離職率改善を実現するには「現場」の状況把握が不可欠です。離職率が高いとき、社内に原因があることも多く、さまざまなリスクに発展します。本稿では、離職率改善に向けて社内の何を見直すべきか、どのような施策が有効なのかを解説します。

離職率が高い企業のリスク

離職率が高いことによるリスクは、企業のさまざまな方面に派生します。職場にも負のスパイラルを起こしやすいため注意が必要です。

採用が難航しやすい

求職者は、就職・転職先を選択する際に、転職口コミサイト等で対象企業の評判や退職理由をチェックします。その際、離職率が高い企業は、「ブラック企業」「ストレスが多い」「ワークライフバランスが取りにくい」など、何らかの問題を抱える組織と捉えられがちです。

働きたいと企業として選ばれる確率が下がるため、自社の採用活動が難航する可能性が高くなります。

採用・教育コストの増加

社員が離職すれば、代わりの人材が必要となるでしょう。離職した人材を採用するときや入社後の教育などにかけたコスト(経費、時間、労力)は水の泡、振り出しに戻ります。

新たな人材の採用と教育のために、さらにコストを上乗せしなければなりません。定着する人材が自社に利益をもたらす存在になっていく一方で、人材の離職は企業にとって大きなマイナスとなるでしょう。

既存社員の負担増

社員が離職しても、業務は進めなければなりません。新しい人材が入社し、離職した社員が担っていた仕事を一人前にこなすまでには時間がかかります。

その間、新入社員の足りない部分は周りの社員がカバーすることになるでしょう。なかなか採用できなかったり、育たなかったりする時間が長くなるほど、既存社員の負担は増すばかりです。これが、新たな離職を生む原因となることもあります。

離職率が高くなる原因

社員が離職する理由にはさまざまなものがあり、決してネガティブなものばかりではないでしょう。ただし、離職率が高い場合、会社や職場に原因があったケースも少なくありません。考えられる主な原因を見ていきましょう。

労働条件

厚生労働省などの統計でも、離職理由としてよく上位にあるのが労働条件です。給与が低い、勤務時間が長い、休日が少ない・休めないなどがあります。介護や育児など家庭の状況の変化により勤務時間が合わなくなる人材もいるでしょう。

近年は収入増に向けて副業を望む層が拡大しています。給与を上げられない会社が副業を禁止すれば、離職要因になり得るかもしれません。

職場環境

入社後、比較的早期によくあるのが、職場に「馴染めない」「合わない」という理由の離職です。人材と企業の相互理解が十分でないとこのようなミスマッチが発生します。

働き方の選択肢が増え、転職するハードルが低くなっている昨今。働きやすい環境を求め、人材が動く決断を下すまでの時間はどんどん短くなっているようです。

人間関係

社員は共に働く職場のメンバーと、ほぼ毎日関わりながら仕事を進めます。実は、この「職場の人間関係」に悩んだ、辟易したという理由で辞めていく人材は、今も昔もあとを絶ちません。

その相手はさまざまです。そもそも職場の雰囲気に合わない人もいれば、特定の上司や先輩とそりが合わない人もいます。

離職率改善に向けて把握したい2つの要素

自社の離職率を下げるには、「自社」に存在する離職要因の把握が先決です。離職につながりやすい原因をあげましたが、すべてを網羅しているわけではありません。

自社状況を分析・把握する際に米国の心理学者ハーズバーグ氏の「二要因理論」が参考になります。仕事への満足や不満には「衛生要因」と「動機付け要因」の2つがあるというものです。この両方のバランスを考慮しながら、改善策を考えていきましょう。

衛生要因

衛生要因は、働くうえでの基盤として、健康的に安心して働けるかどうか、働きやすさに関わる要素です。前項であげた「労働条件」「職場環境」「人間関係」などがあてはまります。働く企業や仕事に対する、社員の期待ともいえるでしょう。

衛生要因は、不足すると不満が生まれ、期待に沿っていれば満足できます。ただし、一定レベルが満たされると、それ以上の満足は得られないという特徴があります。

動機付け要因

動機付け要因は、やりがいや働きがいといった、仕事に対してモチベーションを高める効果のある要素です。例えば、仕事への関心や成長意欲、承認や達成の機会などがあてはまります。

したがって、正当に評価されない、必要とされていないなどの不満があがるときは動機付け要因への対処が必要です。

この動機付け要因は、もう一方の衛生要因が整っていないと成り立ちにくい特徴を持ちますが、この要因の満足度の向上は、社員のエンゲージメントの向上にもつながります。

企業における具体的な見直しポイント

続いて、「二要因理論」をもう少し掘り下げます。企業が離職率を下げるために、具体的に見直していきたいポイントを見ていきましょう。

給与

「業務内容や量に対して給料が低い」「ライフステージが変わって今の給与では生活がキツイ」などの理由による転職はよくあります。職務内容やスキル・能力に対する客観的な給与水準を把握しましょう。大きく乖離していれば、底上げが必要かもしれません。

ただ、報酬を上げる効果は短期的で、際限がないのも事実です。給与への納得度を高めるためにも、自社の賃金体系と評価基準をしっかり提示しましょう。

労働時間・働き方

「正社員=週5日、1日8時間」の条件では、働き続けるのが難しい、あるいは、勤続しないと考える人材が増えています。すでに、他に働きやすい環境が整っているからです。

長く勤めている優秀な人材にも、迷いや変化が訪れます。できる限り働く時間帯、長さ、場所、雇用形態の選択肢を増やしましょう。

教育・フォロー体制

人手不足が深刻化する中、人材の一人ひとりに時間と手間をかけて教え、育てるのが難しい時代です。しかし、教育体制があいまいだと、人材の安心感や働きやすさを損ねます。

とくに若手や入社直後の人材にとって、誰に聞けばいいかわからない、人によって言うことが違うといった状況は混乱の種。業務においても遅れや失敗が増える可能性が高くなります。担当者やルールを明確に定めて安心して働ける環境を整えましょう。

評価制度

努力や達成が正当に評価されないという不満から離職を考える人材も少なくありません。たとえ企業が評価基準に則って評価しても、人材がその基準を理解していなければズレが生じやすいのです。

社員自身の主観で他のメンバーと比較して不当と感じることもあります。テレワークや在宅勤務など、遠隔で協働するメンバーが増えている昨今。評価基準はもちろん、個々の成果やその評価にも透明性が求められています。

採用方法・プロセス

入社後、人材が早期に離職する場合は、採用のミスマッチがほとんどです。その多くは採用の「選考段階」で防げます。

採用前に企業と候補者の相互理解が深まるよう、採用活動全体を見直しましょう。ネガティブな部分や抱えている課題を含めた会社の事実をきちんと伝えることも重要です。

離職率改善のための取り組み・施策

ここから、企業の離職率改善に役立っている取り組みを紹介します。
自社の状況や社員のニーズと照らしながら、施策検討の参考にしてください。

制度や規定づくりに社員を巻き込む

人事評価制度や福利厚生制度を策定する際に、社員も策定メンバーに加わってもらい、意見やアイデアを取り入れていく方法です。

策定段階で関わる度合いが大きいほど制度理解は深くなり、当事者意識も強くなるため、施行後の社員の実行性や納得度も高まります。企業が制度をつくる本来の意義や姿勢が社員に伝わりやすいのもメリットです。自ずと不満や反感なども起こりにくくなります。

学習機会の充実

企業が終身雇用を約束できない時代。多くの人材が自社業務に留まらない知識やスキルの習得を求めています。自社に勤続し、今、最前線で活躍している人材も常に不安や危機感を持っているからです。

「自分の経験やスキルは、この会社の外でも通用するだろうか」
「自分の市場価値を高めていきたい(成長意欲)」

一社が社員に授与できる経験やスキルは限られています。自社業務に直結しない学習でも、学ぶ機会とスキルを獲得した人材は、自社へのエンゲージメントを高めるでしょう。成長実感も得られるはずです。

1on1やマンツーマン制度の導入

部下をより深く理解し、部下自身の気付きと目標達成を促す1on1面談も効果的です。また、新入社員には年代の近い先輩社員がつき、相談に乗ったり、疑問を解決したりするメンター制度を導入しているところもあります。

時間の捻出や相性などの課題もありますが、職場に理解者や相談相手がいるという認識は、大きな安心感とモチベーションをもたらすでしょう。

指導やサポートをする側の人材にとっても、マネジメントスキルを磨いたり、学びを再確認・復習する機会になります。テレワークで実施しやすいのもポイントです。希薄になりがちな組織のコミュニケーションも活性化します。

定期調査で離職率改善を図る

離職率が高い原因や対策をお伝えしてきましたが、現場の状況把握に難しさを感じる方も多いでしょう。ヒアリングが重要なのは明かですが、社員全員が対象とすれば時間もマンパワーも不足しがちです。

オンラインで可能な定期のアンケート調査を実施してみてはいかがでしょうか。可視化される社員の業務状況や仕事への意識、ストレスなどが自社の現状を知る重要な手がかりとなります。離職につながる要因や改善すべきポイントの発見に役立つでしょう。

定期的に調査することで、企業の姿勢や改善意欲も伝わります。ただし、担当者や回答する社員にとって、その調査が負担になっては本末転倒。スムーズな運用のための配慮や工夫が必要です。

まとめ

離職の原因はさまざまですが、離職を防止するには、社内を多角的に把握しておく必要があります。見直しと改善を繰り返しながら、働きやすい環境を維持していきましょう。

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