労働者の心身の健康を守るための対策の一つとして導入されたのが、「ストレスチェック」。2015年より一定規模の事業所では実施が義務付けられました。
ストレスチェックとはどのようなものなのでしょうか。
義務化の背景や実施の流れ、注意しべきポイントまで詳しく解説します。おすすめのストレスチェックサービスもご紹介いたします。
ストレスチェックとは
ストレスチェックとは、労働者が自身のストレスの状態を把握するために行う検査。
調査結果は、労働者のメンタル不調を未然に防ぐことだけでなく、心身ともに健康に働ける職場環境への改善にも役立てることができます。
2015年12月に義務化されたストレスチェック。どのようなことが企業に義務付けられているのでしょうか。また、義務化された背景や目的についてもみていきましょう。
年に1回の実施
労働者が50人以上いる事業所は、年に1回、ストレスチェックの実施を行わなければいけません。
50人未満の事業所は、今のところ努力義務とされています。厚生労働省の「3分でできる職場のストレスセルフチェック」(*1)は簡易版ですが、しっかりとした結果が分かります。
短時間で行えるのでおすすめです。
高ストレス者のフォロー面接
ストレスチェックの結果、高ストレスとなった労働者から申し出があった場合には、産業医などの医師による面接指導を実施します。医師の意見を参考に、仕事量の調整や部署移動などの就業上必要な措置を講じましょう。
結果の分析と職場環境改善
ストレスチェックの結果は職場環境改善にも活用できます。部・課・グループなどの一定の集団ごとに分析を行い、どの集団がどのようなストレスをかかえているかを数値化できます。集計・分析をもとに、働きやすい職場環境へ改善することは、労働者の健康を守ることにつながるでしょう。
ストレスチェック義務化となった背景
ストレスチェックが義務化となった背景には、メンタルヘルス不調による労災認定となる労働者が増加傾向にあることがあげられています。
厚生労働省が令和2年に発表した「労働安全衛生調査(実態調査)」(*2)によると、現在の仕事や職業生活において、強いストレスや不安を感じることがある労働者の割合は全体の54.2%。半数以上の労働者が何らかの不安や悩みを抱えながら日々の業務を行っている現状といえるでしょう。
このように、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐ手段として導入されてたのが、ストレスチェックです。
ストレスチェック実施の目的
ストレスチェック実施の目的は、労働者と事業主の双方にとってメリットがあります。
仕事が原因のメンタルヘルスの不調は、本人では気づきにくいもの。ある日突然、会社へ行けなくなることで初めて、自身がストレスを抱えていると分かっては問題です。労働者がストレスチェックをきっかけに、セルフケアをおこなったり、医師との面接をするなどして、積極的にストレスの軽減へつながる行動へ促すことができるでしょう。
集団分析による職場環境の改善の対処で、労働者のメンタルヘルス不調による休職を防げたり、優秀な人材の離職を阻止できたりと、事業主にとっては業績の生産性向上へとつながるでしょう。
対象となる事業所と労働者
ストレスチェックの対象となる事業所と労働者について理解しておきましょう。
事業所ごと
「労働者が50人以上いる事業所」とは、どういう意味なのか気になる人もいるでしょう。
これは、1つの事業所に50人以上ということです。
「B事業所は10人だけど、A事業所は50人いるから、うちの会社は全員ストレスチェック対象だ」と思いがちですが、これは不正解。
この場合、A事業所は実施義務がありますが、B事業所は努力義務です。
つまり、企業ごとで考えるのではなく、1つの事業所単位で50人以上であるかどうかが実施する判断のポイントとなります。
労働者とは
ストレスチェック対象の労働者とは、契約社員やパート・アルバイトも含まれます。
ただし、契約未満が1年未満であったり、労働時間が正社員の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は対象外となるので注意しましょう。
では、派遣社員は対象となるのでしょうか。これは、ストレスチェックを実施するときに悩むポイントです。
結論から言いますと、派遣社員も50人以上の事業所で働いているのであれば、ストレスチェックを実施しましょう。
派遣元・派遣先の両方で行うことが好ましいです。派遣元では個人のストレス調査を行い、、派遣先では集団分析を行います。
ストレスチェックの実施の流れ
ストレスチェックをスムーズに行うために、流れを理解しましょう。
実施前の準備
ストレスチェックを実施する前に、「いつ」「だれが」「どのように」といったストレスチェックの方針について社内ルールを決める必要があります。
厚生労働省の「ストレスチェック導入ガイド」には、ストレスチェック実施前に決めなければならない8つの項目が発表されています。(*3)
1.ストレスチェックは誰に実施させるのか。
2.ストレスチェックはいつ実施するのか。
3.どんな質問票を使ってストレスチェックを実施するのか。
4.どんな基準でストレスの高い人を選ぶのか。
5.面接指導の申出は誰にすれば良いのか。
6.面接指導はどの医師に依頼して実施するのか。
7.集団分析はどんな方法で行うのか。
8.ストレスチェックの結果は誰が、どこに保存するのか。
8つの項目を参考にストレスチェックの方針が決定したら、社内規定などに明文化し、労働者へ周知を行いましょう。
ストレスチェックを行う時期は、期の半ばに行うことをおすすめ。4月は新入社員の結果が高ストレス気味になったり、繁忙期では社内が殺気だっているといった、1年のうちにイベントがある時期での調査では、正しい結果が導き出せない恐れがあります。
実施
調査票を配布して、労働者に記入してもらいます。調査票には、3つの項目に絡んだ質問を含まなければいけません。
<必須内容>
①心理的な負担の原因にかんする質問
②心理的な負担による心身の自覚症状
③労働者に対する周囲のサポート
「心理的な負担」を「ストレス」として置き換えれば、質問項目を考えやすくなります。
調査票の配布は誰がおこなってもかまいませんが、回収するときは、ストレスチェック実施者か実施事務従事者が行うようにしなければいけません。
個人の回答が他の人に見られないように注意が必要です。
本人に結果の通知
実施者が直接本人へ結果の通知を行います。ここでのポイントは、企業には結果が通知されないことです。結果の内容を入手したい場合は、労働者の同意を得る必要がありますが、必ず、本人への結果通知後でなければいけません。結果を企業内で保管することも可能です。
鍵のかかるキャビネットやサーバーなどの、第三者の閲覧を防止するための対策が必要。鍵やパスワードは実施者が管理を行います。
産業医の面接指導
高ストレス者の労働者から医師との面接指導の申し出があったら、1ヵ月以内に面接を行えるように医師と労働者のスケジュール調整を行いましょう。
産業医へ面接の依頼をおすすめします。普段から付き合いのある産業医ですと、その企業の特徴も把握した上でアドバイスをしていただけます。また、定期健康診断の結果表も診ていただいているので、健康診断の結果と併せてメンタルケアをおこなえるなど、心身ともに労働者の健康のフォローができます。
産業医の選び方
産業医を決めるとき、「どこに相談するのか」「良い産業医の選び方」「かかる費用」などが気になるところでしょう。
医師会や健康診断を依頼している医療機関に相談する方法もありますが、会社の近隣で社員が利用しているクリニックの先生に相談するのがよいでしょう。その先生が産業医の資格者であれば、なおよいです。近隣であり、顔見知りの先生であれば、隙間時間に面接を行うなどの日程調整がスムーズに行えますし、社員も安心して話すことができます。
良い産業医と巡り合うには、企業と労働者、両者の意見を中立の立場で耳を傾けられることと、快適な職場環境への改善を考えてくれるといった、企業に寄り添った姿勢があるかを見極めることがポイントとなります。
費用に関しては、地域や企業の規模で変わりますが、公益社団法人 日本橋医師会(*4)を例にとってみると、50人~399人規模の企業では、報酬月額は100,000~200,000円となっています。
高ストレス者が発覚したとき
高ストレスと判断された労働者から希望があれば、医師との面接をおこないます。そもそも、高ストレス者とは、何を基準にして判断しているのでしょうか。高ストレス者の選定方法や面接に関してのポイントを解説します。
高ストレス者の定義と選定方法
ストレスチェックでの高ストレス者とは、自覚症状が高いことや、自覚症状がある程度あり、ストレスの原因や周囲からのサポート状況が著しく悪い人のことを指します。
調査票の下記2つの項目のいずれかの評価点数が著しく高い労働者を高ストレス者として選びます。
<高ストレス者選定項目>
①ストレスよる心身の自覚症状に関する項目
②上記項目かつ、職場での周りからのサポートに関する項目
優先して判定すべきは、ストレスで何らかの自覚症状が出ている労働者です。自覚症状を認識している人は、長期的なストレスを抱えている可能性があります。また、自覚症状はないものの、周りからのサポートが得られないと感じている人は、孤独感からメンタルヘルス不調になってしまうこともありますので、見逃さないようにしましょう。
面接指導の内容
面接指導の目的は、高ストレス者の精神やメンタルヘルス不調を未然に防ぐことですので、高ストレス者から申し出があった時は、速やかに実施しましょう。
該当の労働者の勤務状況・業務内容・定期健康診断結果を面接を行う医師に事前に提出することで、高ストレスと判定された労働者の労働環境や労働状況を正確に把握でき、面接指導に活かすことが可能となります。本人への指導・助言に加えて、職場内で実施できる対応策を検討し、ストレスを軽減することを目指すための面接指導をします。
面接を申し出しやすくするためには
面接を受けたくても、何らかの理由で申し出を躊躇して諦めてしまう人も少なくありません。面接者を1人でも多くするためには、面接を申し出しやすくなる工夫が必要です。
申し出方法として、オンライン受付を取り入れるのはいかがでしょうか。直接顔を合わせることなく申し出ができるので、申請へのハードルが低くなるでしょう。
また、面接のために職場を離れることで、自分が高ストレス者だと周りに知られることを恐れる人もいます。その場合は、セルフケア方法の案内や社外の相談窓口を紹介してあげてください。
多少、手段が違ったとしても高ストレス者のメンタルヘルス不調を回避できるようなフォローを行うことが重要です。
ストレスチェック結果の活用方法
ストレスチェックの結果を職場環境改善に有効活用するためには、集団分析が重要となります。
集団分析を行う
ストレスチェックの結果を一定の規模の集団ごとに集計・分析を行います。分析の結果、どの部署にストレスが集中しているか、またどのようなストレスを抱えているのかが明らかになります。原則として、10人以上の集団を分析の対象とします。人数が少ない集団で分析を行うと、個人を特定できてしまう恐れがあるためです。しかし、10人未満の場合でも全員の同意があれば実施してもかまいません。
職場環境の改善
集団分析により、職場の問題点が把握できたら、職場環境改善に努めましょう。
仕事量の偏りは分散することで労働時間の短縮につながりますし、職場でのコミュニケーションを積極的に行えば孤立感から抜け出すこともできます。また、有給休暇が取りやすい環境が整っていれば、リフレッシュする機会にも恵まれます。
集団分析は努力義務ではありますが、職場ごとのストレスの状況を把握し、職場改善を図ることで、労働者の定着率をあげる効果もあります。企業の将来の発展にも大きくかかわってくることでしょう。
ストレスチェック実施の注意点
ストレスチェックは個人情報を含むことと、義務化になったことから注意すべき点がいつかあります。
個人情報保護
ストレスチェックの結果や個人面接結果は、労働者のメンタル状況が分かるため、個人情報保護のためにも守秘義務は徹底しましょう。守秘義務に違反した場合は、罰則の対象となります。個人情報を不正に扱ったり、本人の同意もなく結果表を上司や事業主に公表してはいけません。
不利益な扱い
ストレスチェックを受診しなかったり、面接を拒否したりといった労働者を不利益に扱ってはいけません。また、ストレスチェックの結果を理由に、不利益に扱うことも禁止されています。高ストレス者に対して、解雇や退職を促す行為等が当てはまります。
労働基準監督署への報告
労働基準監督署へストレスチェック実施状況報告も義務付けられました。所定の様式を用いて、ストレスチェック実施結果と高ストレス者の面接指導実施結果を報告しましょう。
ストレスチェック未実施だったり、状況報告を怠ると50万円以下の罰金を支払う義務が課せられます。
ストレスチェックを有効に活用しよう
ストレスチェックは高ストレス者を見つけることが目的ではなく、ストレス状況を企業と労働者がそれぞれに把握し、改善・対策に役立てる手段として行います。
ストレスチェック導入が初めての方やうまく運用出来ていない方には、外部のストレスチェックサービスを導入することもおすすめします。パルスアイのストレスチェックサービスでは、調査票の配布から高ストレス者の面接申し出まで全ての工程がオンラインで行えます。
また、個人結果や集団分析はカラフルな画面に工夫されており、面接指導の記録も行えますので、オンライン上で結果を保管できペーパーレス化につながります。なによりも、プライバシーが守られていることが魅力的なシステムです。
労働者の心理的負荷を軽減し、働きやすい職場環境への改善を目指して、ストレスチェックの実施を忘れずに行いましょう。
参考資料
(*1)3分でできる職場のストレスセルフチェック(簡易版)|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(自殺対策を含む) /厚生労働省
(*2)労働安全衛生調査(実態調査)/厚生労働省
(*3)ストレスチェック制度導入ガイド」/厚生労働省
(*4)産業医報酬基準額について/公益社団法人 日本橋医師会