人事評価の制度として、「目標管理制度(MBO)」を採用している企業は多いでしょう。

ただ目標管理制度の本来の意義と正しい運用方法については、意外と知られていないのが現状です。
目標管理制度の本来の目的は「業績達成」と「人材育成」の同時実現です。

今回は、目標管理制度をより本来的に機能させるための実践的な運用メソッドを紹介します。
長年目標管理制度を運用しているものの、意味を感じにくくなってきたというマネジメント層や人事評価に関わる方は、参考にしてみてください。

目標管理制度の本来の意義

目標管理制度とは、半年や1年という期間で達成すべき目標を決め、期間終了時にその目標の達成度合をはかる評価制度です。

日本に目標管理制度が導入されたのは1990年代です。バブル崩壊により多くの日本企業では業績が悪化し、終身雇用制度が維持できなくなっていました。そこで多くの企業が年功序列から成果主義に舵を切り、成果に応じた評価制度として目標管理制度が注目されました。

その背景により、目標管理制度は人件費抑制や成果主義の徹底という、やや誤解のあるレッテルとともに日本に広がっていきました。

目標管理そのものは、現代経営学の祖であるドラッカーが提唱した概念です。
著書『現代の経営』で記載された「目標による管理と自己統制」(Management by Objectives and Self control)を略してMBOという呼称が一般的になっています。

目標管理制度において、絶対に外せないポイントは2つあります。

1つ目は、社員一人ひとりの個人目標が、上流にある組織目標とリンクしていることです。目標管理制度はメンバーに組織の一員としての自覚を持ってもらう狙いがあるため、個人目標と組織目標のつながりを明確にします。

つまり、個人の目標達成の総和が必ず組織の業績目標の達成とイコールになる構図となっているのです。

2つ目は、個人目標はメンバー本人による自己によって決めることです。ドラッカーも著書の中で述べている通り、「Self Control=自主性」が何よりMBOの重要な要素になっています。メンバーの自主性を無視すると、単なる業績ノルマの管理に陥りかねません。

上司はあくまで目標推進のサポート役で、メンバーの進捗を確認して助言する役割です。メンバーの主体的な動きがあるからこそ、目標管理制度は人材育成にもつながるのです。

目標管理制度で「期初」に行うべきこととは?

期初は目標設定時期です。多くの企業で目標設定面談は行っていると思いますが、実は「目標管理制度の成否の大半は期初に決まる」といわれるほど、最重要な時期でもあります。

業績達成のための必須ポイント

組織業績を達成するためには、組織目標をメンバー一人ひとりが自分ごととして真剣に捉える必要があります。個人目標にしか目が向かないメンバーだけでは、「自分は達成・組織は未達成」のような事態が起こりかねません。

組織目標をメンバーに“肌ざわり感がある”状態で伝えるためには、数値化・言語化して目標を伝えることを意識してください。

たとえば間接部門であるコールセンターや、総務などのルーチン業務を扱う部門では、「安定的に業務を稼働させる」という曖昧に目標になりがちです。
メンバーに響かせるためには、もう一段階ブレイクダウンする必要があります。「顧客のクレームを〇件減らす」や「応対時間を〇時間削減する」などです。

さらにメンバーを動機付けしたい場合は、目標を売上情報に紐づけて言語化をするとよいでしょう。「クレームを〇件減らす→営業の時間を〇時間捻出できる→売上換算すると〇円相当の貢献となる」と、売上・業績に関連付けたストーリーテリングを行います。

とかくコストセンターと呼ばれる間接部門は、会社業績に無関心になりがちです。ややもすると「売るのは営業の仕事だ」と、自分に関係のない捉え方すらしてしまいます。

従って、間接部門では日々行っている業務は必ず会社業績に関係するという図式を示すことが重要です。メンバーが会社業績に関心を持ち、その視野を持ったうえで目の前のルーチン業務に向かえるようになるからです。

パルスアイでは、「あなたは、業務上の目標を設定しており、その目標設定が自身のモチベーション向上や成果の創出につながっていると思いますか?」という質問項目があります。組織における目標管理の仕組みが有効に機能しているかどうかを把握できるため、ぜひお試しください。

人材育成のための必須ポイント

目標管理制度では、メンバー本人が自己申告をした目標内容をもとに目標設定面談を行うと思います。
この面談を人材育成に活用するためには、やり取りを重ねながら「この目標で今期はやろう!」とメンバーと合意をすることが必要です。

合意形成をするための、面談での具体的なやり取りのコツを紹介します。

  • 目標を作成したメンバーの意思を尊重するスタンスを崩さず、健全に意向をすり合わせする
  • メンバーの自己申告任せにしないで、マネジメント側でもあらかじめ各メンバーに対して具体的に目標や期待を描く
  • メンバーの申告に違和感がある場合は、放置せずに意図を確認する。逆に、一方的にマネジャー側から目標を押し付けない
  • 目標内容だけでなく、目標の達成基準も期初のタイミングですり合わせを行う
    (少なくとも各メンバーのウェイトが高い項目については、High・Middle・Lowの基準を期初に決めておく)

目標管理制度で「期中」に行うべきこととは?

期中は、目標達成のために組織のメンバーがどんどんと行動をしていきます。大きな商談が決まって盛り上がるメンバーもいれば、結果がなかなか出ずに中だるみするメンバーもいるでしょう。

業績達成と人材育成を狙うための、期中のマネジメントの関与方法について紹介します。

業績達成のための必須ポイント

期中は各メンバーの目標の進捗状況を確認するかと思います。
業績達成のためには、進捗以外にメンバーの動き方や気持ちの浮き沈みもチェックし、要所要所で「見守っている」サインを送ります。

『ホーソン実験』という、アメリカの古典的な心理学の実験をご存知でしょうか。
業務の生産性には「照明」「報酬」などの物理的なインセンティブより、周囲から注目されているという意識がモチベーションを高め、不利な労働環境でも成果を生む、ということが証明された実験なのです。

動いているメンバーに「いつもあなたの動きに注目してますよ」というサインを出すことで、メンバーは安心感を抱きます。同時に、目標達成のために健全なプレッシャーを感じ、足を止めることはありません。

ただし、毎日進捗報告のための日報を出させるなどの、マイクロマネジメントは避けてください。これでは「見守る」ではなく「監視している」とメンバーは認識し、窮屈に感じることでしょう。

あくまで“程よく”見守り、そのことを本人に“さりげなく”伝えるようにしましょう。

【事例】
ハイパフォーマンスを上げ続けているある組織のマネジャーは「曜日を決めてメンバーの様子やスケジュールを見るようにして、必ず一つは良い点に着目し本人に伝える」という習慣があるそうです。

「あの顧客にアポ取れたんだ。すごいじゃないか」や「どんな資料を持って行ったの?」など、内容は他愛もないものです。
ただ、これだけでも本人は「見てもらえている」という嬉しさになり、さらには「気を抜けない」という心地よい緊張感が生まれることでしょう。

人材育成のための必須ポイント

期初の目標設定面談と期末の目標評価面談は行うものの、期中の中間面談を行っていない企業は意外と多いようです。
マラソンでも折り返し地点などで、監督から「ペースを上げろ」などのランナーへの指示があると思います。期中には、中間面談を一回は実施をしてください。

中間面談の目的は「目標達成の障害を取り除く」と「メンバーの状況を整える」の2点です。

【目標達成の障害を取り除くポイント】
障害を取り除くためには、目標達成の見通しについてヒアリングを行い「どうなったら達成できそうか」という具体的な要望を引き出してください。

障害がどうしてもネックになる場合は、目標の期中修正を行うことになります。
目標修正は上や横との調整が必要となるため、本人から修正に値する根拠をきちんと引き出す必要があります。
根拠が曖昧なまま本人が目標修正を求めてきた場合は、マネジメントとしてきちんと説得できるようにしてください。

【メンバーの状況を整えるポイント】
メンバーの状況を整えるためには「半期やってきた本人の感触」「残り半期、何に注力するか」を確認します。

目標とは少し離れて、メンバーの育成観点でコミュニケーションを取ってください。
あまり形式的に行う必要はないため、メンバー自身がモヤモヤしている点を吐き出させる場と捉えるとよいでしょう。

目標管理制度で「期末」に行うべきこととは?

いよいよ期が終わりました。
「今期は終わった……。」だけで次の期に移るのではなく、この節目のタイミングをうまく業績達成と人材育成のために活用してください。

業績達成のための必須ポイント

目標が達成できた組織も出来なかった組織も、期末を迎えるとホッと一息つくかと思います。この「ホッと一息」という空気感を活用し、組織力強化のためのナレッジマネジメントを行うと効果的です。

メンバー全員の底上げができれば、一過性の目標達成ではなく目標達成の再現性が高まります。

たとえば、今期メンバーが使った良い資料の共有会などです。
期初の緊張感が高い時期や、期中の走っている真っ只中では、ナレッジマネジメントのような「重要度は高いが、緊急度は低い」取り組みは難しいものです。

汎用性があり良質な資料をメンバーが作っていたとしたら、他メンバーに共有することで組織知化することができます。
「〇〇さんの資料は他の人にも活用できそうだから、共有のための勉強会を開催しよう」などと投げかけをします。照れるメンバーがいるかもしれませんが、むしろカジュアルな内輪の場でプレゼンをする練習にもなります。

ゆくゆくは「月に一度メンバー持ち回りで勉強会を行う」とルーチン化する、あるいは「フォルダに業界ごとの資料を入れ全員で共有する」とシステム化していくと、より組織力向上につながるでしょう。

人材育成のための必須ポイント

目標の結果面談はほとんどの企業で行っていると思います。
しかし、目標設定面談と中間面談をきっちり行っていれば、期末の面談は単なる結果の振り返りだけなので、実はものの数分で終わるものです。

人材育成のためには、期末の面談をメンバーの「振り返りの場」という定性的なリフレクションの場として活用するとよいでしょう。

その際、「ここ良く出来た」「ここがまだ足りない」とマネジメントが一方的にフィードバックするのは、本人の考える力を弱めるので避けてください。本人の認識を引き出すことを重視し、そのうえでマネジメント側からの認識を伝えてください。

やり取りの際は「ジョハリの窓」というフレームが参考になるでしょう。

メンバー自身が「ここは効力感があった」「ここは踏ん張りがきかなかった」という「自分が知っている」本人の姿を述べます。そこに照らして「私もそう思う」や「私からはこう見えていたよ」というマネジメント(他人)の窓を重ねていくイメージです。

まとめ

目標管理制度と聞くと「ルーチン化している」「管理されている」というネガティブな反応を示す方も少なくはありません。しかしそれは、目標管理制度の本来的な意義を誤解しているからです。

今回ご紹介したように、多くの企業では期初・期中・期末と年中何かしらの目標管理制度の運用をしていることになります。

それであれば、“やらされ感”で運用するのではなく、制度をポジティブに活用しまくった方が得策なのではないでしょうか。

ただしマネジメントの業務は多岐に渡ります。毎日目標の進捗だけに目を向けているわけにはいかないと思うので、メンバーの動きを定期的に確認できるツール『パルスアイ』を活用してみてはいかがでしょうか?