を評価する考え方が主流となっていると考えておきましょう。
新しい考え方ノーレイティングとは
次に、欧米で導入されている新しい考え方「ノーレイティング」についてご紹介していきましょう。ノーレイティングの定義や、人事評価制度に導入することによるメリットとデメリットを通して、自社における取り入れが可能であるかを見極めていきましょう。
ノーレイティングの定義
ノーレイティングとは、直訳すると「NO Rate」つまり評価をしないという意味になります。数値やランクによる評価をしないという意味で使用します。従来からあったランクによる評価を実施しない人事評価制度を指し、ランク以外の項目での評価をすることを意味しています。実際には、上司との面談や社員同士の会話を通したコミュニケーションを通しての評価を実施していきます。
評価の際にはあらかじめ設けらた基準をもとに評価者による総合的な評価は行います。従来であれば、予算に合わせて評価を振り分けていたところを上司にあらかじめ付与している裁量権の中での評価となるのが一般的です。与えられた一定の範囲までであれば、評価者による昇給や昇格を認めることになるため、評価者への育成や基準、裁量権の設定は慎重に行う必要があります。
ノーレイティングのメリット
ノーレイティングを導入することで得られるメリットには、以下の様な項目があります。
メリット1|上司と部下のコミュニケーションの活性化
評価は面談を通して実施されるため、上司と部下との対話が重要になります。また、面談の場だけの対話ではなく日常で交わされる業務報告などの対話も評価基準となるため、コミュニケーションを今まで以上に取る必要性が生まれ、結果としてコミュニケーションの活性化に繋がっていきます。
メリット2|双方での納得度が高い
上司と常に交わす対話や面談を通して評価していくノーレイティングは、上司と部下の納得度合いが今まで以上に高いとされています。絶対評価であれば、AランクもCランクも付けることが必要でした。しかし、ノーレイティングではランク付けを行わないため、個々人の評価を付けることが可能になり、納得度の高い評価を付けることが可能になります。
ノーレイティングのデメリット
次に、ノーレイティングのデメリットについても解説していきます。どのような制度にも、メリットとデメリットがあることを意識しておきましょう。
デメリット1|管理職の負担が大きい
ノーレイティングは面談を通してコミュニケーションを取るだけではなく、日頃からのコミュニケーションが重要です。そのため、常に意識的にコミュニケーションを取り評価すべき項目をチェックしておく必要があると同時に、信頼関係を構築しておかなければ評価の納得度が下がる点から管理職の負担が従来よりも大きくなる可能性があります。
デメリット2|管理職のマネジメント力を高める必要がある
従来の評価制度のようにMBOシートなどを用いた取り決めがありません。結果として、どのような評価を行うかは上司次第となる側面もあるため、公平にかつ同じ観点での評価を行う点では、管理職のマネジメント力が必要になります。
ノーレイティングを取り入れる方法
次にノーレイティングを自社に取り入れる際の方法について解説していきます。実際にノーレイティングを導入するために行うべき項目を確認し、自社の取入れの実施計画に反映していきましょう。
社内への周知
ノーレイティングを導入するには最初に社内への周知を行う必要があります。自社の周知と理解を促すことが、人事評価制度を変更する上では、最も重要なことです。実際に評価を受ける従業員にとっては、自分がどう評価されるかは最も関心が高い項目の1つです。だからこそ、丁寧な説明と理解を促すことが必要になります。この工程を荒く行ってしまうことは、評価後の不満につながりますので、時間をかけて丁寧な周知と理解を促していきましょう。
就業規則の改訂
就業規則の改訂も必要な項目の1つです。就業規則には、別紙として評価制度の基準などを明確に記載しているものを準備している企業が多くあります。こうした評価基準の見直しやルールについても改訂を行い従業員への周知を行うことが必要です。就業規則や評価基準は従業員への説明義務があるため、法的側面からも手を抜くことができない項目になります。また、ルールを明確にすることは、実際の導入を行った際のマニュアルにもなりますので、記載項目の整備はしっかりと行う時間を設けて対応していきましょう。
評価制度の見直し
実際に評価制度の見直しを実施します。明確なルールをマニュアルや就業規則に明文化している内容を元に改訂を行います。この見直しを行う際には、実際に評価する側、評価される側の育成も同時に行う必要があります。評価制度の見直しは、いつからであるのか、どの時期の評価制度から適用されるかなども明確なスケジュール化を行い対応を行っていきましょう。
管理職の意識改革と育成
評価を行う管理職の意識改革と育成も重要です。従来の評価基準ではないこと、日常の対話をどう行うべきか、評価にどう反映するのかなどを明確にし、意識改革を行う必要があります。また、必要に応じて管理職の育成を行うことも検討する必要があり、コミュニケーション力が不足している場合や、報告の受け方などについての育成も検討しておきましょう。
ノーレイティング導入事例
最後に、実際にノーレイティングを導入している企業をご紹介します。どういった企業が制度を導入しているかを知ること、先行事例を学ぶことで自社における導入のヒントを得ることが可能になります。
アクセンチュア株式会社
コンサルティング会社大手企業であるアクセンチュアでは、早い時期からノーレイティングを導入しています。アクセンチュアでは、「パフォーマンス・アチーブメント」と呼ばれるオリジナルの評価制度を導入しています。この制度では、社員自らが自分自身のキャリアに沿った目標設定を行います。会社としては、その目標にサポートする形を取ることでキャリアに沿った目標到達を実現します。サポート方法には、適切なフィードバックを受けて反映する事、評価者のコーチング研修への参加やチームとの連携方法のサポートなどの場を通してリアルタイムでの成長を促しています。
アドビシステムズ株式会社
フォトショップやイラストレーターなどで有名なソフトウェア開発大手のアドビでもノーレイティングを導入しています。評価者と部下のリレーションシップを通じてそれぞれの社員が成長する人事制度を構築するというコンセプトで制度を導入しています。具体的にはランク付けの廃止、給与や評価などの決裁権をマネージャーにシフトするなど、従業員のモチベーション管理にもつなげています。
まとめ
本記事では、欧米の事例をもとに日本の人事評価制度の違いや新しい考え方であるノーレイティングについての解説を行っています。人事評価制度は、時代とともに変化を行うものです。本記事を参考に自社の人事評価制度の見直しを行うきっかけとして頂き、より企業が成長する人事評価制度作りを実践してください。