社員の健康を考えるとき、社員の現状を適切に把握できていますか?
社員の健康増進のためにどのような施策が有効なのか、あるいは実施している施策の効果が見えないといったお悩みも多いようです。
本記事では、企業が社員の健康に配慮すべき理由やメリット、取り組もうとする企業によくある課題を解説します。社員の健康に関連する施策の例も、ぜひ参考にしてください。
社員の健康に企業が関わるべき理由
組織の業績や生産性の維持・向上には、健康的な社員の存在が不可欠です。
社員に心身の不調が起こる要因が、仕事以外での個人的な「不摂生」や「悩み」などの場合もあります。しかし、その原因が「職場」というケースも少なくありません。組織がヒト(社員)で成り立つ以上、個々の能力や仕事ぶりだけでなく、心身の健康にも目を向ける必要性が高まっています。
ストレス社会の流れは、企業運営に関する法律にも反映され始めました。
安全配慮義務とは
人材を雇用する企業には「安全配慮義務(労働契約法:第5条)」が課されています。
社員が安心・安全に働けるよう、働く環境を整備するなど必要な配慮をしなければなりません。設備などの物理的な安全性だけでなく、心理的な要因も含まれます。
【企業に求められる代表的な措置】
・ 安全衛生管理体制の確立
・ 社員の労働時間の管理
・ 快適な職場環境を整備
・ ハラスメントの撲滅
・ 健康診断の実施
・ メンタルヘルス対策
・ 社員への教育・啓蒙活動
安心・安全を欠く仕事や職場の環境が、社員の病気や精神疾患を招くこともあります。「社員の病気や精神疾患」や「企業の無配慮や未対応」が、損害賠償請求や訴訟に発展する事例も増えているようです。
社員の健康は経営リスク・コストに影響する
社員も人間ですから、病気やケガに見舞われることはあるでしょう。
数日の不調であれば、本人や周りへの影響は小さいかもしれません。
しかし、以下のような状況には注意が必要です。
A:社員の心身の不調が長期に渡っている
B:社員の不調に繋がりやすい要因が職場に存在する
厄介なのは、組織において、これらが潜在的で気付きにくいことも多いという点です。
心身の不調が長期化すると、日常業務でのミスや失敗が増えます。欠勤の頻度が高まるのも典型的な事象です。職場の周りの社員がカバーやフォローに回るでしょう。組織として当然のチームワークのように見えるかもしれません。
しかし、メンバーに「心身の不調」があるとき、現場はもっと複雑な状況と負の心理に包まれやすくなっています。生産性や現場の雰囲気などが悪化する可能性を秘めた状況でもあるのです。
また、頼りになる有能な社員には、業務負担が偏る傾向があります。優秀な人材がテキパキと仕事をこなして生み出す時間は、周りから新たに押し寄せる仕事で埋められてしまうのです。
この状況は、上記の「B:社員の不調に繋がりやすい要因が職場に存在する」に該当します。役割と業務の配分が適切でないときに起こりやすい事例です。
長期化すると自社が失いたくない有能な社員も、健康を害する可能性が出てきます。積み重なって露呈した病気や疾患は、休職や退職など取り返せない損失にもつながりやすいようです。価値創造や利益率の停滞、採用コストの増加などの影響も出てきます。
企業が社員の健康に配慮するメリット
では、視点を変えて、企業が社員の健康に配慮するとどのようなメリットが期待できるかを見ていきましょう。裏を返せば、組織としてのリスクヘッジや将来への投資になり得る点にご着目ください。
パフォーマンス・生産性の向上
社員の心身の健康があってこそ、組織のパフォーマンスや生産性は維持されます。
目標とする価値創造や成果に向かい、それぞれが自分の役割を果たすために最大の能力を発揮するからです。やるべきことに集中できる環境であれば業務も順調に進みやすく、達成率も高まるでしょう。業務の停滞やミス、トラブルの発生確率は低くなります。
社員の健康が業務効率にも大きく影響する点は多くの企業が認識するところです。個々のパフォーマンスや生産性は向上し、組織能力の底上げにもつながるでしょう。
医療経費の削減で収益性アップ
社員が健康であることが、企業の収益性アップにも有効です。
社員の病気や疾病、あるいは治療や療養に対する福利厚生制度を設けている企業もあるでしょう。一見、社員のための手厚い制度と思えるかもしれません。
しかし、社員が不調になると、経費がかかる上に、現場(職場)の生産性も落ちます。社員にとってもケガや体調不良は、いくら制度を利用できても手放しで喜べる事態ではないでしょう。
健康状態が悪化した場合ではなく、健康の維持・向上に視点を向けて財源を使うほうが双方にとってプラスをもたらします。社員の健康と組織の生産性が維持され、さらに向上させることが、利益を拡大させ会社の収益アップにもつながるのではないでしょうか。
従業員エンゲージメントの向上
社員の健康に配慮する会社の姿勢は、社員の意欲や信頼を引き出します。
従業員エンゲージメントとは、社員が企業の方向性に共感し、自発的に会社に貢献しようとする意欲や信頼を示す指標です。
自分や周りが健康的に働ける環境にあるとき、社員は仕事に対してもプラスの意識を持てます。皆が健康に働けること、以前より健康的になれたことに対し、企業の配慮や後押しに感謝の念を抱くかもしれません。
意義のある仕事に取り組める環境があれば、離職に繋がる多くのマイナス要因も発生しにくくなるでしょう。
採用コストの低減化
ほとんどの経営者・人事担当が、社員が自社で長期的に活躍してくれることを望みます。しかし、社員が健康を害すれば、勤続が困難になるケースも少なくありません。貢献度の大きい社員、長く活躍している社員ほど、企業にとっての痛手は大きいものです。
社員の誰かが離職するごとに、新たな人材を補充しなければなりません。ゼロから適切な人材を探し出すにもあらゆるコストが必要とされるでしょう。たとえ補充できても、重要な一人が欠ける前の業務の流れやスピード、職場の雰囲気を取り戻すまでには時間がかかります。
離職にはさまざまな理由が伴う時代ですが、健康上の理由による離職を防止できるだけでもコストは抑えられるでしょう。
現代企業における社員の健康管理の課題
社員の健康に配慮しようと考えるとき、企業にはいくつかの課題が持ち上がります。この記事を読まれている経営者・担当者の方も、同じような「壁」を認識されているのではないでしょうか。
一人一人の生活環境や健康状況が異なる
社員の数が多いほど、企業や担当者が一人ひとりの健康状況を把握するのは難しいものです。とくにマンパワーの限られる中小企業ほど当てはまる課題でしょう。
社員の健康を左右する要因は、仕事や職場以外にもあります。家族構成や生活環境、個人の体質、人との関わりなど、それこそ千差万別です。さらに、個々の健康状況は常に変化します。個人の健康に関することがプライバシー、個人情報に関わる点も大きな壁となるでしょう。
社員が担う業務の負荷バランスが把握しにくい
組織やチーム単位で見ると、業務が順調に進んでいるように見えるかもしれません。しかし、その業務を細分化し、誰の能力と労力によって進められているかに目を向けると不自然に偏っていることも多いようです。
有能な社員ほど、真面目で、積極的に経験を積もうとします。徐々に業務負担が増し、どこかでキャパオーバーが生じるでしょう。しかし、その状態が日常的になっていると、自身の業務過多や体調の変化に気付きにくいのです。
現場の上司が、個々の業務負荷や変化を観察する意識を持ち、その機会が十分にあれば、うまく調整できるかもしれません。しかし、社員の働くスタイルが多様化している昨今、小さな頼まれごとなどがかさむ状況まで把握できる企業は多くはないでしょう。
テレワーク下で加速する社員の健康への懸念
コロナ禍でテレワークを取り入れる業務体制が一気に浸透しました。管理する企業側も、働く社員側も、オフィスに行かずにオンラインで業務を進めるという大きな変化に順応しつつあります。テレワークで問題としてよくあがるのが、以下のようなポイントです。
【身体面】社員の運動量の低下
【精神面】一人で仕事を進めることへの不安感・孤独感
【精神面】コロナ禍では、ストレス解消の機会や場所が制限される
【環境面】家庭や子供のいる社員の場合、家で仕事に集中しにくい
結果的に起こりやすいのが、長時間労働やストレス過多です。不安やストレス、仕事環境などが、スムーズな業務進行の妨げとなり、結果的に体調不良につながるケースが増えています。
社員の健康増進のための取り組み
ここからは、社員の健康維持や増進に向けた具体的な取り組みの例をご紹介します。何から手をつけるべきかとお悩みの方も、ぜひ下記の施策を参考にしてみてください。
相談窓口の設置
オフィス勤務/テレワークを問わず、気軽に相談できる窓口を設置して社員に周知しましょう。
潜在的なストレスやハラスメントの問題は、企業や担当者には見えにくいことも多々あります。早期に発見し、適切な対応・改善がなされれば、問題の深刻化や連鎖を防げます。個人のプライバシーが守られる信頼性を確保することが重要なポイントとなるでしょう。
なお、この相談窓口の設置については、改正労働施策総合推進法において、すでに大企業の義務項目です。2022年4月からは中小企業にも義務付けられます。
長時間労働の改善(業務効率化)
長時間労働も、社員の心身の健康を損ねる大きな要因の一つです。長時間労働にはさまざまな要因がありますが、マンパワーが不足しがちな昨今では、組織的な業務効率化が急務といえるでしょう。
自社にある業務とその流れを洗い出してみると、重複や長年の慣例による無駄な作業もよく見えるものです。業務によっては、専用システムの導入が大きな効率化に繋がることもあります。ぜひ、現場で直に業務にあたっている社員の声も参考にしてください。
日常の作業が簡素化されれば、社員はより重要な業務に注力できるため、より短い時間で完了できます。社員にとってワークライフバランスや心身の健康を保ちやすい環境となるでしょう。
社員への健康管理に関わる意識教育・研修
企業が社員にどれだけ積極的な働きかけをしても、健康を意識した実践をするのは社員自身です。社員が毎日の習慣や行動を振り返り、業務や生活の中で改善・実践していこうと思えるような意識改革も求められます。
ハラスメントに関する社会認識も高まりました。無意識に加害者にならないよう、あるいは被害者が不要な我慢をしないためにも正しい知識が必要です。定期的に、適切なタイミングで教育や研修の機会を設けることをおすすめします。
また、日常的に健康を意識した実践に繋げやすい制度を取り入れる企業も増えました。たとえば、自転車通勤の推奨、健康メニューの食事補助、パワーナップの奨励、運動施設の利用補助など。健康志向も高まっているため、年代を問わず喜ばれているようです。
まとめ
企業には、社員の健康に配慮し、健康的に働き続けられる環境整備が求められています。施策にはコストもかかりますが、長い目で見れば企業にさまざまな良い影響をもたらす「先行投資」ともいえるのです。
業務や人間関係の不満や問題、個人的な健康上の悩みは、もともと表に出にくい内容でもあります。在宅勤務やテレワークなど、働き方の多様化も進みました。社員の本音や実情を把握することが、以前に増して難しくなったと感じられている経営者や担当者の方も多いでしょう。
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