2020年にDrucker Instituteが発表したManagement Top 250の中の従業員エンゲージメントランキングで、Zoom(ズーム)が全米No1に輝きました。
その他にも、COMPARABLY AWARDSでは、2019年から2021年まで3年連続してCOMPANIES WITH HAPPIEST EMPLOYEE(従業員が最も幸せな会社)に、Glassdoor Employees’ Choice Award 2021ではThe best Places to work(最高の職場)に選ばれるなど、さまざまな視点で高い評価を得ています。
なぜ、Zoomが従業員からこれだけの高い評価を得ているのでしょうか。
今回はリモートワーク環境の中でも大きな成果を挙げている、Zoomの従業員エンゲージメント戦略についてレポートします。
Zoomについて
会社概要
Zoomの正式名称は、Zoom Video Communications, Inc。米国カリフォルニア州サンノゼに本社を構え、従業員が4,000を超えるIT・通信分野で急成長している会社です。
Eric S. Yuan 氏が2011年に創業し、2013年にビデオ会議ツール「Zoom Meetings」をリリース。従来のビデオ会議ツールと比べて誰でも簡単に始めることができるため、多くの個人や企業を取り込むことに成功しました。
当初のメインターゲットは大企業を想定していましたが、新型コロナ感染拡大によって個人利用が急拡大。2019年に上場すると時価総額が100億ドルを超え、2020年にはコロナ禍による好決算で一時1,500億ドル超を記録します。
事業内容は、リモートワークや非対面コミュニケーションの普及で、「Zoom Meetings」の他に、クラウドプラットフォームをベースとした、音声会議、チャット、ウェブセミナーなどを提供。
沿革
- 2011年Eric S. YuanがSaasbee, Inc.という社名で、デラウェア州にて創業
- 2012年Zoom Communications, Inc.に社名変更
- 2012年Zoom Video Communications, Inc.に社名変更
- 2013年Web会議サービス「Zoom Meetings」をリリース
- 2014年「Zoom Chat」「Zoom Video Webinar」「Zoom Rooms」の提供開始
- 2015年Slackおよびsalesforce.comとパートナーシップを締結
- 2016年「Microsoft Skype for business」との相互連携
- 2017年 オーストラリアとイギリスに支社を開設
- 2018年AtlassianおよびDropboxとパートナーシップを締結
- 2019年 NSDAQに上場し、時価総額100億ドルを超える
- 2020年1日あたりのZoom会議の参加者数がトータルで3億人を突破
業績推移
経営者のプロフィール
Zoomの創設者であり経営最高責任者のEric S. Yuan 氏は、Zoom創業の前にWebExでオンライン会議アプリケーションの開発を担当していました。
WebEx がネットワーク機器の開発会社Ciscoに買収された後は、最終的に同社の技術部門の副社長を務めたのですが、当時のユーザーヒアリングで、自分が14年費やして開発したWebExに誰も満足していないことを知ります。
そこで、WebExの再構築を会社に提案したのですが認められずCiscoを退社し、「カスタマーを幸せにするソリューションを提供すること」を目指して2011年にZoomを創業。
彼は、Zoomを創設してから今日まで、顧客と従業員に幸せ(Happiness)を提供し、職場と家庭で最大限の可能性を引き出すために必要なインフラストラクチャ、サポート、そしてさまざまなメリットを提供してきました。
Yuan氏 は、Business InsiderのEnterprise Tech 部門で最も影響力のある 1 人に選出され、2018 年には Glassdoor により米国大企業の No.1 CEO、 2019 年には、グローバルビジネスを変えたリーダーとして Bloomberg 50にも選出されています。
Zoomのコアバリュー「Delivering Happiness」
世界のスタートアップを中心に取材しているTECHBLITZが行ったEric S. Yuan氏の独占インタビューで、彼はZoomの成功の理由として次の点をあげています。
一つ目は、Zoomを始める何年も前からweb上のビデオ会議システムに携わってきているので、リアルタイムコラボレーションに精通していること。
二つ目は、顧客に「Happiness」を届けること、「Care」を最重視するという企業文化を創業と共に確立したこと。
TECHBLITZ:Eric S. Yuan独占インタビュー
リアルタイムコラボレーションとは、①インターネットなどを利用し、②遠隔地のメンバーと、③同じオフィスで仕事をするように、④リアルタイムで情報のやり取りを行うことです。
この2点は、Zoomの従業員エンゲージメント戦略を理解する上で非常に重要な内容を含んでいます。
まず、Zoomの社内コミュニケーションは、創設当初からZoom Meetingsを活用しており、オンライン上でエンゲージメントを生み出すことを目指してきました。そして、このノウハウはそのまま、Zoomと顧客との良好な関係構築に応用できたのです。
次に、Zoomの企業文化が、Yuan氏が提唱する「Care」を重要視し「Happiness」を提供すること。「Care」とは、顧客、コミュニティ、会社、従業員一人ひとりに対する「思いやり」であり、それが満足、つまり「Happiness」につながるという考えです。
Yuan氏は、「Careは私たちの仕事のほんの一部のように思えるかもしれませんが、それが私たちを革新し続け、私たちの能力を最大限に発揮し、お客様により良いサービスを提供するように駆り立てる」といいます。
ZoomがThe best Places to work in 2021に選ばれたときの、最高人事責任者 Lynne Oldham氏のコメントがそれをさらに強く印象付けています。
Happy employees are key to innovation and customer happiness.
(幸せな従業員が、革新と顧客の幸せの鍵である)
Glassdoor Employees’Choice Award
彼女は、従業員を幸福にすることがZoomの成功の鍵であるとの信念から、従業員を幸福にするためにサポート体制が充実した職場、つまり「Care」が溢れる職場環境を構築してきました。
Zoomの企業文化
Zoomの従業員エンゲージメントを語る上で非常に重要な「企業文化」についてもう少し補足します。
Zoomは、新たな従業員を採用する際に、まず、最初にその人が「Care」の価値観を共有できるかどうかをチェックします。理由は、「Care」の価値観を共有する従業員は、顧客や同僚のためならば労を惜しまないからです。
現在、大多数の従業員がリモートワークに移行し、従業員の1/3以上が過去数か月間にZoomのオフィスへ出社したり、同僚と直接会ったりしたことがないといいます。
その中で、Zoomは仮想化されたコミュニケーションを通じて、各従業員が会社の一員であるという実感が得られるようにさまざまな取組を実施してきました。
中でも。従業員エンゲージメントの取り組みを主導するボランティア「Happiness Crew」はユニークな活動をしています。
彼らは、従業員の家族全員のためにバーチャルイベントを主催し、従業員を祝福し、世界各地に分散している部門やオフィスを定期的に紹介し、対面式のビデオチャットやテーマ別の会議などを開催。
例えば、親を仕事に連れて行く日、子供を仕事に連れて行く日、ズームオリンピックなどのオフィスイベントを開催し、従業員同士がより個人的なレベルでお互いを知るのに役立てるとともに、従業員に「Happiness」を提供しています。
Zoomの従業員エンゲージメント施策
ここからは「Care」から生まれたZoomの従業員エンゲージメント施策のいくつかを、ご紹介します。
⒈ 報酬
まず、報酬についてですが、COMPARABLYの調査データによるとのZoomの従業員報酬は、サンフランシスコにおける上位5%にランクされており、業界平均よりはかなり高額のようです。
⒉ 福利厚生
コロナ禍における「在宅勤務」は、子育てや介護などの支援を必要とする従業員や、一人暮らしをして孤立感に苦しんでいる従業員など、生活状況はさまざまです。
「Care」の精神からスタートしたZoomの福利厚生は、以下の事例のように柔軟かつ従業員に対する細やかな配慮が見受けられます。
- 実績に応じた追加報酬
- 無制限の休暇
- 従業員の株式購入プラン
- 401k(確定拠出年金)&リタイアメントプラン
- マタニティ/パタニティ休暇
- 手厚い医療給付
- 歯科保険
- 視覚保険
- 健康保険
- 生命保険
- 就業時期、就業場所、就業方法についての柔軟な対応
- ジム会員への毎月の給付金
- メンタルヘルスや出産を含む、包括的なヘルスケアへの支援
- 従業員の学習サポート
- コロナ禍の期間中、ホームオフィス機器、ホームジム機器、食料品、さらには食品配達など、自宅での作業をサポート
⒊ モチベーション対策
Zoomの強みはCOMPARABLYの調査データに現れているように、ワークライフバランスへの満足度と、上司や同僚とのコミュニケーションやリアルタイムコラボレーションを通じた一体感にあると考えられます。
従業員はリモートワークであっても、常に上司から気にかけられていることを感じ、頻繁に有益なフィードバックを受け取っています。
さらに、同僚との交流や一緒に仕事をすることに対して喜びを感じていることが、どんな施策よりも従業員エンゲージメントの強化に役立っているようです。
⒋ ELEVATEプログラム
Zoomは、専門能力開発に投資することで、従業員のキャリアアップを支援することの重要性を認識し、営業チームに対して「Elevate」と呼ばれるプログラムを導入。
このプログラムでは、専任のセールストレーニングチームやメンターシッププログラムなどによって継続的に教育を行い、従業員が次のステップに昇格できるようにサポートします。
特に、新入社員には経験豊富な従業員をペアにする「メンターシッププログラム」が重要な役割を果たしており、ベテランと一緒に行動する中で新入社員はキャリアアップを図ることができます。
まとめ
Zoomの従業員エンゲージメントで特徴的なのは、一般の企業が対面をベースとしているのに対し、Zoomは非対面をベースに考えていることです。
これはZoomの事業内容を考えると当然の様に見えますが、「Care(思いやり)を重要視しHappiness(幸福)を提供する」という非常に強い企業文化がなければ、冒頭で紹介したような高い評価は得られなかったと思います。
従業員エンゲージメントで最も重要な「報酬と福利厚生」について、Zoomは従業員を思いやるところからスタートし、どのような施策が従業員を幸福にするのかを考えているのです。
本記事で紹介した具体的な施策よりも、むしろZoomの優れた企業文化から多くのことが学べるのではないでしょうか。
<参考>