「従業員エンゲージメントに力を入れつつ、成果を出すのは難しいんだよな。先進企業はどうやっているんだろう」というような疑問はないでしょうか? 

今回は、Drucker Instituteが2020年に発表したManagement Top250の企業の中で従業員エンゲージメントがNo2に輝いたセールスフォース社の研究です。セールスフォースでは、営業組織の従業員エンゲージメントとパフォーマンスの両方を高める役割を持つ「セールス・イネーブルメント」という支援組織を有しています。今回は、セールス・イネーブルメントの役割と具体的な活動内容について解説します。

従業員エンゲージメントを強化しつつ、高い売上成長率を維持

企業向けのCRMソリューションを提供するセールスフォース(Salesforce.com)は、Great Place to Work(R) Instituteの発表する働きがいのあるグローバル企業ランキング1位に選出されており、従業員エンゲージメントを強化しつつ、毎年+20%以上の売上成長率を維持しています。

出所:strainer

その成長の裏側には、セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)という組織があり働きやすい環境を整えつつ営業を中心としたコアな組織の成長をサポートしているのです。

セールス・イネーブルメントとは?

セールス・イネーブルメントとは、営業組織の能力開発を助ける組織のことです。

セールスフォースでは営業の活動が特に会社の売上に直結することから、営業にフォーカスしてこの組織が作られたため、営業(Sales)を、できる組織にする(Enablement)ための組織という形になっています。

ただ、実際にはセールスエンジニアも対象にトレーニングが組まれることもあり、対象範囲は広がっています。

では、そのセールス・イネーブルメントの組織はどんな目的で、どんな役割を果たすものなのかをみていきましょう。

目的は、営業組織全体が継続的に売上目標を達成できる状態を作ること

セールス・イネーブルメントの目的は、営業組織全体が継続的に売上目標を達成できる状態を作ることです。

その目的を達成するために、セールス・イネーブルメントは営業プロセスを数字で把握し、もし予定どおり売上が上がらない場合、何が原因かを分析し、改善させる役割を担います。

ただし、現場にプレッシャーをかけるような立ち位置ではなく、トレーニングの実施やマネジメント手法の見直しなど、仕組み作りで組織の継続的な成長を目指すのが特徴です。

なぜこのような特徴があるか?更に確認しましょう。

セールス・イネーブルメントは営業の働きやすさと成果創出の両立を支援

セールス・イネーブルメントが仕組み作りで組織の成長を目指す理由はセールス・イネーブルメントの目的が継続的に売上達成できる組織にすることだからです。

現場の営業担当者にプレッシャーをかけて頑張らせる、というやり方ではプレッシャーがなくなったタイミングで売れなくなります。また、過度のプレッシャーのせいで離職率が高まると、人員不足が原因で売上達成から遠ざかってしまうデメリットもあります。

そのため、例えばインサイドセールスの動きが悪いなら、プレッシャーを欠けるのではなく、最適なアポイント取得の研修講座を開いたり、成果の出ているメンバーの動きを分析し、社内で共有する等の施策をとります。

結果として、ポジティブな雰囲気を醸成して働きやすい環境を作りつつ、組織全体が成果をあげる状態に近づけることができるわけです。

セールス・イネーブルメントは、多様なバックグラウンドを持つ人材で構成

セールス・イネーブルメントには現状分析・人材開発・営業プロセスの理解など幅広いスキルが必要のため、求められる人材も多岐に渡します。

具体的には、セールス・イネーブルメントは以下のようなバックグラウンドをもったメンバーで構成されています。

  • コンサルティングファーム経験者
  • コーチング会社経験者
  • 人事経験者
  • 経営戦略経験者
  • 営業経験者
  • SE経験者

セールス・イネーブルメントが戦略立案・人材開発・人事施策に強みをもつメンバーから構成されているのがわかるでしょう。

こうしたメンバーを揃えることで、現状把握・課題の分析・改善施策の実行まで、営業を経験したメンバーの実体験も踏まえながら対応できるわけです。

セールス・イネーブルメントの具体的な活動は?

それでは、具体的にセールス・イネーブルメントがどのように営業組織に対して支援をしているのかをみていきましょう。

現状の分析からスタート

セールス・イネーブルメントの活動は、営業部隊の現状分析から始まります。

なぜなら、正確な現状分析ができなければ効果のない施策を実行することになったり、施策後の成果検証の精度が落ちるからです。

これに対してセールスフォースでは、営業プロセスが細かくCRMツールに記録されているため、詳細な分析ができるようになっています。

例えば、リード獲得・訪問・提案・クロージングなどの営業フェーズで、失注したタイミングをトラッキングしていて、改善すべきフェーズを明確化できるわけです。

このように数字で把握しつつ、ヒアリング等を行い社内の現状確認をするなどリアリティのある分析を心がけているようです。

現状分析ができたら、次に行うのはトレーニングの実施です。

課題解決に最善なトレーニングを実施

セールス・イネーブルメントは、現状把握をした後、主にトレーニング施策を実施し、営業組織全体の成長を目指していきます。

もしクロージングフェーズが課題となっていれば、クロージングに関するトレーニングを行ったり、マネージャーにクロージングの同行を徹底させるなどの対応をするわけです。

このように、現状の問題点を組織全体で改善できるように仕組み作りを進める立ち位置にあるわけです。

施策の結果を中期的に判断して再分析へ

最後に営業成績を確認して成果に結びついているかを判断するわけですが、ここでも狙ったポイントが改善しているのか、営業フェーズでみていきます。

つまり、クロージングで失注しているのが課題であれば、成約率がどの程度改善されたかを把握するわけです。

更に、トレーニングコンテンツの充実も必要なので、受講したメンバーに毎回アンケートを行い効果分析していきます。

一度実施したトレーニングは、当面の間、定期開催することで組織全体の理解度を高めていく方針が取られます。そのため、コンテンツの充実度をチェックして年々、効果を高める努力をしていくのです。

セールス・イネーブルメントはどんなトレーニングを提供するか?

それでは、具体的にどんなトレーニングを行なっていくのかをみていきましょう。

課題感やキャリアプランに応じた研修の実施

セールス・イネーブルメントが提供するトレーニングは、経験の浅いメンバーからベテランの方まで網羅的に支援する内容が配置されています。

例えば、インサイドセールスだと社会人経験の浅いメンバーもいるため、ビジネスマナーやビジネスコミュニケーションのトレーニングまで行っています。

更に、外勤営業のメンバーには営業として達成するためのトレーニングも提供します。

一例として以下のような内容を提供されています。

  • 効果的な提案書の作り方
  • 注力すべき顧客の選び方
  • 効果的なクロージング方法
  • 顧客が納得する事例資料の使い方
  • 売上達成するための営業計画の立て方
  • 大きな案件を創出するための提案の作り方
  • 成果をあげているメンバーの営業手法シェア
  • ニーズ喚起するデモンストレーションのやり方

このように、細かいスキルを深掘りして提供することで、営業メンバーに十分な気づきを与え成果につなげるわけです。

ここまでで、営業メンバーに対してのトレーニングイメージをお伝えしてきましたが、セールス・イネーブルメントの提供するトレーニングはマネージャーにも及びます。

マネージャー向けコーチング

意外なセールス・イネーブルメント施策の一つがマネージャーコーチングです。

マネージャーコーチングとは、マネージャー向けにコーチングをすること。コーチングとは、コーチから「質問」をベースに仕事などの課題を整理し、解決策まで見出す支援をする施策です。

コーチングを通じて、マネージャーが自ら課題解決に辿り着く体験を通して人間的な成長にもつなげることができるわけです。

なぜこのような施策を打つかというと、マネージャーの強化が組織の底上げと従業員の働きやすさにつながるため、マネージャーの成長にフォーカスしているわけです。

例をあげてみましょう。

マネージャー配下に5人営業メンバーがいた場合、この営業チーム全体を強化する目的で個別のトレーニングをすると、5人に対して中期的にトレーニングが必要です。

しかも、営業メンバーは未熟なケースも多いため、いくつものトレーニングを組み合わせて指導しなければいけません。

一方で、マネージャーが部下育成スキルを高めることができれば、1つの営業施策で済むわけです。しかも、マネージャーはスキルが熟練しているため、細かいトレーニングは不要。そのためコーチングで能力を引き出す方針を取れば、効率的に営業組織を強化可能です。

また、マネージャーがコーチングを受けると、自分のマネジメントに応用でき、部下の積極性を重視したコミュニケーションを取るようになるため働きやすい環境につながります。

このように、セールス・イネーブルメントはマネージャーコーチングを行うことで組織全体の成長を目指しているわけです。

このように、営業メンバーからマネージャーまでトレーニングを行い、組織全体の底上げをしていくわけですが、どうしても成果の出ない方も中にはいます。

そんな時は、個別の施策も行っていくのです。

実案件の支援を行いOJT的な活動も実施

各種トレーニングを受けても、どうしても伸び悩み続けているメンバーに対しては、実案件の支援を行うことでフォローや難しい案件の手助けをします。

もしも成果の出ない営業メンバーだけではハードルの高い案件があれば積極的にフォローし、成約率の向上を支援するなど、伴走して助けに入るわけです。更に、メンタル面でのフォローまで行うことで、離職率を下げる働きもしています。

このように、営業組織だけではフォローしにくい部分までサポートすることで、働きやすさと成果の両立をさせる組織がセールス・イネーブルメントです。

まとめ:高成長と働きやすさの裏にセールス・イネーブルメントあり

今回はセールスフォースの働きやすさと売上成長を支えるセールス・イネーブルメントの組織について解説しました。

その本質的な取り組みは、「営業組織の地力を底上げするための仕組みづくり」であり、現状分析をした上でマネージャーコーチングや営業トレーニングを継続的に行っています。

中でも特徴的なのは、セールス・イネーブルメントの施策によって、営業担当者が働きやすい環境づくりも同時に行っていく点です。

セールス・イネーブルメントの活躍により、継続的な売上を達成しつつ、従業員エンゲージメントの向上にも努めているのです。

もし従業員エンゲージメントの強化をお考えの方は、このような専門組織を立ち上げるなどのダイナミックな施策も選択肢に入れるといいかもしれません。