近年、働き方改革の一環として、大企業を中心にして社員に副業を推奨する動きがあります。未だ多くの企業が副業を禁止している中で、新しい働き方や、企業と社員の新たな関係として注目を集めています。副業の現状や、副業の背景、今後の副業とエンゲージメントの方向性などについて見ていきたいと思います。

現代の副業の現状

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働き方改革の一環としての副業の始まり

厚生労働省は、2018年1月、モデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項である「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」の部分を削除し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」という副業・兼業について規定を新設しました。

このことは、従来の副業に対する方針を大きく変えるきっかけになりました。この国の方針転換に、驚いた人も多かったことでしょう。

【参考】厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

最近の副業の現状

パーソル総合研究所(東京・港)が2021年8月11日に発表した、副業に関する企業動向の調査によると、正社員の副業を認める企業は55%で、2018年調査時点に比べて、3.8ポイント上昇したと報告しています。

副業を容認する内容については、「全面容認」が2018年に比べて比9.3ポイント増の23.7%、「条件付き容認」は5.5ポイント減の31.3%となりました。反面、「全面禁止」は3.7ポイント減の45.1%となっています。

容認する理由としては、「従業員の収入補填」という理由が34.3%と最も多かったようです。「禁止すべきものではないので」(26.9%)は18年から5.6ポイント上昇し、増加率が最も高かったとしています。

副業を容認する状況が加速化されていることが、分かります。

【参照】 パーソル総合研究所シンクタンク本部 「副業の実態・意識調査報告書」https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/assets/sidejob.pdf

災害を機にした副業の伸長

近年、世界中でまん延した新型コロナウィルスの影響を受けて、飲食・観光業界を中心として、業績が悪化した企業が多いようです。その結果、本業の収入が減り、副業を探さざるを得ない状況に陥った人も多いことでしょう。あるいはテレワークが急速に浸透する中、自宅のパソコン上で副業を発見し、開始した人もいるでしょう。

さらに、各地に起こる地震や津波、豪雨災害など、本業が継続できなくなり、副業を開始したケースも多くあることでしょう。リスクの発生がきっかけとなり、副業を開始することは、労働者にとってリスクヘッジの重要な手段となっています。

病気や災害の発生によっても、副業のニーズが高まっていることが分かります。

国や企業側の副業容認の背景

2017年まで、副業禁止を貫いてきた国や企業ですが、2018年以降、思い切った方針転換を図ります。しかし、実は副業を容認するのには、複数の背景がありました。

労働力不足

厚生労働省の推計調査によると、1990年をピークとして、生産年齢人口は減り始め、その後2065年まで、急速に減少していくと予測しています。労働力が少なくなれば、相当に生産性を上げない限り、GDPの減少や、国家財政の逼迫が予測されます。

多くの労働力を確保するためにも、副業は容認せざるを得ない状況にあると言えます。

図1-1-2 高齢化の推移と将来推計

【参照】内閣府 令和元年版高齢社会白書(全体版)  高齢化の現状と将来像https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_1.html

生産性の低迷

日本生産性本部が、経済協力開発機構(OECD)のデータに基づいて計算した2019年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、47.9ドルとなっており、アメリカ(77.0ドル/7,816円)の約6割の水準にしか達していません。OECD加盟37カ国中21位です。実はここ数年21位と22位で低迷しています。

さらに、日本の一人当たり労働生産性は、81,183ドルで、OECD加盟37カ国中26位となり、韓国(24位・82,252ドル/835万円)やニュージーランド(25位・82,033ドル/832万円)に抜かれてしまいました。これらの数値は、1970年以降最も低くなっています。

日本の生産性の低さは、一つの製品あたりにかける人数や労働時間の多さが指摘されています。日本製品は世界的に高品質なイメージがありますが、必要以上に工程を施すことにより、付加価値が出にくくなっていることや、上司に忖度して残業が多くなるなどの要因も指摘されています。

【参照】公益財団法人日本生産性本部 労働生産性の国際比較
https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html

長期に上がらない賃金

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、1997年以降、時間あたりでみた日本人の賃金が過去21年間で8%以上減り、先進国中で唯一マイナスとなっていることが分かっています。

日本人の賃金が上がらない理由として、バブル経済後の長期の平成不況もあり、売上がなかなか上がらなかったということもありますが、外国との雇用慣行を比べると、欧米の場合は、企業業績が悪くなった時には、リストラなどをする傾向があるのに対して、日本の場合は出来るだけ解雇などの雇用調整は行わず、賃金調整で耐え忍ぶ慣習があるようです。

バブル経済崩壊以降、長い平成不況の中、企業が人件費を抑制しているのが主な要因ですが、働いても賃金が上がらず、その結果、収入が増えないために、消費をさらに冷え込ませる、マイナスのスパイラルが続いているようです。賃金が増えないと、現役世代が困るだけでなく、年金の支給額の低下にも関係します。いかに賃金を増やせるかが課題ですが、現状の生産性を見る限り、非常に困難であると言えます。

今の労働力で労働者一人一人の収入を増やすには、副業を促進する必要があることが分かります。

【出典】 東京新聞<働き方改革の死角>日本、続く賃金低迷 97年比先進国で唯一減
https://www.tokyo-np.co.jp/article/2179

新たなイノベーションのきっかけを求める企業

製品やサービスのライフサイクルが極端に短くなり、次から次へと新たなイノベーションが求められる時代になっています。そのため、上司の命令に忠実で長時間真面目に働く従業員だけでなく、何らかの新たなイノベーションを起こすことのできる社員が求められています。副業により、従業員が副業により新たな知見を習得すれば、会社にとっても貴重な資源を獲得できることになります。

今後の副業の動きとエンゲージメントのあるべき姿について

2021年現在、副業を解禁する動きは、端緒に就いたばかりですが、多くの企業でその導入が検討されています。大企業だけでなく、中小企業での対応はどうあるべきでしょうか?副業の普及で進む影響や今後あるべき企業の対応について考えてみましょう。

一方的関係から自立した労働者へ

従来、日本の労働者は、「終身雇用」や「年功賃金」などの日本型雇用慣習によって、一方的に守られてきた面があります。しかし、反面、労働を提供するだけでなく、忠誠心まで要求されてきました。

しかし、副業を許可することを通じて、パターナリズム(弱者に対する支援)的な雇用関係から、対等な労使関係へ雇用関係を改善する良い機会になるでしょう。労働者側も、実質的生産性や高い付加価値を提供することが求められる代わりに、無意味な忠誠心を求められることも少なくなっていくでしょう。

新たなエンゲージメントの要因へ

右肩上がりの高度成長期には、「この会社にいれば大丈夫」という安心感の元、自然な形で社員のエンゲージメントが形成されていきました。しかし、終始雇用や年功型賃金制度の崩壊、長期にわたる給与額の低迷、働き方改革による残業額の削減など、将来にわたって従業員のエンゲージメントを高めていく根拠は不透明になりつつあります。

しかし、副業によって、社員自身の経済的欲求や自己実現の欲求が満たされながら、会社に新たなイノベーションや人脈を導入できることにより、従業員の方から会社に対して新たな貢献が出来るようになります。経済的安定だけでなく、自己実現を通じた新たなエンゲージメントの誕生と言えます。

会社に求められる副業を活用した新たなエンゲージメント促進の方法

副業を容認する一方、会社には社員が副業で得られた能力や人脈を、いかに会社の業績や技術、ノウハウ、新事業に活用するかという課題があります。

会社の事業や業績に貢献する副業であれば、リクルート社が長年行っているような新事業の公募に対する参加権を与えたり、あるいは自ら立候補して新事業を立ち上げたりすることも一つの方法です。

中小企業も逃れられない副業化の波

今現在、大企業を中心に副業容認の流れが加速していますが、いずれは中小企業にもその流れは波及していきます。大企業に比べて金銭的報酬が少ない中小企業は、そもそも副業のニーズは高いと言えます。しかし、自社の労働力が削がれる懸念も強いため、ストレートに副業容認の流れに対応できるかは不透明ですが、対応方向を考えておくことは必要でしょう。

まとめ

副業解禁という働き方の新しい平原を得た労働者は、収入の確保だけでなく、新たな自分の仕事のやりがいや生きがいを発見していくことでしょう。高度成長期のように、一方的に守られた立場ではなく、能動的に働く良い機会にしたいものです。

反面、会社側も新たなエンゲージメント策が求められていくことでしょう。終始雇用や年功型賃金など、従業員に安定して提供できていたエンゲージメントは無くなり、近い将来、「自由に副業をして良いですよ」という度量の大きさを示すだけでは、もはや従業員は満足せず、副業で得た自信をもとに、新天地へスピンアウトすることも考えられるでしょう。

近い将来、新たなエンゲージメント策を実行できた企業こそが、次の時代を担っていくことでしょう。