サイバーエージェントは、インターネット業界で業容を拡大し、存在感を増している成長企業です。

なかでも各業界から注目されてるのは、M&Aに頼らずに100を超える子会社を次々に設立した、新規事業の開発力です。

新規事業開発や内部からの子会社の設立には、チャレンジ精神が旺盛な人材の育成が欠かせません。

この記事では、「あした会議」と名づけられたユニークな提案イベントを中心に、社員のチャレンジ精神を鼓舞し、フォローするサイバーエージェントの人事制度と福利厚生制度について、わかりやすく解説します。 

サイバーエージェントとは

1998年にインターネット広告事業で創業したサイバーエージェントは、2021年度通期決算で6,668億円の売り上げを計上する大企業に成長しました。

従業員数は単独で1,587人 子会社との連結では5,944名におよびます。2000年3月に東証一部に上場しました。

本社は東京都渋谷区にあり、代表取締役社長は藤田 晋氏です。

Webメディア事業、スマホゲーム事業、に参入

2004年にブログサービス「Amebaブログ」を開始し、2009年にはYahoo!ブログ、FC2ブログと並ぶ「三強ブログ」と呼ばれるまでに成長しました。

2009年にゲーム事業に参入し「グランブルーファンタジー」などの人気ゲームをリリース、スマホゲームの市場の成長と共に規模を拡大しています。。

2016年にはネットテレビ「AbemaTV」を開設し、メディア事業に参入しました。

M&Aに頼らずに115の子会社を設立

変化の早いインターネット業界で成長し続けるには、特定部門の成功体験に安住せずに、関連事業の新規開発が必須です。

ネット広告事業からスタートして、Webメディア事業、スマホゲーム事業に進出したサイバーエージェントは、2021年までに115の子会社を設立しています。

急速に子会社を増やす大企業の多くはM&Aによって人材とノウハウを買い取っています。しかし、サイバーエージェントはM&Aに頼らず、内部で育った人材とノウハウが独立する形で子会社を増やしているのが特徴です。

M&Aは、社員の知らないところで、経営者の決断で進めることが可能です。しかし、自社の内部から子会社を「産みだす」には、経営者と社員の「協働」が必要です。

経営者には人材育成に対するゆるがぬ姿勢が求められ、社員には高いエンゲージメントとチャレンジ精神が求められます。

「あした会議」とは

広告事業部版あした会議

「あした会議」とは、サイバーエージェントの“あした”をつくる新規事業や組織改革案を提案する会議です。2006年にスタートして、半期に1度、あるいは1年に1度、1泊2日の合宿で開催されています。

役員1名と社員5名が1つのチームを組む「提案バトル会議」

「あした会議」は、代表の藤田 晋を除く8名の役員がチームリーダーとなり、各チームが5名の社員を募ってメンバーとします。

ユニークなのは、各役員は担当部署に関する事業の提案をしてはならず、メンバーも自部署から集めてはいけないことです。

会議当日は各チームがプレゼンテーションして、藤田代表がコメントして採点します。それを見て各チームが当日の夜に5~6時間かけて案をブラッシュアップして、再提案します。

最終的に藤田代表がランキングして取捨を決議し、その結果は社内に公表されます。

「あした会議」で設立が決まった子会社は30社

これまで「あした会議」で産み出された子会社は30社あり、そこでつくられた売り上げは1,000億円以上(2018年時点)になります。

サイバーエージェントの事業の3本柱の1つであるゲーム事業も、2009年の「あした会議」から生まれたものです。

事業創出だけでなく、役員の本気を見る機会になっている

「あした会議」は事業創出だけでなく、役員が本気でコミットする姿を社員が目の当たりにする機会にもなっています。

藤田代表が公言している「サイバーエージェントは上に行くほどよく働く会社」が本当だと社員が実感するのです。

また、さまざまな部署の社員がチームを組むので、社内交流の良い機会にもなっています。

あした会議が機能するために必要な土壌(企業文化)とは

サイバーエージェントは、自社の経営姿勢を15項目の「ミッションステートメント」として公表しています。その中で人事・組織について次のように述べています。

  • 若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止
  • 有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現
  • 挑戦した敗者にはセカンドチャンスを

これらの姿勢を具体化するために、どんな施策が行われているかを見てみましょう。

経営トップのビジョンを社員へ粘り強く発信する

サイバーエージェントは、半期に1度開かれ全社員が参加するグループ会議で、会社の方針が代表の藤田から発表されます。

また、役員はランチや夜の飲み会などで、改めて方針の細部について社員に伝え、疑問に答えています。

「21世紀を代表する企業を創る」というビジョンや「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というパーパスは、冊子に言語化されるとともに、壁に掲示されます。

現在は廃止されましたが、2018年まで「CA8」という役員の交代制度がありました。これは、2年に1回8人の役員の2人が交代(降格)するという厳しい制度です。社員はこの制度によって、サイバーエージェントは役員もチャレンジャーだということを実感したことでしょう。

経営層の本気とそのていねいな発信が、社員のチャレンジ精神を触発する源泉になっているのです。

「挑戦と安心はセット」を保証する人事制度

「挑戦しよう」とハッパをかけるだけでは、社員はついてきません。サイバーエージェントは、挑戦と安心はセットだと考えます。

人事制度の挑戦の軸には「あした会議」や全社員からの新規事業案公募制度があります。一方で安心の軸には、

  • ツキイチ面談(直属上司との月1回の面談。上司は「指摘」ではなく「納得」を心掛ける)
  • 臨床心理士カウンセリング
  • 休んでファイブ(2年勤続者は、5日間の連続した休みを取得できる)
  • マッサージルーム
  • 2駅ルール(オフィスから2駅圏内に住む正社員に月額3万円の家賃補助)

など、数々の福利厚生制度やメンタルヘルスのケア制度が設けられています。

金銭報酬だけでなく「感情報酬」を重視

サイバーエージェントの給与は、社員の平均年齢33.2歳で平均年収が733万円(Yohoo!ファイナンス :2022年1月6日)と、IT企業としても比較的高額です。

しかし、サイバーエージェントは、待遇への社員の納得感は金銭報酬だけでなく「感情報酬」によって得られると考えて人事制度を構築しています。

「感情報酬」とは、働きやすさ、仕事の楽しさややりがいのことです。上記のような福利厚生制度も含まれますが、「あした会議」や次章で紹介するチャレンジ制度で感じるやりがいが重要だと考えます。

社内サーベイ「GEPPO」で月に1回社員のメンタルヘルスを把握

サイバーエージェントの福利厚生制度で有名なものに、従業員のコンディション把握ツール「GEPPO」があります。

GEPPO(ゲッポウ)は、月に1回全社員に下記の3つの質問をします。

1.個人の成果やパフォーマンスに関する質問

2.チームの今のコンディションに関する質問 

3.その他の質問(記述式)

社員は「晴れ、曇り、雨」の天気にたとえて自分のコンディションを回答します。

GEPPOは社内用に開発されたサーベイシステムですが、商品にもなり多くの企業に導入されています。

サイバーエージェントの組織風土についての社員の声

転職情報の口コミサイトから、サイバーエージェントの組織風土についての現社員・元社員の声をひろってみましょう。(引用元 : https://jobs-change.jp/cyberblack/

新卒や若い人が多いからか、愛社精神が強い人が多い印象。それゆえ仲間内の盛り上がりは強い。最初の採用時から、社長の理想は大きく反映されるので、会社理念そのままで、違和感なく働けるのでは。(30代_女性_現役社員_クリエイティブ職)

ミーハー、若手偏重、キラキラ系。ここにハマる人は居心地が良いと思います。新卒若手に対するバックアップ体制がしっかりしていて、チャレンジ環境も若手に集中している。新卒入社の3年目まではとても良い環境で仕事ができます。(30代_男性_現役社員_企画職)

仕事よりもコミュニケーション(社内イベントや制作)が重視されることがあるのは、いかがなものか。「見た目がいい新卒は顔採用、見た目が悪い中途採用は実力採用」と言われるほど、実力格差。(30代_女性_元社員_クリエイティブ職)

現社員と元社員の声に温度差があるのは当然として、社員のチャレンジする姿勢に対する会社の応援姿勢がうかがえる内容です。

インターネット業界に必須なチャレンジ精神を育てる施策

社員のチャレンジ精神を涵養するために、サイバーエージェントがどのような人事制度を用意しているのかを見てみましょう。

社内ヘッドハンター制度

サイバーエージェントには、どの部署にも属さない社内専門のヘッドハンターが3名(2018年10月時点)いて、フラットな視点で社内部署間の異動をサポートしています。

このヘッドハンター制度を利用して、毎年150~200件ほどの異動が実現しているといいます。

社内向け求人情報「キャリバー」でキャリアチャレンジを応援

「キャリバー」は社内向けの求人情報サイトで、各部署からどんな仕事をしていて、どんな人が欲しいかの情報が掲載されます。新たなキャリアに挑戦したい社員は、その情報を見て応募するのです。

この制度で毎年120件ほどの応募があり、そのうち半数程度の異動が実現しているといいます。

FA制度

エンジニア向けには、2年に1回FA権を行使して異動ができる制度が用意されています。

FA権が行使できるようになった社員には、人事部からその旨の連絡が入ります。この制度によって数ヶ月に1~2件ほど異動が実現しているといいます。

まとめ

変化が激しく、栄枯盛衰のチャンスとリスクに満ちたインターネット業界。その中でめざましい成長を続けるサイバーエージェントの発展のカギは、M&Aに頼らない新規事業の開発にあります。

そのために必要な人材とノウハウの獲得を担保しているのが、経営層のやる気に応える社員のチャレンジ精神だと言えます。

社員のチャレンジ精神を涵養し、下支えするために、ここまで紹介してきたような数多くの制度が用意されています。

華やかな業界での華やかな人事制度や福利厚生と言えばたしかにそうですが、それを維持し、機能させるための経営トップの強い意思が感じられます。