類まれなる高品質の顧客サービスを提供し続け、ホテル業界の中でも別格として扱われているブランド、それが「ザ・リッツ・カールトン」です。

元は、1898年にパリで創業した「ホテル・リッツ」が起源であり、合併、買収を経験し、今はマリオット・インターナショナルの傘下として、世界各地でホテルを展開しています。日本では、1997年に大阪で、2007年に東京で、リッツ・カールトンをオープンさせ、ES(従業員満足度)を重視した経営スタイルをとりつつ、非常に高いCS(顧客満足度)を獲得し続ける好事例として注目を浴びています。ザ・リッツ・カールトンは、高いESとCSを獲得しているだけでなく、業績も確実に伸ばしているのです。

本日は、ザ・リッツ・カールトンが、ここまで躍進した理由はご紹介したいと思います。

”我々かくあるべし”を明確に伝える

お客様に絶対に「ノー」と言わない
驚くべきは、接客の際にお客様に対して「ノー(できません)」と言わないことを徹底している点です。例えば、満室の際に予約の問い合わせがあれば「近くのホテルをご紹介します」と逆提案し、レストランのオーダーストップ後にお客様が来店した際は、オーダーストップ後も食事を提供するなど、お客様の求めている期待に応える努力を必ずします。

・最高のサービスであることを明らかにする。
ザ・リッツ・カールトンのサービス料は、13%です。一般的にホテルでサービス料を取られたとしても10%というのが普通だと思うのですが、リッツ・カールトンの場合はその相場に3%上乗せしているのです。これはお客様に対して「我々のサービスは最高である」というメッセージを送ると共に、従業員に「我々は最高のサービスを提供する義務がある」というメッセージを送っています。

・ESを高め、CSを高めることが、売上(利益)につながるという信念
ザ・リッツ・カールトンは、ESとCSを高めることが、自社の利益につながるという明確な信念を持っています。そして、CSを高めるのは、お客様と接する従業員であり、従業員満足度を高めることが顧客満足度を高めることにつながると考えています。ゆえに、年に数回、全世界同時でES調査を行い、各ホテルで適切なマネジメントが行われているかを検証しています。

人材に対する投資が、高いCSを創る基盤になる

・自社にふさわしい人間だけを採用する
ザ・リッツ・カールトンでは、「クオリティ・セレクション・プロセス」という心理テストを採用プロセスに設けており、接客・事務・営業など職種ごとに異なるテストを受けさせ、科学的アプローチを用いて職種に適した資質を持っている人材だけを選抜しています。アルバイトや契約社員など雇用形態によらず、同一の要件を求めています。

・リッツの基本理念を徹底的に叩き込む
新入社員はもちろん、パート、アルバイトも現場に入ってまず行うことは、クレド(サービスの基本精神が書かれているカード=リッツ・カールトンの経営哲学)の勉強です。丸2日間かけて、リッツ・カールトンのクレド=信条が何かを伝え、共感・理解させるのです。そして、現場で働き始めてからは、初年度は300時間のトレーニングを施します。現場にてクレドの実践とは何かを、OJTを通して体感させ、伝えていくのです。

ESとCSを高める仕組み/仕掛けを築く

・スタッフの自尊心を高める
ザ・リッツ・カールトンでは、「ファイブスター制度」という褒賞制度があり、クレドを現場で実践した社員を対象に3ヶ月に一度5人選び、ファイブスター社員として褒賞するのです。選ばれた社員は、高い誇りをもって仕事をするようになるのです。

・CSを維持・向上させる責任と権限を現場に与える
ザ・リッツ・カールトンは、現場の従業員に対して大幅な権限委譲をしています。それは、お客様のCSを維持・向上していくためには、お客様と出会ったスタッフがその場の判断で、迅速に対応することが不可欠であると考えているからです。よって、クレドの中に「従業員一人一人は、自分で判断し行動する力を与えられています。」と明文化しており、一日最大2,000ドル(約20万円)の決裁権も与えられています。

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ザ・リッツ・カールトンの素晴らしいことは、卓越した顧客サービスを提供するための制度・仕組みを構築し、それらを全世界のホテル・マネジメントに展開しており、さらに全ホテルのサービス水準を統一化していることです。優れた支配人が一人いれば、単一のホテルであれば、素晴らしいサービスを提供することでしょう。しかし、世界20カ国、70を超えるホテルで、最高のサービスを提供するための方法論を確立している点は、他社からの模倣困難性という意味で、極めて価値の高いことだと思います。

参考文献:リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと/林田 正光