1997年に創業した日本のIT企業・サイボウズ。今では「働きがいのある会社」として高い評価を得ている同社ですが、過去には30%近い離職率を記録した年もありました。サイボウズはいかにして組織改革を行い、従業員エンゲージメントの向上に結び付けたのでしょうか。
この記事では、サイボウズが力を入れている主なエンゲージメント施策や、変革を続ける独自の人事・給与評価制度をご紹介します。
サイボウズの概要
サイボウズ株式会社は、業務効率化や社内コミュニケーションの促進に役立つビジネスツールを開発・提供するIT企業です。1997年に愛媛県松山市で創業し、現在は東京都日本橋に本社を置いています。
会社概要
会社名 | サイボウズ株式会社 |
事業内容 | グループウェアの開発・販売・運用 |
創業 | 1997年8月8日 |
資本金 | 613百万円 |
従業員数 | 857名(連結) 647名(単体) |
所在地 | 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー |
拠点 | 東京、大阪、松山、名古屋、福岡、広島、仙台、札幌、横浜、 上海、台北、ホーチミン、サンフランシスコ、シドニーなど |
業績推移
「サイボウズ(cybozu)」というユニークな社名は、電脳を意味する「cyber」と親しみを持った子どもの呼び方「bozu(坊主)」を組み合わせた造語です。企業キャラクターの「ボウズマン」は、拠点を持つ日本・世界の各地に「ご当地ボウズマン」がいるそう。
サイボウズでは「100人いたら100通りの働き方があってよい」という考えのもと、独自のアイデアを盛り込んだ多種多様なワークスタイルの変革に取り組み続けています。
その取り組みが従業員エンゲージメントの向上につながり、Great Place to Work® が実施した『2021年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング 中規模部門(従業員100-999人)』では2位に選出、同ランクングにおいて8年連続でランクインしました。
サイボウズが従業員エンゲージメントに力を入れる理由
サイボウズがワークスタイルの変革に取り組み始めた背景には、創業以降なかなか安定しなかった「離職率」があります。サイボウズは2005年に過去最高となる28%の離職率を記録し、これが組織や評価制度を見直すきっかけとなりました。
サイボウズが取り組んだのは、従業員の多様な働き方を可能にする組織改革です。100人いれば100通りの働き方があるという方針のもとに、「制度」「ツール」「風土」の3要件の変革によって個々の多様性を活かせる働き方改革を行いました。
従業員の多様性を受け入れるサイボウズの組織改革は功を奏し、同社の離職率は2005年をピークに大幅に減少。従業員数は年々増加傾向にあるにもかかわらず、現在の離職率は3〜5%程度で推移しています。
サイボウズが取り組む主な従業員エンゲージメント施策
ここからは、サイボウズが従業員エンゲージメントの向上につなげている主な施策をご紹介します。
働き方宣言制度
サイボウズの働き方宣言制度は、2018年4月から始まった新しい人事制度です。これは、個々の事情に応じて勤務場所や時間を自由に決め、従業員自身が自分に合った働き方を宣言し実行するというもの。各自の情報はグループウェアで公開し「見える化」されるため、他のメンバーはそれぞれの動きをひと目で把握できるようになっています。
働き方宣言制度を導入する前、2018年3月までにサイボウズが採用していたのは「選択型人事制度」でした。この制度は、勤務場所と時間を9つに分類し、その中から自分が希望するワークスタイルを選ぶというもの。しかし、同じ区分であっても、働き方の希望はそれぞれ異なります。より自由に、一人ひとりが望む働き方に対応するために、従来の選択型人事制度から働き方宣言制度へと変更されたのでした。
育自分休暇制度
サイボウズの育自分休暇制度とは、自分自身の成長を目的に会社を退職した人が最長6年間は自由に復職できる制度です。従業員としては一度会社を離れても「戻れる場所がある」という安心感を持って新たなことにチャレンジできるメリット、会社としては社外で身につけたノウハウを自社で活かしてもらい組織力を高められるメリットがあります。
育自分休暇制度のポイントは、社員のチャレンジ精神を前向きに支援するということ。制度の利用にあたっては、あらかじめ今後の活動内容を報告し認定を受ける必要がありますが、退職期間中の状況に関して逐一報告する必要はありません。
一方で、この制度を利用しても会社復帰は強要されないことから、優秀な人材の流出につながる懸念もあるでしょう。サイボウズとしては、社外で学んだノウハウを社内に還元してもらいたいという「長期的な人材戦略」が根底にありますが、他の会社が似たような制度を導入しても成果が出るとは限りません。従業員エンゲージメントが高く、働きがいのある企業として認定されたサイボウズならではの施策といえるかもしれません。
副(複)業許可
サイボウズでは、2012年より副(複)業を可能としています。会社の資産(モノ、カネ、情報など)を扱わない仕事であれば、副業・複業ともに上司の承認や報告の義務はありません。
一般的に、副業は本業があってのサブの仕事、複業は本業と並列の仕事という位置付けがされています。副業・複業を始めるとそれぞれのタスクや時間の管理が欠かせなくなり、効率的な取り組み方やメリハリのある働き方が身につきます。
また、サイボウズでは1つの会社にとらわれず社外で自由に活動できる副業・複業を認めることで、従業員が経済的・精神的に自立できるようにという思いがあります。実際に、フリーランスの編集者やメディア運営のアドバイザー、YouTuber、農業、飲食店経営など、サイボウズに在籍しながら副業・複業を行う従業員の方も多いそうです。
サイボウズの人事制度・給与評価の仕組み
個々の多様性を重視した制度改革で離職率の低下に成功し、働きがいのある企業として認定を受けているサイボウズ。従業員エンゲージメントの向上に寄与する同社の人事・給与評価は、どのような仕組みになっているのでしょうか。
ここでは、変革を続けるサイボウズの人事制度と給与評価についてご紹介します。
【人事】社員同士でつくる人事制度
サイボウズでは2007年から人事制度が始まり、現在(2021年時点)は社員一人ひとりが自身の働き方を宣言する「働き方宣言制度」が運用されています。
サイボウズの人事制度のポイントは、社員同士が意見や提案を出し合って制度の策定につなげているということ。サイボウズには「自立と議論」の文化があり、「説明責任・質問責任」の考え方を社員に周知しています。社員が互いに議論して人事制度をつくっていくプロセスが成り立っているのは、自身の考えを気兼ねなく発言できる風土が社内に形成されているからといえるでしょう。
【給与】「社外的価値」と「社内的価値」を加味
サイボウズの給与評価は、従業員の「社外的価値」と「社内的価値」の2軸から決定されています。社外的価値は転職市場における需要(転職した場合の給料相場)、社内的価値は社内における需要をいいます。まずは社外的価値から給与の金額幅を想定し、次に社内的価値から実際の給与額を想定、給与評価が決定する流れです。
また、サイボウズでは自社クラウドサービス「キントーン」を使い、給与に関する個々の希望や考え方を関係者(マネージャー、人事部など)に明示しています。「従業員側の希望」に「社外的・社内的価値」を掛け合わせて総合的に判断するのがサイボウズの給与評価の仕組みです。
【まとめ】変革を続けるサイボウズの評価制度
サイボウズの評価制度は以下のように変革が続けられています。
評価制度を策定・実行し、運用する中で課題が見つかれば新たにつくり直す。サイボウズには、既存の制度の枠組みにとらわれず、その時々に応じてより適切な評価制度に変えていく「柔軟さ」と「スピーディーな意思決定」があります。
サイボウズのように既存の制度を都度つくり変えていくのは労力がかかります。しかし、会社の資産である従業員の多様性に対応し、誰もが働きやすい環境を整えることは、離職率の低下や組織全体の生産性向上につながります。従業員エンゲージメントを高める施策は、組織力を高めるうえで必要不可欠な重要事項といえるのではないでしょうか。