メンタルヘルスは直訳すると「心の健康」という意味で、職場のさまざまなストレスに対処しながら仕事に従事できる心の健康状態を指します。従業員のメンタルヘルスケアは、会社の生産性を高めるために欠かせません。
本記事では、会社に求められるメンタルヘルスケアについて紹介します。
メンタルヘルスは心の健康状態
メンタルヘルスとは、心の健康状態を表す言葉です。うつ病などの精神疾患だけでなく、社会生活や生活の質に影響を与える可能性のあるストレスや不安、悩みなどが要因となり、メンタルヘルスが不調になることもあります。
メンタルヘルスが不調になると業務に支障をきたし、会社の生産性を下げるなど大きな影響があるでしょう。ここでは、メンタルヘルスが重視される理由などを紹介します。
職場の生産性に影響を与える
メンタルヘルスの不調は、仕事の集中力や判断力などに影響を与えます。業務の処理能力が低下し、思うように進まなくなるでしょう。仕事全体のパフォーマンスが落ち、働く意欲も下がります。
メンタルヘルスが不調な従業員がいることで周りにも影響が及び、職場の生産性が低下することもあるでしょう。
対策が遅れると長期欠勤や休職、退職につながる可能性があり、会社は労働力の不足に陥る可能性もあります。さらに、生産性が下がることで、業績も低下する事態にもなりかねません。
メンタルヘルスケアが重視される理由
2020年に厚生労働省が行った「労働安全衛生調査」によると、現在の仕事や職場に関して強い不安やストレスを感じたことがある労働者の割合は、54.2%に及びます。
過半数の人がメンタルヘルスに問題を抱えているということです。そのまま放置すれば会社に悪い影響を及ぼし、事業の健全な成長を阻むことにもなるでしょう。
従業員のメンタルヘルスケアは経営に関わる問題として、会社をあげて取り組まなければならない項目といえます。
参考:厚生労働省「労働安全衛生調査」
予防策と早期発見が大事
メンタルヘルスケアには3つの段階があります。不調になる前の予防、不調が現れた従業員の早期発見、不調によって休職した従業員のサポートです。特に予防と早期発見が大切で、会社としてもしっかり取り組む必要があるでしょう。
予防段階としては個々の従業員によるセルフケアが基本ですが、従業員個人で対処できないケースもあります。従業員だけでなく、会社側の計画的な対策が求められるのです。
求められる4つのメンタルヘルスケア
メンタルヘルスの不調を予防するためには、従業員が自らセルフケアを行う必要があります。セルフケアを行うためには、メンタルヘルスに対して知識を身につけ、正しく理解することが大切です。
従業員個人の力ではストレスの原因を解消できない可能性もあります。従業員個人に委ねるのではなく、場合によっては管理監督者や産業保健スタッフなどの手を借りてケアをしていく必要もあるでしょう。
そこで、会社に求められる4つのメンタルヘルスケアについて解説します。
1.従業員のセルフケア
従業員が適切にセルフケアを実施するためには、メンタルヘルスについての正しい理解が必要です。
ストレスと上手に付き合うための「ストレスマネジメント研修」を開催したり、ストレスチェックを実施したりするなど、ストレス緩和につながるケアを促していかなければなりません。
ストレスマネジメントの内容や従業員に与える情報には、次のようなものがあげられます。
- メンタルヘルスケアに関する会社の方針
- ストレスやメンタルヘルスケアに関する基礎知識
- セルフケアの重要性
- ストレスに気づく方法
- ストレスの予防や軽減、対処法
- 会社内の相談先や外部の相談機関に関する情報
2.管理監督者が行うケア
職場に関するストレスは、従業員のセルフケアを実施するだけでは解消できない場合もあるしょう。管理監督者が職場環境を把握し、改善に取り組むことが必要です。
職場環境でのストレスの要因には、空調や照明など物理的なものだけでなく、労働時間や仕事量などさまざまなことが考えられます。ストレスの原因を見つけるために、従業員にヒアリングを行って職場環境を把握しましょう。
また、従業員が相談しやすい環境や雰囲気を整えることも必要です。不調を訴える従業員に対して適切な対応を行うことで、早期解決につながる対策を打つことができます。
3.産業保健スタッフが行うケア
産業医や衛生管理者、保健師などの産業保健スタッフは、従業員のセルフケアや管理監督者が実施するケアをサポートします。
また、会社のメンタルヘルスケアについて具体的な計画を立て、従業員から相談を受ける体制を整えることも必要です。専門医療機関などと連携して従業員への窓口を作ることも産業保健スタッフが行います。
4.外部と連携して実施するケア
メンタルヘルスケアは、外部の機関と連携して行うことも必要です。専門医療機関やカウンセリング機関などとネットワークを作り、情報提供やアドバイスを受けます。従業員が会社に関する相談を望まないというケースでも、外部の機関と連携してケアすることが有効的に働く場合もあるでしょう。
また、メンタルヘルスの不調で休職していた従業員が職場に復帰する際にも、外部機関の支援が必要となることが多いです。
メンタルヘルスケアの具体的方法
会社が行うメンタルヘルスケアは、具体的に次のような内容です。
- メンタルヘルスの教育や情報の提供
- ワークライフバランスを整備する
- 不調の早期発見と有効な対策
- 職場復帰への支援
まず、メンタルヘルスに関わるすべての情報を提供し、メンタルヘルスケアの重要性を理解してもらわなければなりません。予防と早期発見に向け、ワークライフバランスの整備や不調への気づき・対策も必要です。それぞれの内容を具体的に見ていきましょう。
情報の提供と啓発
まず、従業員と管理監督者、産業保健スタッフに対し、それぞれの役割に応じた教育研修や情報提供を行うことが必要です。
自社でそのような機会を設けるほか、外部で開催されるメンタルヘルス対策の研修を利用する方法もあります。社内に教育研修の担当者を養成するのも有効的な方法です。研修によりメンタルヘルスへの理解を深めることが、対策の効果を高めるポイントとなるでしょう。
ワークライフバランスの整備
ワークライフバランスを整えることも、メンタルヘルスケアに欠かせないポイントです。仕事とプライベートのバランスを取ることで、心身のリフレッシュを図ることができます。
ただし、労働時間を短縮したとしても、業務内容が調整されなければ従業員に負担がかかるだけです。かえってストレスが増える要因となるかもしれません。仕事量が多い従業員の業務内容の見直しを定期的に図るなど、負担のかからない体制づくりが必要です。
不調への気づきと対策
メンタルヘルス不調の疑いがある従業員を見つけたら、適切な対策を講じなければなりません。特に、部下の不調に気づくことは管理監督者の重要な役割です。
次のような変化を感じたら、産業医などに相談するか、外部の相談機関に出向くようすすめるとよいでしょう。
- 遅刻や早退、欠勤が多い
- 無断欠勤する
- 仕事の能率が悪い
- 残業が増えた
- 仕事のミスが多い
- 元気がなく、表情も暗い
まずは異変に気づいたら、話をよく聞くことが大切です。対話をするだけでも問題を解決でき、不調の悪化を防げる可能性もあります。
また、管理監督者は日常的に従業員に声をかけ、相談しやすくするように努めることも必要です。
職場復帰に向けた支援
メンタルヘルスの不調で休職した従業員が復帰する際には、支援のためのプログラム策定が必要です。
プログラムでは、休業から復職までの道筋を立て、対応する手順や関係者の役割などを定めます。衛生委員会もしくは担当者などが審議し、産業医の助言をもとに会社の実態に合うプログラムを策定します。
厚生労働省が職場復帰支援の流れを示す手引きを提供しているため、プログラム策定の参考にするとよいでしょう。
参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
メンタルヘルスケアの効果
職場でメンタルヘルスケアを行うことで、いくつもの効果が得られます。従業員のメンタルヘルス不調でもたらされる生産性の低下などの問題を回避でき、活気のある職場を実現できるでしょう。
従業員のメンタルヘルス不調は経営に大きな影響を及ぼす場合もあり、ケアをすることでリスクマネジメントにもつながります。
メンタルヘルスケアの効果について、詳しく見ていきましょう。
従業員が前向きに仕事に取り組み、高い生産性を維持できる
個々の従業員がメンタルヘルスへの理解を深めてセルフケアを行うことで、心の健康状態を維持します。従業員は前向きに仕事に取り組めるようになり、職場は活気にあふれるでしょう。従業員のモチベーションは向上し、生産性も高まります。
上司は部下の業務量や労働時間をチェックし、さまざまな変化にも柔軟に対応しなければなりません。積極的にコミュニケーションを取ることで相談しやすい雰囲気を作り、メンタルヘルスの不調を未然に防ぎます。風通しの良い職場を実現できれば従業員のストレスが軽減でき、高い生産性を維持できるでしょう。
離職率が低下し、結果として会社の業績が安定する
働きやすい職場環境が整い、従業員のメンタルヘルス不調が改善されることで、仕事へのモチベーションも高まります。離職率は低下し、優秀な人材が意欲的に働けるようになるため、生産性も向上するでしょう。結果として、会社の業績も安定します。
積極的にメンタルヘルスケアに取り組む会社は、対外的にも高く評価されるはずです。
まとめ
メンタルヘルスは心の健康状態を表す言葉で、仕事や社会生活などに影響を与える可能性のある精神状態を指します。ストレスや悩みでメンタルヘルスが不調になると業務に影響を与え、生産性の低下につながります。
また、離職の原因にもなるでしょう。従業員のメンタルヘルスケアは、経営に直結する重要なこととして会社をあげて取り組まなければなりません。