本レポートでは、日本および海外の企業(大手企業・中小企業)における「ワークライフバランス(WLB)」充実度向上に関する現状と取り組みについて整理します。まず、WLBの充実度が低い主な原因を分析し、次に充実度を高めるために企業が講じるべき施策を示します。また、WLB充実度が高い先進企業の事例を日本・海外から大手企業と中小企業の両方で紹介し、最後にWLB充実度を計測する方法としてエンゲージメントサーベイを含む手法を説明します。

ワークライフバランス充実度が低い原因

ワークライフバランスの充実度が低迷してしまう背景には、複数の要因が絡んでいます。主な原因として、次のような点が挙げられます:

  • 長時間労働の慣行と企業文化: 日本では特に、長時間労働や休日出勤が当たり前とされる企業文化が根強く残っています。仕事中心で個人の生活より業務優先とする風土の中では、従業員が私生活の時間を確保しにくく、WLBの充実度が下がってしまいます。これは社員の疲労蓄積やモチベーション低下にもつながり、生産性にも悪影響を及ぼします。海外でも業界によっては長時間労働が常態化しているケースがありますが、日本では特に「長く働くほど頑張っている」という価値観が残っていることが要因の一つです。
  • 有給休暇取得率の低さ: 従業員が十分な休暇を取得できていないことも充実度低下の原因です。日本では有給休暇の取得率が5割程度と低迷しており、休みたくても周囲に遠慮して休めない、休暇を取得すると評価に響くのではという不安が存在します。その結果、リフレッシュや私生活の充実ができず、仕事と生活のバランスが取れなくなっています。
  • 柔軟な働き方が導入されていない: フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な勤務制度がない、または利用しづらい環境も要因です。従来の出社前提・定時勤務のみの働き方では、育児・介護や自己啓発などと両立しにくく、従業員は私生活上の事情があっても働き方を調整できません。海外ではテレワークや時短勤務などを導入している企業も多いですが、日本企業では制度があっても利用しづらい雰囲気や、中小企業では制度自体がない場合もあります。
  • 経営層の理解不足: WLB向上の必要性について、経営陣や上司の理解・協力が得られないケースも見られます。従来の働き方で業績を上げてきた管理職層が「ワークライフバランスは甘え」と捉えていたり、短時間勤務により生産性が下がるのではと懸念したりするため、改革が進みにくいのです。経営者のコミットメントが欠けると、社内でWLB推進の施策を導入すること自体が難しくなります。
  • 運用面での課題: 仮にテレワークやフレックスを導入しても、勤怠管理や人事評価の難しさがボトルネックになる場合があります。在宅勤務だと上司が部下の働きぶりを直接確認しづらく、公平な評価基準をどう設計するかという問題に直面します。また、一部の職種だけ在宅勤務可とした場合に出社せざるを得ない従業員との不公平感が生じることもあります。さらに、中小企業では人手に余裕がないために一人休むと業務に支障が出やすく、結果的に制度が有名無実化してしまうことも原因と言えます。

以上のような要因が複合的に影響し、WLBの充実度が低い状況を招いています。

充実度を高めるために企業が取り組むべきこと

ワークライフバランスの充実度を向上させるには、上記の課題を踏まえて企業側で積極的な施策を講じる必要があります。具体的に企業が取り組むべきこととして、以下のような施策が考えられます:

  • 経営トップによる旗振りと方針共有: まず経営者やトップマネジメントがWLB向上の意義を正しく理解し、明確な方針を示すことが重要です。トップが率先して「仕事と生活の調和」を経営戦略の一環として掲げ、全社にメッセージを発信します。経営層がコミットすることで社内の意識改革が進み、現場も取り組みやすくなります。
  • 自社の課題分析と目標設定: 自社におけるWLB阻害要因を洗い出し、改善すべき課題を明確化します。例えば「残業時間月◯時間以下」「有給取得率◯%に向上」など具体的な目標値を設定し、その達成を推進します。現状を正確に把握した上で目指す理想像を共有することで、社員も改善の必要性を認識できます。
  • 柔軟な働き方制度の導入・拡充: フレックスタイム制、時差出勤、在宅勤務(リモートワーク)、週休3日制など、従業員が働く時間・場所を調整できる制度を導入・拡大します。育児・介護中の社員には短時間勤務や在宅勤務を認める、週に1度はノー残業デーを設け定時退社を促す、といった具体策が有効です。単に制度を作るだけでなく、誰もが遠慮なく制度を利用できる職場風土にすることも大切です。管理職が率先して休暇を取得したり定時退社したりすることで、部下も利用しやすくなる効果があります。
  • 休暇取得推進と業務見直し: 年次有給休暇や特別休暇を取得しやすい環境づくりも必要です。会社として最低◯日間の連続休暇を推奨したり、有給休暇取得を評価に組み込んだりすることで、遠慮なく休める雰囲気を作ります。業務量が多く休めない場合は、人員配置の見直しや業務の効率化を図り、休めるだけの余裕を生み出すことも重要です。業務プロセスの改善や無駄な会議の削減、ITツール活用による効率化などで仕事を効率よく終えられる仕組みを整えます。
  • 評価制度の改革とアウトプット重視: 働き方が多様化すると従来の「時間や残業で評価する」やり方は適切でなくなります。そこで成果やアウトプットで評価する人事制度に改め、在宅勤務でも公正に評価される仕組みにします。目標管理制度(MBO)やOKRを活用し、各自の貢献度を見える化して評価基準を明確にします。また評価プロセスや基準を社員に開示して透明性を高めれば、制度への納得感が向上し、不公平感を減らすことができます。
  • 従業員の意識改革と研修: 企業側の制度整備と並行して、従業員一人ひとりの意識改革も不可欠です。社員教育や研修を通じて「効率的に働いて成果を出す」「休むときはきちんと休む」という意識を浸透させます。長時間労働を美徳としない価値観への転換や、上司も含めたタイムマネジメント研修の実施、メンタルヘルスやワークライフバランスに関する啓発などにより、会社全体で新しい働き方への理解を深めます。

以上のような施策を総合的・継続的に実施し、PDCAサイクルを回しながら改善を進めることで、ワークライフバランスの充実度向上が期待できます。特にトップのリーダーシップ現場の意識改革の両輪が揃うことで、大きな効果が生まれるでしょう。

ワークライフバランス充実度が高い企業の先進事例

実際にWLB充実に成功している国内外の企業事例を、大企業と中小企業からそれぞれ紹介します。それぞれの企業が行った取り組みと成果を比較表にまとめました。

カテゴリ企業名(国)主な取り組み内容と成果
日本(大手企業)資生堂(日本)育児・介護と仕事の両立支援策を充実。特に男性社員の育児休業取得を促進し、2週間以内の育休を有給化して繰り返し取得可能に制度改定。これにより男性の育休取得者が増え、男女問わず育児参加しやすい職場を実現した。社員の仕事と家庭の両立満足度が向上し、優秀な人材の定着にもつながっている。
日本(中小企業)お佛壇のやまき(日本)社員の休暇取得を徹底推進。有給休暇を100%消化した社員には追加で10%の休暇を上乗せ支給し、さらに報奨金を支給する制度を導入。社長自ら残業をしない働き方を評価する方針を打ち出し、連続5日間の家族休暇制度も創設(取得時に3万円支給)。その結果、年休消化率は98%に達し、休みをしっかり取った社員の方が接客態度や業績も良いというデータが示され、実際に会社全体の業績も約40%向上した。
海外(大手企業)マイクロソフト(日本法人)外資系企業の日本支社による先進的実験。2019年夏に「週休3日制」(週4日勤務)トライアルを実施し、全社員を毎週金曜休みにしたところ、従業員の生産性が約40%向上する結果が出た。短い週でも効率的に成果を出せることが証明され、従業員の仕事に対する満足度・幸福度も大きく高まった(参加者の約9割が制度に満足したと回答)。この成功を受け、会議の効率化やテレワーク活用など働き方見直しが社内外で加速する契機となった。
海外(中小企業)パーペチュアル・ガーディアン(ニュージーランド)従業員約240名の信託会社。2018年に週4日勤務(週32時間、給与据え置き)の2か月間の実験を行ったところ、業務成果が維持されたまま従業員のワークライフバランスが向上しました。具体的には、従業員のストレスレベルが大幅に低下し、家族と過ごす時間や自己啓発に充てる時間が増加。生産性も落ちなかったため、会社はこの週4日勤務制を正式に導入しました。この取り組みは従業員のエンゲージメントと幸福度を高め、国際的にも「柔軟な働き方」成功例として注目されました。

上記の事例から、大企業では組織規模が大きい分制度変更のインパクトも大きく、経営トップの決断や制度設計がカギとなることが分かります(資生堂やMS日本法人の例)。一方、中小企業では従業員規模が小さい分、経営者の意識次第で柔軟かつユニークな制度を導入しやすい傾向があります(お佛壇のやまき社やNZ企業の例)。共通しているのは、従業員のニーズに寄り添った制度を設計し、本気で運用することで業績向上にもつながっている点です。WLB充実度が高い企業は、人材の定着率が高まり離職防止につながるほか、社員の意欲向上により生産性向上やイノベーション創出にも寄与していることが示されています。

ワークライフバランス充実度を計測する方法

ワークライフバランスの充実度を継続的に改善していくには、現状を見える化して計測することが重要です。定量的な指標と定性的な指標の両面から測定することで、問題点の発見や施策の効果検証が行えます。主な計測方法としては以下が挙げられます。

  • 客観的な労働指標のモニタリング: 残業時間、休日出勤日数、有給休暇消化率、離職率、従業員の健康診断データ(メンタルヘルス休職者数など)といった客観指標を定期的にトラッキングします。例えば「平均残業時間が月◯時間以下か」「有給取得率が前年より向上しているか」「直近半年の離職者が何人か」といったデータを把握することで、WLB充実度の傾向を数量的に評価できます。これらの指標は経年での改善状況を追跡したり、他社平均や国全体の平均と比較したりすることで自社の立ち位置を測るのに役立ちます。
  • 従業員アンケート・エンゲージメントサーベイ: 従業員本人の声を収集することも不可欠です。仕事と生活のバランスに対する満足度やストレスレベル、会社の制度に対する認知度・評価などを定期的にアンケート調査します。年1回程度の大規模な従業員意識調査(エンゲージメントサーベイ)に加え、簡易な調査を高頻度で行うパルスサーベイ(Pulse Survey)も有効です。パルスサーベイでは月次や四半期ごとに5~10問程度の短い質問を行い、変化を素早く捉えることができます。これにより、部署ごとのWLB充実度や社員のモチベーションの傾向をタイムリーに把握し、問題があれば早期に対処できます。
  • AIを活用したエンゲージメントサーベイ「PULSE AI」の活用: 近年では、アンケート結果をAIで分析して組織改善に活かすツールも登場しています。「PULSE AI(パルスアイ)」はその一例で、従業員エンゲージメント(仕事に対する意欲や満足度)を定期的に測定するクラウドサービスです。PULSE AIでは毎月1回、従業員にごく短いWebアンケート(パルスサーベイ)を配信し、社員の本音やコンディションを収集します。集まったデータをAIが分析し、部署ごとの組織課題の可視化社員一人ひとりの離職リスク判定を行ってくれます。例えば、「最近モチベーションが低下している兆候」がある社員をAIが検知し、マネージャーにアラートを出すといった機能です。これにより管理職は部下の状態変化をタイムリーに把握し、フォロー面談や配置転換など適切な手を打つことができます。
    PULSE AIのようなツールを使えば、WLBの充実度を数値化して追跡できるだけでなく、改善に向けた具体的アクションを導き出すことが可能です。従業員のリアルな声を定量データとして蓄積し、AIによる分析結果を参考に経営陣が施策を講じることで、より科学的な人事・組織マネジメントが実現します。

以上のように、定量データ(ハード指標)と定性データ(ソフト指標)の両面からWLB充実度を計測し、改善サイクルを回すことが重要です。アンケート結果や客観指標の推移はダッシュボードなどで関係者と共有し、課題発生時には速やかに原因分析と対策立案を行います。とりわけPULSE AIのような最新のエンゲージメントサーベイを活用すれば、従業員のエンゲージメントやWLB充実度を継続的にモニタリングでき、離職防止や生産性向上に直結する施策の効果検証にも役立てることができるでしょう。

おわりに

ワークライフバランスの充実度向上は、企業にとって単なる福利厚生の充実ではなく、組織の持続的な成長戦略として重要性を増しています。WLBが高まれば従業員のエンゲージメント(愛社精神や仕事への熱意)が高まり、創造性や生産性も向上することが各種事例から示唆されています。一方で、日本企業では歴史的な働き方の慣習からくる課題も多く、経営陣と従業員双方の意識改革に時間を要する場合もあります。しかし、先進企業の成功事例に学びながら、自社の実情に合った改善策を地道に積み重ねていくことで、必ずや成果は現れます。
本レポートで述べた原因分析、取り組み施策、そして計測とフィードバックのプロセスを参考に、各企業が自社のワークライフバランス施策を推進し、働く人々が仕事と生活の双方で充実感を得られる社会の実現につながることを期待しています。