2021年、株式会社メルカリが新たな人事評価制度を発表し、注目を集めています。新人事評価制度によってメルカリが目指すものは何か?メルカリが人事評価制度を変更した理由、メルカリ独特の評価の考え方などご紹介します。人事担当者や企業経営者にとっては、新たな指針や知見が得られることでしょう。

株式会社メルカリの企業概要

フリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運用を通じて、CtoCの商品流通を仲介している企業です。また、同様のビジネスとして、アメリカにおける「Mercari」を運営しています。さらに、「メルカリ」で培った技術力と膨大な顧客・情報基盤を基に、スマホ決済サービス「メルペイ」の提供を2019年2月に開始しています。

メルカリでは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッション(経営理念)を掲げ、そのミッションを達成するための方法論として、以下の3つのバリュー(経営方針)を掲げています。

・Go Bold(大胆にやろう) ・・・・・・・大胆にチャレンジすること。

・All for One(全ては成功のために)・・・・チームの力を合わせ、やるべきことを見極

                    め、決定したことに全員でコミットする。

・Be a Pro(プロフェッショナルであれ)・・一人ひとりがその道のプロフェッショナルと 

                    して高い専門性を持つ。

【参考】株式会社メルカリ公式ホームページ 「私たちについて」

旧人事評価制度からの変更の狙い

多様な人材の拡大への対応

メルカリが人事制度を変更した理由は、社員に多様な人材が登用されてきたためです。創業して数年の間は、いわゆるITベンチャー出身者が多く、同種類の人間間における暗黙の了解のようなコミュニケーションが評価の土台になっていました。

しかし、近年、メルカリでは、ベンチャー企業出身者の他に、グローバルテックカンパニーの出身者や、関連会社のメルペイでは金融業の出身者が多く入社するなど、様々なバックグラウンドを持つ人が納得しやすいグローバルスタンダードに近い評価制度が必要になってきていました。

ミッションの共感やバリューの明文化

メルカリが今回の変更で最も重視したのが、ミッション(経営理念)にもとづいた「バリュー(経営方針)の発揮」です。

組織や規模が大きくなるにつれて、経営理念や経営方針が浸透しにくくなるということは、多くの企業や業界で一般的に言われていることです。メルカリ自体に経営理念や経営方針が浸透しなくなったという事はありませんが、多様なバックグラウンドを持つ社員が増えるにつれて、「バリューの捉え方」に違いが生じてきました。例えば、Go Bold(大胆にやろう)というバリュー一つとっても、社員によって大胆さの定義がまちまちで、もっと具体的に明文化していく必要に迫られていました。

新人事評価制度の概要

従来のメルカリの人事評価制度では、設定された目標をどの程度達成出来たかという「総合評価」で社員を評価していました。

しかし、この評価方法では、どうしても数値化しやすい項目に評価が傾き易いという傾向にありました。

そこで同社の新制度では、評価の軸を「成果評価」と「バリューをいかに発揮したかという行動評価」に分けて評価するようにしました。成果評価は賞与に反映し、成果評価と行動評価の両方で昇給や昇格を判断するようにしました。

成果主義に偏重しない考え方

メルカリでは、学歴や社歴、国籍や性別に関係なく会社の業績や組織作りに貢献した社員を評価する「メリトクラシー」という考え方を採用しています。

一般的に、会社に対する貢献度は、数値化しやすく、短期的に出た成果やパフォーマンスで高評価されがちですが、メルカリでは、今の段階では結果は出ていないけれど、中長期的に見たチャレンジや、将来に対するリスクを取る行動など、「いかにバリューを発揮できたか」という点も重要視しています。

企業理念を絶やさないためのユニークな取り組み

企業の理念や経営方針は、企業の生存理由を示す、非常に大切なものですが、それが単なるお題目に終わっている企業も多く見受けられます。

その原因としては、理念や方針の浸透度を測る方法が無いからですが、メルカリではそれを人事評価制度の中心に巧みに取り入れ、維持向上させていこうとする姿勢が非常にユニークです。

さらに、業務で使用するチャットには、「Go Bold」、「All for One」、「Be a Pro」のスタンプ機能があったり、スタッフ同士でお互いの働きを称賛し、ちょっとしたお小遣いを贈り合う「mertip(メルチップ)」という制度を設けたりして、日常的にバリューを高め合う仕組みが用意されています。

多様性への対応

ダイバーシティへの対応「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」

さらにメルカリでは、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という指標も評価に加えました。メルカリは、もともと多様性の重要性は発信し続けていました。そもそも、同社では多くの消費者を相手にするビジネスを展開しています。自社の社員の多様化を強みとして、人種や年齢、性別を超えてさらに多様性を加速できるよう、評価指標にまで加えたのです。

多様な働き方への対応「YOUR CHOICE」

人事評価指標ではありませんが、同社では、2021年9月から、メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル「YOUR CHOICE」制度をスタートさせました。この制度は、全社員が出社の有無や働く場所を各自で選択できる制度です。

同社では、従来、対面での働き方を重要視してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大を契機として、多様な働き方を推奨するようになりました。このことは、同社の掲げるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)にも符合します。

メルカリ社員の新制度に対する反応

・エンジニア 途中入社 女性

エンジニアに対しては、自身の係るプロジェクトに対する強いオーナーシップが求められます。ただ与えられた事をこなす、自分の職務を超えたことはやらない、コミュニケーションはPMにまかせるといったことは全く推奨されません。その分、困難な達成困難なことにも積極的に挑戦することを勧められ、その結果が失敗に終わったとしても、「良い学び」として吸収し次の改善につなげていこうという、失敗を許容する文化が醸成されています。

・事業開発 男性

急成長をしたことで、ベンチャーと大手の狭間にあるある印象です。現場上がりの社歴の長い社員は昔を懐かしみ、「前はこうだった」と順応できない面もありますが、企業としては次のフェーズに行っており、ギャップが生まれることもあります。

・管理部門 途中入社 男性

バリューの浸透が至る所にあり、社員が呼吸するように無意識に体現している。ここまでベンチャー気質を保ちながら大企業に成長した稀有な会社。これから先、この自由な社風を維持しながら、上場企業としての期待に応えられるかが正念場。

【引用】openwork 「株式会社メルカリ」

まとめ

メルカリの新人事評価制度について、改定の理由、制度の概要、ユニークな維持方法などを説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

経営理念や経営方針は、企業活動の根幹であり土台ですが、象徴的で静的なものとして扱われがちな企業が多いのではないでしょうか。

メルカリでは、規模の拡大に伴い、評価制度をグローバルスタンダードに近づけながらも、あくまで同社のカルチャーを維持する仕組みを、評価制度の中に織り込んでいくことを実践しています。その考え方には、企業活動の土台を積極的に動的な「エンジン」として活用しようとする意図がうかがえます。このことは、経営者や人事担当者の方にも大きな知見が得られたのではないでしょうか?

【参照】株式会社メルカリ メンバーの活躍を“大胆に”報いる──大幅アップデートされたメルカリ人事評価制度の内容と意図