企業経営や人事担当の仕事をしている中で、避けては通れないのが「社員の離職」です。せっかく育てた人材を失うのは、会社としては避けたいものでしょう。
自社の離職率が高いと、優秀な人材が流出してしまうだけでなく、人材市場において新しい働き手を確保できないことにもつながります。少子高齢化に伴い、さまざまな業界で深刻な人材不足が起きている昨今、より良い人材確保のためには、まずは退職者を減らし、離職率を下げることが欠かせません。
この記事では、離職率を下げるための改善策を、成功事例9選とあわせて徹底解説していきます
離職率とは?
最初に、離職率の概要を見ていきましょう。算出方法と、日本の離職率の平均、業界ごとの離職率、新入社員の離職率をご紹介します。
離職率の算出方法
離職率は、厚生労働省によれば下の式で算出されます。
1月1日~12月31日までの1年間を通しての離職者数を、1月1日現在の常用労働者(期間を定めず、または1ヵ月以上の期間を定めて雇われている人)の数で割り、100をかけたものです。
日本の離職率の平均
日本の離職率の平均はどの程度なのでしょうか?厚生労働省が実施した令和2年(2020年)雇用動向調査によれば、以下のとおりとなっています。
この年、日本では約727万人が離職したことが分かります。これは離職率に換算すると14.2%です。
業界ごとの離職率
厚生労働省の調査から、業界ごとの離職率を見てみましょう。
上のグラフを見ると、もっとも離職率が低い「鉱業、採石業、砂利採取業(5.8%)」と離職率が高い「宿泊業、飲食サービス業(26.9%)」では21.1ポイントもの開きがあり、業界ごとの離職率は大きく異なることがわかります。つまり、自社の離職率は日本全体の平均ではなく、業界平均と比較しなければいけないということです。自社の離職率が業界平均の離職率を上回っている場合には、採用市場で「あの会社は離職率が高い」と思われているかもしれません。
また、離職率が低ければ一概に良いというわけでもありません。離職者が少ない場合、一方で「新しい人材が入職せず、働き手が高齢化している」という問題を抱えているケースもあるからです。
理想的なのは「離職者が少なく、入職者が一定数いること」といえるでしょう
新入社員の離職率
「新入社員の離職率はどれくらいなのか?」と気になる方もいることでしょう。厚生労働省の調査によれば、就職後3年以内の離職率は以下のとおりとなっています。
中学卒で就職した人は半数以上、大学卒でも3割以上が、3年以内に離職しています。
このように、学生時代とは環境が大きく変わることによるストレスを受けるため、新入社員の早期離職は珍しくありません。早期離職を防ぐためには、新入社員に対する教育やマネジメントを慎重に行なう必要があるでしょう。
離職率が高くなる原因
それでは、離職率が高くなる原因にどのようなものがあるかを見てみましょう。
賃金や評価への不満
離職率が高い原因としてまず挙げられるのは、賃金や評価への不満です。「労働量や成果に対して賃金が低い」「正当に評価されていない」と感じることは、仕事のモチベーション低下につながるからです。ボーナスが出ない、あるいは福利厚生が充実していないなどの場合も、離職率は高まる傾向があります。
労働時間が長い
労働時間が長いことも離職率を高めます。残業が当たり前になっている職場、休日出勤しなければ仕事が終えられない職場では、離職率は高くなる傾向です。
休みが取りにくい
休みが取りにくいことも離職率を高める原因との一つです。週の休みが2日未満であったり、有給休暇を取るのが難しかったりする場合には、従業員に大きなストレスが加わるためです。
職務内容が不明確
採用前に職務内容や勤務地をはっきり指定しないことが多い日本では、そのことが新入社員の離職率を高める結果につながります。入社前に想像していた仕事のイメージと、実際の仕事のギャップが大きくなってしまうからです。
働き方の選択肢が少ない
近年では働き方の選択肢が少ないことが、離職率を高める大きな原因となっています。テレワークやフレックス制が当たり前の世の中になりつつあるからです。勤務時間が一律で決まっていたり、オフィス以外の場所での勤務を認めなかったりする場合には、「働きにくい」と感じる従業員も多いでしょう。
教育・フォロー体制の不足
教育・フォロー体制の不足は、特に新入社員の場合には離職率を高める大きな原因となるでしょう。新入社員は既存社員から見ればちょっとしたことであっても、仕事への自信をなくしてしまいやすいからです。
ハラスメントの横行
言うまでもないことですが、ハラスメント(嫌がらせ)が横行するような職場では、離職率は高まります。パワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメント、モラルハラスメントなどへの現状把握と対策は、しっかりと行う必要があるでしょう。
離職率を下げるための改善策
では、離職率を下げるためにどういった改善策があるのでしょうか。
賃金・評価制度の見直し
離職率を下げるためには、まず賃金・評価制度が適正かを確認しましょう。従業員が不満を持っていないかのヒアリングも必要かもしれません。
特に、年功序列型の評価制度を採用している企業では、若手従業員からの不満が出やすくなります。
賃金・評価制度を見直す場合、「社員ポイント制度」の導入はおすすめです。
「社員ポイント制度」とは、会社独自のポイントを作成し、「仕事の成果」や「スキルアップ」、「チームへの貢献度」などで付与するものです。付与したポイントを何に交換できるとするかは会社が独自に決められるため、「賞金」や「特別な景品を用意する」としている企業もあります。
ポイントは上司や人事から付与する以外に、同僚から他の社員へ送れるようにするのもよいでしょう。社員ポイント制度の導入により、離職率を下げるのみならず、チーム力や帰属意識の向上にもつながります。
労働時間の適正管理や休暇取得の励行
労働時間の適正管理や休暇取得の励行を、しっかりと実施しましょう。長時間労働の常態化や休日出勤・サービス残業の横行は、労働基準法違反にもなりかねません。
労働時間が労働基準法で認められる範囲を超えていないか、深夜残業や休日出勤が多すぎないか、十分な休暇を取れるかなどの確認が必要です。労働時間がシフト上は規定以内でも実際にはサービス残業をしているケース、有給休暇の制度があっても実際には休暇を取得できないケースなどがないかも確認しましょう。
労働時間は、自己申告では適正な管理は困難です。タイムカードやICカード、勤怠管理システムを導入し、労働時間をしっかりと「見える化」しましょう。
福利厚生の充実
福利厚生の充実は離職率低下につながります。従業員にとって福利厚生は、会社から受けられる賃金以外の報酬・サービスとなるからです。
福利厚生にかかる費用は非課税対象となるケースも多くあります。企業負担を最小限にとどめながら、従業員満足度を高め、離職率を低下させることが可能でしょう。
教育体制の見直し
前述のとおり新入社員の早期離職は珍しくありません。それを防ぐためには、教育体制の見直しが必要となるでしょう。
新入社員への教育は、
・仕事に慣れるまでの教育体制
・ミスをしてしまった際のフォロー体制
の両面から考えていくことが大切です。現状の教育・フォロー体制が十分かのヒアリングから始めるのがよいでしょう。
また、教育担当者によって見解が異なると、新入社員の混乱をまねきます。新人教育の内容・手順をしっかりと策定したうえで、教育担当者への教育もあわせて実施しましょう。
働き方の選択肢の多様化
従業員それぞれのワークライフバランスに配慮し、自分に合った働き方を選択できるようにすれば、離職率を改善できます。具体的には、テレワークや時短勤務の導入がおすすめです。
・テレワーク
テレワークの導入は、従業員にとって以下のようなメリットがあります。
・通勤時間をほかのことに充てられるようになる
・通勤ストレスから解放される
・勤務地に縛られずに居住地を決められる
テレワーク導入が難しい業種・職種では、時差出勤を認めるだけでも、労働環境の大きな改善になるでしょう。
・時短勤務
希望者の時短勤務を行うことで、家事や育児、介護との両立もしやすくなり、離職率の改善が見込めます。十分な睡眠時間を確保できるようになった結果、社員の健康を守ることにも繋がり、会社と従業員双方にメリットがあるといえるでしょう。
管理職の意識改革
職場の人間関係が原因で離職が多いケースでは、管理職の教育を行ない、意識改革を実施するのがおすすめです。上司との関係悪化で離職に追い込まれるケースは、決して少なくないからです。
上司との関係悪化で離職するのは、会社側に落ち度があります。本来であればチームメンバーを育てるべき管理職が、メンバーをつぶして離職に追い込むようでは、会社にとって大きな損失です。
管理職の教育では、多様な人材が集まることを前提として成果を出すこと、従業員それぞれのワークライフバランスと働き方への理解を深めることが目的となるでしょう。管理職の意識を改革できれば、社内の人間関係が改善し、離職率改善につながります。
社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化は、離職の防止に効果があります。従業員が上司とのタテの関係だけでなく、同僚とのヨコの関係、他部署とのナナメの関係など、幅広いコミュニケーションの機会を持つことで、何か問題が起こっても離職以外の可能性を探れるようになるからです。
社内コミュニケーションを活性化する場合には、ただ個人のコミュニケーション能力にゆだねるのではなく、それを可能とする仕組みづくりが必要となるでしょう。
離職率の改善に成功した企業の事例9選
離職率の改善に成功した企業の事例9選をご紹介します。
サイボウズ
サイボウズ株式会社では、一時期28%と高水準だった離職率を4%へ激減させました。そのポイントは、人事制度設計を従業員自らが行なうようにしたことです。
「100人いれば100通りの人事制度があってよい」との方針のもと、従業員が自ら人事制度を考え、自分に合った人事制度を選択できるようにしました。その結果、在宅勤務制度や、成果や生産性をより重視する「ウルトラワーク制度」などの多様な人事制度が生まれ、従業員の働きやすさが大きく向上したのです。
また、人事制度を自らが作る過程で、従業員の主体性が向上するという効果もあったとのこと。従業員の働きやすさ、主体性の向上が、離職率の低下につながりました。
カネテツデリカフーズ
兵庫県神戸市に本社を置き、かまぼこやちくわなどを製造・販売する食品メーカーカネテツデリカフーズ株式会社では、50%を超えていた新入社員の離職率がわずか数%に激減しました。「仕事は見て覚えろ」という社風を変えたことがポイントだといいます。
以前の「仕事は見て覚えろ」という社風のもとでは、新入社員に対するスキル・ノウハウの共有不足、あるいはコミュニケーションの不足が発生していました。それらの不足が、新入社員の早期離職につながっていたのです。
そこで、「マンツーマン制度」を導入し、既存社員が新入社員を徹底的に教育するという方針に改めました。その結果、新入社員の離職率が低下したのとともに、新入社員を教育することで既存社員も育成され、組織全体のコミュニケーションが活性化したそうです。
鳥貴族
株式会社鳥貴族は、「マイナスの意味での『当りまえ』をなくす」という方針のもとで取り組みを行ない、離職率を低水準に抑えています。
具体的には、店舗に配属された新入社員に、入社後1ヵ月程度で本社の社員が直接話を聞くという取り組みを実施。直属の上司である店長には言いにくい不満があった場合に、それを吸い上げることが目的です。この取り組みにより、新入社員の早期退職が激減しました。
また、残業が多いイメージがある飲食業界には珍しく、無断での残業・休日出勤も禁止されています。どうしても残業が必要な場合には上司への申告が必要なため、申告の際に残業せずに仕事を終わらせる工夫なども相談でき、労働時間は自然と短縮されているようです。
従業員の立場に立った取り組みを複数行なっていくことで、鳥貴族の離職率は低く抑えられています。
レオパレス21
株式会社レオパレス21は、一時期は高水準だった離職率を、現在では約9%と、業界水準以下に大幅低下させました。そのポイントは、研修制度の導入と評価制度の見直しだったとのことです。
研修制度は、管理職向け、営業力強化、組織マネジメントなどさまざまなものを導入した結果、従業員のやる気と能力が高まりました。また、評価制度は「労働時間=評価」ではなく、限られた時間で成果を出す従業員を評価するよう改めました。
この研修・評価制度により、以前の業績を維持したまま、1人あたり月間6時間の時間短縮、34%だった有給取得率は70%へと大幅改善したとのこと。従業員の働きやすさが大幅に向上した結果、レオパレス21の離職率は低下したのです。
ビースタイル
人材派遣・紹介事業を行なう株式会社ビースタイルは、約20%と危機的だった離職率を8%にまで低下させました。ポイントは社内コミュニケーション活性化の取り組みでした。
新たに、社内表彰の「バリューズアワード」や、経営幹部に自分の意見を気軽に伝える「全社日報」、上司との1対1の面談「1on1」などを導入。会社全体が活性化し、それまであまり活用されていなかった制度である「選択式時短勤務制度」、午前と午後の6時~9時は家にいようという「69ファミリーシフト」、「新規事業プランコンテスト」なども活用されるようになっていきます。
社内コミュニケーション活性化により、ワークライフバランスも適正化されるという好循環が生まれました。その結果、ビースタイルの離職率は大幅低下したのです。
ジオコード
Web広告サービスを提供する株式会社ジオコードは、従業員が提案した福利厚生制度を採用する取り組みを行なっています。従業員にとっては「会社は自分たちのことをきちんと見てくれている」という安心感があり、従業員満足度が向上、離職率は低下しました。
実際に採用された福利厚生制度は、軽食の無料配布、従業員全員でサッカー観戦をするための「サッカー休暇」、6月~8月に連続して連休が作れる「エンドレスサマー制度」などがあります。
インテンツ
日常生活に必要な商品・サービスの買い物支援を行なう株式会社インテンツは、これまで行なっていなかった集合研修を実施することで、新入社員の入社1年後の離職率を改善しました。
研修において、新入社員用のマニュアルはもちろんのこと、教育担当のためのマニュアルも作成したことで研修の質が向上し、離職率の低下につながったようです。
竹屋旅館
テル・旅館運営事業、宿泊コンサルティング事業などを行なう株式会社竹屋旅館は、パートやアルバイトの人員増によりOJTによる教育が困難になったため、接客マニュアルを整備しました。
人材育成が効率化されたのはもちろんのこと、面接において接客レベルを説明するため接客マニュアルを使用したため、入社前後のギャップを感じるケースが少なくなり、新入社員の離職率が低下したそうです。
ビッグ・エー
生鮮食品・加工食品を中心としたハードディスカウントチェーンストアを運営する株式会社ビッグ・エーは、年間約1,000人が入れ替わる従業員に向け、新人研修を14日間かけて行なっていたそうです。
その研修を、マニュアルを使用して行なうようにしたところ、研修時間は10日間に短縮。さらに日常的な問題解決にもマニュアルが使えるようになったため、離職率も低下しました。
離職率が高まることの企業への影響
離職率が高まることが、企業にどのような影響を与えるかを見てみましょう。
採用コストがかかる
離職率が高まると、採用コストがかかります。従業員が離職すれば、新しい人材を採用する必要が出てくるからです。
採用コストは具体的には以下のようなものがあります。
・求人媒体への掲載料
・人材紹介会社への紹介料
・説明会の開催費用
・面接などによる社内の人件費
その他に、志願者が遠方に住む場合は「交通費と宿泊費」、リファラル採用を行う場合は「従業員へのインセンティブ費用」がかかることもあるでしょう。離職率が高いと、これらのコストが継続してかかることになります。
新たな採用が難しくなる
離職率が高い場合は、新たな採用が難しくなることがあります。離職率が高いと採用市場で「働きにくい会社なのでは」と判断され、不利な立場になりがちだからです。
そうなると、新規採用の活動をしても思うような結果が得られないだけでなく、人が集まらないため採用活動が何度も必要となり、採用コストが膨らんでしまう可能性があります。
マネジメントや教育のコストがかかる
離職率が高まれば、マネジメントや教育のコストがかかります。人材の離職後に新しい人材を確保したら、会社に慣れて戦力になるまで教育しないといけないからです。
離職が続く場合には、この教育コストがかかり続けることになります。「新人に仕事を教え続けなければいけない」ことに現場のマネジャーや教育係が疲弊して、最悪のケースではマネジメントに携わる優秀な人材が辞めてしまうこともあるでしょう。
社員のモチベーションが下がりさらに離職者が増える
人材の離職が続くと、社員のモチベーションが低下してさらに離職者が増えることがあります。同僚の離職には誰しも少なからずショックを受けるからです。近くで働いてきたメンバーや同期入社のメンバーの退職であればなおさらでしょう。
また、会社のエースが離職する場合、「連鎖退職」を引き起こすこともあります。連鎖退職とは、一人の社員が辞めたことを引き金に、社員が次々と辞めていくこと。「仕事のできるあの人が見切りをつけた」と思うと仕事へのモチベーションが下がり、他の社員が転職を検討するようになってしまうのです。
離職率を下げるために「社員の悩みを可視化する」ことが重要
離職率を下げるためには、アンケート調査の実施などにより社員の悩みを可視化することが重要です。ここで、当社がご提供する離職率改善のためのツール「パルスアイ(PULSE AI)」をご紹介します。
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アンケートの質問数は4つで、スマホでも回答できるため、従業員の負担も最小限。結果をAI(人工知能)で分析し、全従業員の退職リスクを4段階(高・中・低・なし)で判定します。高リスクの従業員に適切なフォローを行えば、会社が望まぬ退職を防ぐことが可能です。
パルスアイのこれまでの分析によれば、離職率へ影響度が高い要因は、以下のものであることが明らかになっています。
1位 仕事内容
2位 職場の人間関係
3位 パフォーマンス
4位 健康(十分な睡眠)
離職率を下げるためには、「自分がやりたい仕事ができているか」が、実は一番重要です。直属の上司だけでなく経営者層や人事部との定期的なミーティングを行う、あるいはジョブローテーションを行うなどにより、「本当はやりたい仕事は別部署にある」の意見を汲み上げることも、離職率の低下に役立ちます。
まずは、社員が何を考えているか、どういう悩みを抱えているかを可視化することから始めてみましょう。