「圧倒的当事者意識」「お前はどうしたいの?」など様々な“リクルート”用語と呼ばれるワードを生み出してきた株式会社リクルート。
ダイヤモンド・セレクト編集部の行った「社員のエンゲージメントが高い企業ランキング」でも上位に位置するなど人材開発の上手な企業としても知られています。
(出典:社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング・ベスト50)
時価総額上位に名を連ねるようになった今でも社風はベンチャー気質と言われ、多くの起業家を生み出すその秘訣はどこにあるのでしょうか。
本記事ではリクルートの人材開発に焦点を当て、エンゲージメント向上を担っている具体的な施策もご紹介します。
是非ご自身の会社でも導入の参考にしていただければ幸いです。
リクルートとはどんな企業か
「まだ、ここにない、出会い」
テレビでよく耳にするリクルートのCMです。
SUUMOやゼクシィをはじめとする大人気のブランドを生み出し続けるリクルートをまずは紐解いていきます。
会社概要
社名 | 株式会社リクルート |
従業員数 | 15,807人(2021年4月1日現在 / アルバイト・パート含) |
資本金 | 3億5千万円 |
本社所在地 | 〒100-6640 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー |
事業内容
リクルートは様々な領域で事業を行っていますが、事業内容は大きく以下3つに分類されます。
HRテクノロジー
→オンライン求人プラットフォームの運営や人材ビジネスに関するソリューション提供を行う事業
メディア&ソリューション
→住宅・美容・結婚・旅行・飲食などからなる販促領域と個人ユーザーの求職活動と企業クライアントの採用活動を支援する人材領域からなる事業
人材派遣
→事務職派遣、製造業務をはじめとする専門職派遣などの総合的な人材派遣サービス事業
沿革
リクルートは江副浩正氏により、1960年に「大学新聞広告社」として設立されました。
その後、名称変更や分社化などによるグループ再編を経て、2021年に新生株式会社リクルートとなっています。
- 1960年:大学新聞広告社設立
- 1963年:「株式会社日本リクルートセンター」に社名変更
- 2006年:カンパニー制度導入
- 2012年:分社化によるグループ再編
- 2021年:株式会社リクルートと事業会社7社が統合
(出典:リクルート 沿革・歴史)
業績推移
セグメント別の売上収益では人材派遣が大きな割合を占めます。
コロナウイルスの流行により、主軸の人材派遣業をはじめとして、2020年度は一時的に売上収益の落ち込みが見られました。
しかし、そこからの立ち直りは早く2020年度後半にはコロナ禍以前の売上収益をおおよそ回復しています。
価値創造の源泉は「人」であると捉えるリクルートの文化
リクルートでは価値創造の源泉は「人」であると捉えられ、従業員の「個」を尊重することが求められます。
「個の尊重 – Bet on Passion」という考え方には江副氏をはじめとする創業メンバーが大学の心理学科で学んだ内容が大いに影響しています。
リクルートでは個人のエンゲージメントを起点に組織を成長させる手法が「心理学的経営」として書籍になるなど、うまく社内で確立されています。
私たちの価値観(バリューズ)の中で大切にしている、「個の尊重 – Bet on Passion」という言葉にも象徴されています。さまざまな人事制度に仕組みとして反映されていると同時に、”自分が上司にしてもらったように、部下にも機会を提供したい”という思いの部分も含めて、ある種の組織文化となって受け継がれています。
(出典:瀬名波文野:CHROメッセージ)
CHROのメッセージにもあるように、人事としてだけでなく、社員全員にうまく従業員エンゲージメント向上の大切さが浸透していることが読み取れます。
リクルートはなぜ従業員エンゲージメントに力を入れるのか
組織が拡大する中で、社員の価値観が多様化することで従業員感のギャップが出てしまい、従業員エンゲージメントは低下します。
リクルートもM&Aによる組織の拡大などを経て、上記の課題にぶつかったことがエンゲージメント施策に力を入れたきっかけでした。
そこで2018年に社員のパフォーマンスを引き出し、行動指針である「バリューズ」を体現する組織づくりをミッションとして「Employee Experience Design部(以下、EXD部)」が立ち上がりました。
(出典:正しい「心理的安全性」が組織の実行力を高める。リクルートのエンゲージメント経営)
EXD部では「心理的安全性」が従業員エンゲージメント向上のためには必須と捉え、「心理的安全性」を担保し社員のパフォーマンスを最大限引き出すために尽力するようになります。
次章では実際にリクルート社内にて行われているエンゲージメント施策をご紹介します。
リクルートが取り組む魅力的な従業員エンゲージメント施策を紹介
リクルートの社員は当事者意識が強く、モチベーション高く働けていることで有名で、先述のように社員エンゲージメントも高いことが示されています。
本章ではリクルート社内で実際に行われている、従業員エンゲージメント施策をご紹介します。
リクルートならではの表彰文化
リクルートでは多くの部署でアワードと呼ばれる表彰の仕組みが整えられており、社員から見てもモチベーションの上がる仕組みとなっているようです。
キックオフや納会など、定期的に表彰や集まる機会があるので、なれれば嫌でもモチベーションがあがる仕組み
(出典:Open Work 「株式会社リクルート」)
一般的な企業でも社長から授与されるような表彰はあるかもしれませんが、リクルートではあくまで「自分の視点」が重要視されます。
成績だけで見るのではなく、ビジョンに沿っているのかの確認、行動プロセスのナレッジ化を進めることもリクルート式表彰の大きな特徴です。
Ringと呼ばれる社内起業支援プログラム
上司から「新規事業を任せたい」という旨を受けた者が新規事業に取り掛かるという構図が多い中、リクルートでは「Ring」と呼ばれる立候補制の起業支援プログラムを整備しています。
そしてこれは学生時代のビジネスコンテストとは違い本気の事業化を想定しているため、過去に「ゼクシィ」、「ホットペッパー」、「スタディサプリ」なども生まれており、その本気度が伝わります。
そして何より重要なのは「Ring」が事業化だけでなく、企業文化の醸成にもなっているという点です。
起業家精神を大事にするリクルートでは挑戦するというマインドを重要視しており、「Ring」はその一環として位置づけられエンゲージメントの向上に一役買っています。
退職を「卒業」と呼び歓迎する文化作り
一般的に退職者は多くの企業で歓迎されません。
しかし、リクルートでは退職を「卒業」と呼び、歓迎する文化があります。
これにより人材の新陳代謝が働き、無駄に会社にしがみつく人材を減らすことで従業員のモチベーションが下がらないような仕組みになっています。
休暇制度の充実
最後にリクルートの休暇制度はかなり充実しており、年間休日数が145日になったことで実質週休約3日となり話題になりました。
その他にも在籍3年ごとに1回、14〜28⽇の範囲で任意に取得可能な「ステップ休暇」や家族のケアに使用できる「ケア休暇」などが整備されています。
実際社員の評判も上々で以下のような口コミが目立ちます。
有休やリフレッシュ休暇など、休みは沢山とることができます。休みを取ることに関しては、自由度が高いため、自分で仕事をコントロールさえできれば、好きなタイミングで長期休暇を取ることも可能です。
(出典:エン ライトハウス 「株式会社リクルート」)
休みは非常に多い上、取得しやすい環境。スケジュール感にもよるかとは思うが、咎められることはほぼない。有給休暇に加えてフレキシブル休暇も半年間に6日間存在し、それは使い切らないといけないため休みは非常に多いなと感じる。
(出典:エン ライトハウス 「株式会社リクルート」)
休暇制度の充実は従業員にとって非常に魅力的なことは間違いないので、制度を整えることでアピールポイントとなりそうです。
社員に当事者意識を生むリクルートの人事評価制度の特徴
エンゲージメントの高さは従業員の当事者意識に表れます。
「圧倒的当事者意識」というワードも生まれるほどのリクルートでは当事者意識を生むための厳格な人事評価制度が敷かれています。
Will(キャリア)/Can(スキル)/Must(目標)で運用する評価制度
Will/Can/Mustシート、通称WCMシートとは以下の要素で成り立つ目標管理シートです。
- 本人が実現したいこと(Will)
- 活かしたい強みや克服したい課題(Can)
- 能力開発につながるミッション(Must)
WCMシートを通じて、しっかり従業員が実現したいことを言語化し、半年に一回すり合わせるという制度が整っています。
またシートにまとめられた強みや課題感に対してどのようなポストが最適かを議論する「人材開発委員会」という場も設けられています。
個人のモチベーションアップだけでなく、組織にも従業員をうまく活かせる仕組みがWCMシートの運用です。
あくまで能力を重視するミッショングレード制
評価と給与は本来切り離せないものですが、日系大手の企業ではまだまだ同期で給与が横並びの企業も多いようです。
しかしリクルートでは「ミッショングレード制」と呼ばれる人事報酬制度を制定しており、これにより年次関係なく客観的なランクで給料が決まります。
給与制度:給与はミッショングレードにより決まり、自身のスキルに合わせて若いうちから昇給は可能。
(出典:エン ライトハウス 「株式会社リクルート」)
口コミを見ると、ミッショングレード制が形だけのものではなく実際に機能しているのがリクルートの評価制度の特筆すべき点です。
エンゲージメント向上施策こそがリクルートの競争力の源
リクルートの従業員エンゲージメント向上施策を見てきましたが、根底に価値創造の源泉は「人」という考えがあり、その考えをサポートするだけの施策が整備されていることがお分かりいただけたかと思います。
これこそがリクルートの強みの源泉であり、競争力となっています。
評価シートの見直し、表彰制度の確立などは今すぐ社内で実行可能な施策です。
この機会に小さな部分から従業員エンゲージメント向上施策を試してみてはいかがでしょうか?