Facebook(現Meta)は「2020 Drucker Institute Company Ranking」で、従業員エンゲージメントについてGAFAの中では最も高いスコアを獲得しました。

Facebookが成長する過程で採用した従業員は、総合スコアでは上回るApple、Google、Microsoftなどの出身者が多いことを考えると、Facebookにはトップ企業の従業員を惹きつける何かが存在しているように見えます。

そこで今回は、Metaと社名変更する前の、世界最大のSNSプラットフォーム「Facebook」の従業員エンゲージメント戦略についてレポートします。

Facebookについて

(出典:Meta)

Facebookは、35億人以上のユーザーを持つ世界最大のSNSプラットフォーム。2021年10月29日に開催された技術カンファレンスで創設者のマーク・ザッカーバーグ氏が「Facebook」から「Meta」への社名変更を発表し、現在の正式名称は Meta Platforms, Inc.となっています。

Metaは、新しい時代に対応するためにビジネスの主戦場を二次元のSNSから三次元の仮想空間(メタバース)に移行したことを象徴する社名です。その仮想空間の中でユーザーは、社交、仕事、遊び、ショッピング、学習、クリエイティブ活動などを楽しむことができるといいます。

現在、FacebookはMetaのSNS事業の一つになっていますが、本記事では誕生して間もないMetaではなく、従業員エンゲージメントの主体となってきた企業名の「Facebook」を使用しています。

会社概要

  • 社名:Meta Platforms, Inc.
  • 会長兼最高経営責任者(CEO):マーク・ザッカーバーグ
  • 設立:2004年
  • 従業員:約58,000人
  • 本社:米国カリフォルニア州メロンパーク
  • 拠点:世界の80以上の都市にオフィス、17ヶ所にデータセンターを持つ
  • 主な事業:Facebook、Messenger、Instagram、WhatsApp、Oculus、Workplace、Portal

利用者数(2021年9月現在)

  • サービス全体の月間アクティブユーザー 35.8億人
  • ビジネス利用 2億社以上
  • 1日に送信されるメッセージ 1,000億件以上

沿革

  • 2004年 マーク・ザッカーバーグ、ダスティン・モスコヴィッツ、クリス・ヒューズ、エドゥアルド・サヴェリンが、ハーバード大学在学中にThe Facebookを創立、年末にはアクティブユーザーが100万人に到達
  • 2005年 社名をFacebookに改名、アクティブユーザーは600万人規模に
  • 2007年 Facebook動画、Facebookページをリリース
  • 2011年 Messengerが登場
  • 2012年 Instagramの買収を発表、NASDAQに株式上場
  • 2014年 WhatsApp、Oculusの買収を発表
  • 2016年 Workplaceが登場
  • 2017年 Instagramショッピング開始
  • 2019年 Instagramに支払機能を追加、Facebook Payをリリース
  • 2020年 Facebookショップ開始
  • 2021年 メタバース構想を発表し、社名をMetaに改名

業績の推移

Facebookは創立してから順調にユーザーを増やし、2012年の株式上場からの業績はグラフに表れているように、非常に高い成長率を維持して来ました。

経営者のプロフィール

マーク・ザッカーバーグは、1984年5月14日に米国ニューヨーク州ホワイト・プレインズで誕生。幼少期からコンピューターに興味を持ち、両親が彼の才能を伸ばすためにプライベートコンピューターの家庭教師を雇ったほど。

ハーバード大学工学部に入学すると、ザッカーバーグはダスティン・モスコヴィッツらとFacebookを創立し、1年後に大学を中退。彼がFacebookを創立した後、サイトアイデアなどを盗用したとしてクラスメートから知的財産権の侵害で提訴された事件を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」は、2010年に米国で公開され大ヒットしました。

2012年5月に実施した株式公開では160億ドルを調達。Facebookの株式を28.4%保有していたザッカーバーグは、マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツやGoogleの共同創設者ラリー・ペイジなどの世界で最も裕福な人々の仲間入りを果たしました。

現在の肩書はMetaの「創業者、会長兼CEO」で、会社全体の方向性や商品戦略の策定に責任を持っています。同時に、彼は保有するFacebook株式の99%を投資するとして、彼の妻と2015年に慈善事業を行う会社「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ」を設立。豊富な資金を背景に慈善活動にも積極的に取り組んでいます。

Facebookの充実した福利厚生

最初に、従業員エンゲージメントの重要な要素となるFacebookの充実した「福利厚生」について紹介します。

Facebookが従業員に提供するさまざまな特典は、Glassdoorでも高い評価を得ており、GAFAの中でも他社に引けを取らない充実した内容ですが、特筆すべきなのは「ウェルネスプログラム」で、以下にあげるように非常に細やかなメニューが用意されています。

  • 自閉症カバレッジ
  • がんケアプログラム
  • 歯科プラン
  • 扶養家族ケアFSA(Flexible spending account)
  • ヘルスケアFSA
  • 不妊治療カバレッジ
  • 出産給付および有給育児休暇
  • 医療プラン
  • 医療セカンドオピニオン
  • メンタルヘルスカバレッジ
  • トランスジェンダーカバレッジ
  • バーチャルドクター
  • 視覚プラン
  • ウエルネスセンター利用
  • ウエルネス払い戻し

この他に、家族に対するサポートとして「有給育児休暇」「養子縁組・代理出産支援」「新生児費用支援」「介護支援」、資金のサポートとして「退職金制度」「生命保険料・生存者支援」「ビデオ税務相談」「両親のための法的サポート」、さらに「十分な有給休暇」「無料の食事」「電気自動車の無料充電ステーション」なども含まれています。

FinancesOnlineによると成長過程のFacebookの従業員の離職率は約5%と低いレベルで推移していますが、この要因の1つが「報酬と福利厚生」のパッケージであることは、上記COMPARABLYの従業員アンケート結果からも分かります。

しかし、ライバル企業も優秀な人材を採用するために充実した「報酬と福利厚生」を用意しているので、この点だけでFacebookの優位性を認めることは難しいと思われます。

Facebook、エンゲージメントの秘密は Facebook?

「報酬と福利厚生」のパッケージでは大きな差別化が図れないとすると、FacebookがApple、Google、Amazonなどを上回る業員エンゲージメントの評価を獲得できた背景には何があるのでしょうか。

この謎を解くヒントとなるのが、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが2012年に発表したレポートです。以下、要点を抜粋しました。

McKinsey Global Institute(MGI)のレポート

企業の72%は何らかの形で「ソーシャルテクノロジー」を使用しているが、潜在的価値を最大限に活かしている企業はほとんどない。

企業は「ソーシャルテクノロジー」を利用して消費者との関係構築や製品開発・マーケティング・カスタマーサービスに関する情報を収集している。

しかし、MGIは「ソーシャルテクノロジー」を企業内・企業間のコミュニケーション、知識共有、およびコラボレーションを強化するために活用すれば2倍の潜在的価値があることを発見した。

MGIの推定では、企業は「ソーシャルテクノロジー」を完全に実装することで、マネージャーや専門家を含む高度な知識労働者の生産性を20〜25%向上させる可能性がある。

(出典:McKinsey & Company)

「ソーシャルテクノロジー」とは、SNS、ブログ、ウェブ会議などインターネットやモバイル端末を使用し社会的相互作用を促進する「ソーシャルメディア」に関する技術のことです。

デジタル ワークプレイスを提供するIgloo Softwareが、米国の大企業・中企業の従業員2,000人を対象に実施した調査では、76%の従業員が同僚と友情を深めたり、緊密な絆を築いたりするツールとして何らかの「ソーシャルメディア」を利用していると回答。

各メディアの利用率は次の通りです。

  • Facebook  87%
  • Instagram 42%
  • Linkedln   42%
  • Twitter    38%

他社の従業員からも支持されていたSNS「Facebook」ですが、2016年にビジネス用Facebookとも言われる「Workplace」をリリースする前から、Facebookは社内バージョンを長期に渡り使用していたといいます。

Workplaceは、Facebookの画面などをそのまま活用しビジネスに必要な機能を付加したものです。セキュリティを強化し、プロジェクトごとにグループを作成し情報共有できるようにするなど、長年に渡って利用してきた社内バージョンのノウハウが生かされています。

マッキンゼーによれば、「ソーシャルメディア」を介して個人レベルで関与し、共有したいという同僚の願望は人間の本性であり、前向きな利益をもたらすことができ、従業員はチームとしてよりよく働く傾向があり、感情的なつながりを持って、プロジェクトにさらに一歩進んで取り組む傾向があるといいます。

人材コンサルティング分野では世界をリードするWills Towers Watsonは従業員エンゲージメントを次のように定義しています。

従業員エンゲージメントとは、会社が成功するために、従業員が自らの力を発揮しようとする状態が存在していること

これは、マッキンゼーが主張する「ソーシャルメディアが従業員にもたらす効果」と「従業員エンゲージメント」とが等しいことを表しています。

興味深いのは、COMPARABLYがFacebookの従業員を対象に行ったアンケートでも、マッキンゼーの主張を裏付けるような結果が出ていることです。

Facebookの従業員は、IT企業では重要な「革新性」「スピード」「情熱」などよりも、SNS「Facebook」によって醸成された「透明性と誠実・公平性」「チームワークと勝利」が重要であると位置付けているのです。

まとめ

高い成長率と低い離職率を長期間維持してきたFacebook、そして高い成長率と「2020 Drucker Institute Company Ranking」の従業員エンゲージメント評価で最高スコアを獲得したZoomが、どちらも自社の「ソーシャルメディア」を利用していたことは偶然ではないと思われます。

従業員エンゲージメントの要素となる、さまざまな制度・特典・報酬などは、企業文化に基づき最適化する必要がありますが、Facebookは創立当初から社内で利用していたSNS「Facebook」から得られた従業員の要望、不安、生活スタイルの変化などの情報をもとに、時代に合った従業員エンゲージメント戦略を展開してきたのではないでしょうか。

リモートワークなどの新しい働き方が普及するこれからの時代では、マッキンゼーが主張するように「ソーシャルメディア」の導入が従業員エンゲージメント戦略のカギを握っているのかも知れません。

<参考>