社内に新型コロナウイルス感染者が出たとき。急な知らせにパニックになってしまいそうですが、適切な対応を心がけたいところです。また、有事の時こそ、会社の体質が問われるもの。正しく誠実な対応を行うことで、社員からの信頼度も増すはずです。会社としてまずは何をすべきなのか、どんなことに気をつけたら良いのかをまとめました。

社員がコロナ陽性 会社がすべき「感染拡大の早期防止」

社員から「コロナに感染してしまった」という連絡を受け取った時、まずは次の手順で対応します。

陽性反応が出た社員の出勤停止、職場の消毒

社員から陽性反応が出たと連絡をもらったら、速やかに出勤停止の連絡を行いましょう。同時に、社員が出勤していた施設の消毒を行います。主には感染者が触れたり使用したりした可能性のある場所で、トイレやドアノブ、会社の共有物が該当します。また、飛沫が飛んだ可能性のある場所も入念に消毒します。商業ビルやテナントビルに入居している場合は、エレベーターなどの共有スペースの消毒も必要になるため、管理会社へ連絡します。

コロナウイルスに有効な消毒液の作り方や取り扱い方法は、厚生労働省のホームページで公開しています。

濃厚接触者の把握とリストアップ

次に、濃厚接触者の把握を行います。濃厚接触者の把握方法は地域によってさまざまで、保健所が感染者本人にヒアリングして特定する場合や、会社が主体となって把握する場合などがあります。そのため、まずは保健所の指示を仰ぎましょう。

会社主導で把握する場合、陽性反応が出た社員とコミュニケーションが取れるなら、電話やチャットなどで聞き取りを行います。世界保健機関(WHO)の報告によると、新型コロナウイルスの潜伏期間は1~14日間程度。また、感染した後、症状発症までの平均期間は5~6日程度とされています。その期間に業務上で会った相手や場所(換気状況)、距離感、滞在時間、マスクを外した時間の有無などを確認します。本人に確認を取るのが難しい場合は、同僚や上司など、近くで仕事をしていた方や勤務状況を把握できている方からヒアリングを行います。なお、国立感染症研究所感染症疫学センターによると、濃厚接触者の定義は以下の通りです。

・患者(確定)と同居あるいは長時間の接触(車内・航空機内等を含む)があった者
・適切な感染防護なしに患者を診察、看護もしくは介護をした者
・患者の気道分泌液もしくは体液などの汚染物に直接触れた可能性のある者
・手で触れることのできる距離(概ね1メートル)で、必要な感染予防なしで患者と15分以上の接触のあった者

気をつけたいのは、あくまで「濃厚接触者を特定するために行う」ということ。陽性反応が出た社員が「責められている」と感じることがないよう、聞き取り時には体調を気遣い、感染で落ち込んでいる様子が見られる場合は心を重ね合わせつつ「濃厚接触者の把握のために協力をお願いしたい」などと伝えるようにしましょう。また、プライベートは業務と関わらない箇所になるため、詮索しないようにします。

聞き取りによって「濃厚接触者に当たる可能性が高い人物」を把握した後は、保健所と連携しつつ濃厚接触者に該当するかを確認します。

濃厚接触者の出勤停止、テレワークへの切り替え

保健所から他の従業員が濃厚接触者に当たると判断がなされた場合、当該社員の出勤停止を行います。保健所の指示を仰ぎつつ、必要であればPCR検査を行います。本人に症状がなく検査結果が陰性であっても、潜伏期間や無症状患者である可能性があるため、自宅勤務へ切り替えます。

濃厚接触者への健康観察、聞き取り

テレワークに切り替えた社員に対して健康観察を行います。同居家族がいる場合は、同居家族の体調に変化がないかも合わせて確認します。濃厚接触者となった社員は「自分も発症するかもしれない」と不安を抱えている場合も。また、急な働き方の変更に戸惑っている場合もあります。心に寄り添いつつ、仕事をする上で困っていることはないかなどの確認も合わせて行いましょう。

以上が基本的な対応となります。また、取引先や社外への公表は現在のところ説明義務はなく、自社判断となっています。

社員からコロナ感染者が出た場合 社内公表&コミュニケーションで気をつけたいこと

社員からコロナの陽性反応が出た場合、気をつけたいのが公表の仕方です。

感染者の個人情報保護について

感染拡大防止および濃厚接触者特定のために上司や所属部署へ個人名を話すことはやむを得ませんが、気を付けたいのがそれ以外への公表の仕方。会社の規模にもよりますが、関わりの薄い他部署や他事業所への公表に関しては感染者が出たことを公表する程度に止め、基本的に感染者本人の同意や希望がない限り、氏名の公表は差し控えなければなりません。

理由はPCRの検査結果が個人情報保護法の範囲に該当するため。また、職場復帰時に本人への誹謗中傷が生じるケースがあることからも、無闇に氏名を公表することは避けた方が無難と言えます。

社内公表で気をつけたいこと

そうはいっても、近しいところでコロナ感染者が出たと聞けば、「一体誰が」と話に上りやすいもの。同時に行いたいのが、社内への倫理観の共有です。

コロナに感染したとき、心を痛めるのは感染者本人。「職場や仕事関係者に迷惑をかけてしまった」「感染しやすい、軽率な行動を取ってしまっていたのかも」と責任を感じてしまうケースもあります。他の社員には、自分が感染してしまった場合に置き換え、相手を気遣うよう指導しましょう。

・個人を特定しようとしない
・「会社でコロナ陽性者が出た」などとSNSで呟かない
・関係部署では、職場復帰時に復帰しやすい雰囲気を心がける
・声かけやフォローを行う

など、会社でルールを設けるのも有効です。

コロナに感染した社員へ 会社としてできるフォローアップ

その他、コロナウイルスに感染した社員に対して、会社としてできるフォローアップは以下の通りです。

休業手当について

社員がコロナウイルスに感染した場合、休業手当は支払うべきなのでしょうか。一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないため、休業手当を支払う必要はありません。被用者保険に加入しており要件を満たしている場合は、各保険者から傷病手当金が支給されるため、事前に伝えておくと安心できるでしょう。

職場復帰時について

コロナウイルスの症状は個人によって大きく異なるため、復帰に際しては主治医の指示を仰ぎます。復帰後も後遺症が残り通常の勤務が難しい場合があるため、産業医とも連携しつつ、本人の無理のない範囲で復帰できるよう環境を整えるなどの配慮が必要になります。

実例:コロナに感染した社員に対しておこなったフォローアップ

コロナに感染してしまった社員に対して、どのようなことができるのでしょうか。本人へのフォローアップに関して、実例から紹介します。

都内の従業員数20名程度の企業で、代表として働くAさん。ある時、社員から「熱が続いているので病院へ行ったところ、PCR検査を受けることになった」と知らせを受けます。

その後、PCR検査で陽性反応が出たそう。もともとリモートワークを導入していたものの、少数の社員が出勤をしていたため、すぐに事務所を閉鎖。全社員完全リモートワークに切り替えます。保健所の連絡で濃厚接触者はいないとなったものの、都内で感染者数の増加が続いていたこともあり、そのまま全社員を対象としたリモートワークは継続します。

本人が社内広報を希望したことと、20名の規模で氏名を伏せて仕事を回すことが難しかったこともあり、社内には名前を出して公表。「念のため体調変化に気をつけてほしい」ことと「本人は非常に落ち込んでいる。個人への攻撃になるような発言はしないように気を配り、復帰時に暖かく受け入れてほしい」と伝えたそうです。

感染した従業員が一人暮らしで自宅療養になったこともあり、代表自ら飲料水やゼリー飲料、レトルト食材、トイレットペーパーなどを大量に購入し、自宅前まで複数回届けたそう。また、納期を遅らせるよう関係先に依頼し、当該社員が休むことによって他の社員への負担が極力増えないよう調整したそうです。

症状が重かったため復帰には1カ月近く要したそう。「たとえ暖かく受け入れて、とお願いしても、その1カ月で迷惑を被った側はすんなり受け入れられない場合もある。そうならないよう、会社側が努力する必要があると感じました」と話してくれました。現在、社員は復帰し、問題なく働けているそうです。

まとめ

社員がコロナに感染した場合、会社が適切な対応を進めることで、本人だけでなく他の社員からの会社に対するロイヤリティが上がるきっかけになるはず。困った時、誰が何をしてくれたかは深く記憶に残るものです。有事の時こそ落ち着いて、会社ができることを適切なスピードで行いたいですね。