近年、多くの企業が「人材の定着」に課題を抱えています。特に令和時代に入り、若年層の離職率の高さが問題視されるようになりました。本記事では、日本における最新の離職動向をデータとともに分析し、離職の主な原因を深掘りします。また、離職予兆を可視化し、適切な対策を講じるためのツールや、人材流出を防ぎ、企業の成長を支えるためのヒントをお届けします。
日本の離職率の現状
過去10年間の離職率推移
日本の年間離職率(常用労働者に対する離職者の割合)は、この10年間おおむね15%前後で推移しています。大きな増減はなく安定していますが、景気や社会情勢による小幅な変動は見られました。例えばリーマンショック後や新型コロナ禍などでは一時的に入職率(新規採用率)と離職率のバランスが崩れ、2020年(令和2年)には離職率が入職率を上回る状況も見られましたが、翌年には持ち直しています。

全体的には入職率が離職率をわずかに上回る状態が続いており、労働市場は緩やかに人手不足傾向にあると言えます。直近では2022年の離職率が15.0%、2023年が**15.4%**とやや上昇傾向にありますが、依然として15%程度の水準です。

業種別の離職率
離職率は業種によって大きな差があります。厚生労働省の調査結果によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率が特に高く、直近では25~27%前後と全産業平均より大幅に高くなっています。次いでサービス業(他に分類されないもの)や生活関連サービス業・娯楽業など、パートやアルバイト比率が高い業種で離職率が高い傾向があります。一方、製造業や建設業、金融業など正社員中心で雇用が安定している業種では離職率が一桁台後半~10%前後と低めです。以下は主な業種の平均離職率の例です(2022年):
業種 | 離職率(2022年) |
---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 26.8%(最も高い) |
サービス業(他に分類されない) | 19.4% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 18.7% |
医療・福祉 | 15.3% |
教育・学習支援業 | 15.2% |
鉱業・採石業・砂利採取業 | **6~10%**程度(最も低い) |
このように業界による開きは約4倍もあり、人手不足の深刻なサービス業や小売・外食などは人材の定着が大きな課題です。高離職率の業種では、労働時間の不規則さや待遇面の厳しさが背景にあるケースが多く見られます。一方、低離職率の業種では雇用が安定して長く勤めやすい環境が整っている傾向があります。
年代別・職種別の傾向
若年層ほど離職率が高く、年齢が上がるほど低くなる傾向が明確です。厚労省統計によると、例えば男性の場合19歳以下では離職率が30%台と非常に高く、20~24歳でも約24%に達します。一方、30代前半で13%前後、40代では7~9%程度まで下がり、50代では5%前後に落ち着きます。つまり**「若いほど3人に1人が辞めるが、ベテランになるほど定着しやすい」構図です。若年層は他社への転職やキャリアチェンジが活発な一方、年齢が上がると家庭やキャリアの安定志向もあり離職率が下がると考えられます。また新卒入社社員の3年以内離職率**もほぼ30%前後で推移しており、「入社3年で3割が辞める」という状況は長年大きく変わっていません。企業規模による差もあり、中小企業ほど定着率が低い傾向があります(小規模事業所ほど新卒3年定着率が7割を下回るケースが多い)。
職種別では定量的な差は年代や業種ほど顕著ではありませんが、一般的に肉体的・精神的負担の大きい職種やノルマの厳しい営業職などで離職が多い傾向があります。例えば看護師・介護士などの職種は夜勤や業務負担から離職率が高めと言われますし、営業・接客業はストレスや顧客対応の負荷から退職者が出やすい傾向があります。一方、専門職でスキルが定着している人材は転職市場で需要が高くキャリアアップ転職による離職も見られます。いずれにせよ、若手社員や現場労働者の定着率向上が多くの企業に共通する課題となっています。
主要な退職理由と年代による違い
社員が離職する理由は様々ですが、主なものとして以下のような項目が挙げられます。
- 労働条件への不満 – 「労働時間が長い」「休暇が取りにくい」など勤務環境への不満です。特に若手ではワークライフバランスを重視する傾向が強く、サービス残業や過重労働があると早期離職に直結しやすいです。またシフト勤務の不規則さや夜勤の負担も理由になりがちです。
- 給与・待遇への不満 – 「給与が低い」「昇給・昇進の見込みがない」といった処遇面の不満は年代問わず離職理由の上位です。特に30代以降の男性では給与への不満が退職理由の筆頭に挙がる傾向があります。優秀な人材ほど他社から高待遇オファーがあれば転職してしまうケースも多く、企業にとって競合他社との差別化が難しいポイントです。
- 仕事の内容・やりがい – **「仕事内容が合わない」「やりがいを感じられない」といった職務内容へのミスマッチも大きな理由です。20代の若手では入社前の期待とのギャップや配属ミスマッチから「思っていた仕事と違った」と感じて辞めるケースが目立ちます。逆に意欲の高い社員が「より成長できる場に挑戦したい」**とキャリアアップ志向で転職する場合もあります。
- 職場の人間関係 – 上司や同僚との人間関係の悪化も代表的な離職理由です。ハラスメント的な上司の言動やチームの雰囲気の悪さから**「職場に居づらい」と感じて退職するケースがあります。特に20代男性では「上司への不満」**を挙げる人が多く、健全な上司部下関係が築けないと定着しにくくなります。女性でも人間関係は常に上位理由です。
- 会社の将来性・安定性への不安 – **「会社の経営方針に不満」「将来性が不安」**といった組織への不信も離職を招きます。30代以降では勤務先の業績悪化や将来展望の欠如に不安を感じて転職を決意する人が増えます。会社の倒産・リストラの懸念がある場合や、急激な方針転換に社員がついていけない場合なども含まれます。
- ライフイベント・個人的理由 – 結婚・出産・介護・健康上の問題といった個人的な事情も離職理由となります。特に女性は出産や育児との両立が難しくなり退職するケースが昔から多くあります。また配偶者の転勤についていくため退職する例などもあります。「その他の個人的理由」として公式統計でも2割前後を占めるほど、各人固有の事情も大きな要因です。
これらの理由の中でどれを重視するかは年代や性別によって違いが見られます。概して20代の退職理由では「労働時間・環境への不満」や「仕事のミスマッチ」「新しいことに挑戦したい」が上位に来やすく、成長志向や環境への敏感さが表れています。30代では「給与が低い」「将来性が不安」といった安定志向や待遇改善欲求が強まり、同時に「上司のやり方が気に入らない」などマネジメントへの不満も増えます。40代になると「働き方を見直したい」「労働時間を減らしたい」といった働きやすさの追求が目立ち、役職定年や子育てとの両立なども意識されます。また男女差では、男性は待遇やキャリア面の理由が多いのに対し、女性は結婚・出産や家庭との両立の問題が理由に絡む割合が高い傾向があります。総じて、労働条件(時間・休日)と待遇(給与)、人間関係の3つが多くの世代で共通する主要因であり、企業としてはこれらへの対策が離職防止の鍵になります。
離職リスク判定ツール「パルスアイ」
「パルスアイ」の概要と仕組み
パルスアイ(PULSE AI)は、株式会社ジャンプスタートパートナーズが提供する従業員エンゲージメント可視化・離職予兆検知ツールです。特徴は月に1回、数分で回答できるアンケート(パルスサーベイ)を社員に配信し、その結果をAIが分析して離職リスクを判定する点にあります。各社員の回答データをもとに、AIがその社員の退職リスクを「高・中・低・なし」の4段階でスコアリングします。直近3ヶ月の動向を踏まえた解析により、実際に退職してしまう社員の約83%を事前に検知できた実績があるなど、高精度な予兆把握が可能とされています。判定結果はダッシュボード上で会社全体や部署ごと、個人ごとに表示され、どの部門に課題があるか一目で把握できます。さらにパルスアイは単にスコアを出すだけでなく、組織課題に対する具体的な改善アドバイスも提示される点がユニークです。例えば社員ごとに「コミュニケーションタイプ」が分析され、マネージャーはそれに応じた接し方・ほめ方の提案を受けられます。また1on1ミーティングの前に部下のコンディションをチェックできる機能や、ストレスチェック法定調査を代行する機能も備え、管理職のマネジメントを包括的に支援する組織診断プラットフォームとなっています。

パルスアイの管理画面(例)。全社および部署ごとのエンゲージメントスコアや課題項目が色分け表示される。AIの分析により、組織のどこに問題があるかを可視化し、離職リスクの高い領域を特定することができる。管理者は表示された課題に基づき具体的な改善策の提案を受け取ることも可能。
導入企業の事例と利用状況
パルスアイは様々な業界・規模の企業で導入が進んでいます。導入目的として多いのは「社員の本音を定期的に把握し、早期に離職兆候を察知したい」というニーズです。たとえばホテルチェーンを運営する企業では、従来年1回の社員満足度調査しか行えておらず課題の継続的把握が難しかったため、パルスアイにより毎月の定点観測を開始したケースがあります。沖縄で複数のホテルを展開するリゾート企業では、パルスアイ導入によって各ホテル・部署ごとの組織状態を見える化し、今まで気づかなかった問題部門を発見できたといいます。また130年超の歴史を持つ老舗メーカーでは、従業員アンケートを活用して幹部層が組織運営のPDCAを回す体制を構築する目的で導入されています。このように中小企業から大企業まで、「現場の声の吸い上げ」と「マネジメント改善」に役立てようと導入するケースが増えています。サービス利用料は1人あたり月額300円程度と比較的低コストで、初回無料トライアルも提供されているため、数百~数千人規模の企業でも導入しやすい点も普及を後押ししています。
導入による効果・改善事例
パルスアイを導入した企業では、離職リスクの低減に一定の成果が報告されています。パルスアイ開発元の分析によれば、導入企業の平均では、社員全体の約34%が何らかの離職リスク(低以上)ありと判定されますが、運用を継続することでこの割合を縮小できるとのことです。実際、導入後1年間で約85%の企業が離職リスク指標の改善を達成していました。具体的には、離職リスク「高」と判定された社員の割合が平均5.6%から3.8%へと低下し、リスク「中以上」の社員割合も16.2%から6.4%へ大きく減少しています。全体として離職リスクを示す社員の比率が2~3割程度削減できた計算です。また個別企業の事例では、導入から1年間で退職者がゼロになった会社や、2年がかりの組織改善で離職率そのものを従来の1/3にまで低減できたケースも報告されています。こうした効果が出ている背景には、パルスアイでリスク検知された社員に対し、早期に上司や人事がフォローアップ(1on1面談や配置見直し等)を行い、問題の芽を摘んでいることが挙げられます。言い換えれば、「気づいてあげること」自体が大きな離職防止策となり、その仕組みをパルスアイが提供していると言えるでしょう。定量的な効果だけでなく、「社員が本音を語る文化ができた」「管理職が部下の状態を気にかけるようになった」など組織風土の改善も報告されており、離職率だけでなく従業員エンゲージメント向上にも寄与するツールとして評価されています。
上司が部下の離職を防ぐための施策
マネジメントとコミュニケーションの工夫
部下の離職を防ぐには、現場の上司による日々のマネジメントとコミュニケーションが極めて重要です。社員は「直属の上司との関係」で会社への満足度が大きく左右されるため、上司が以下のような工夫を凝らすことで離職を未然に防げる可能性が高まります。
- 定期的な1on1面談と対話の促進: 上司は部下と定期的に一対一の面談の場を設け、業務上の進捗だけでなくキャリア志向や不満点などを聞き出すようにします。上司から一方的に指示・評価を伝える場ではなく、双方向の対話によって部下の悩みや意見を引き出すことが重要です。日頃から気軽に話せる雰囲気を作っておくことで、問題が深刻化する前に相談を受けやすくなります。
- 承認とフィードバック: 部下の成果や努力に対して適切に認めて誉めることはモチベーション維持に欠かせません。良い点は迅速に賞賛し、改善点は建設的なフィードバックとして伝えます。特に若手社員は上司からの評価に敏感であるため、**日常的な声かけ(「助かっているよ」「成長しているね」)**を惜しまないことが信頼関係を築きます。評価面談が年1回しかないような場合でも、非公式に小まめにフィードバックすることで不安を軽減できます。
- 相談しやすい風土づくり: 上司自らがオープンな姿勢を示し、部下が意見提案や問題報告をしやすい雰囲気を作ります。失敗や課題を共有しても頭ごなしに叱責せず、一緒に解決策を考える姿勢を持つことで部下は安心して相談できます。逆に「報告すると怒られる」「助けてもらえない」と感じさせてしまうと、部下は孤立し不満を溜め込んでしまいがちです。上司自身の悩みや失敗談を時折共有するなど、自己開示を行うことも信頼関係構築に有効です。
- 部下を尊重し自主性を促す: 部下を一人の社会人・人格として尊重し、頭ごなしの命令や高圧的な指導を避けます。仕事の進め方にある程度の裁量や自由を与え、自主性を尊重することで主体的に働けるようになります。また「任せて見守る」ことで部下は成長を実感しやすく、やりがいにつながります。もちろん放任しすぎず適度にフォローするバランスが必要ですが、細かい部分までマイクロマネジメントしすぎるとストレスの原因となるため注意します。
- ハラスメントの排除: 上司はパワハラ・モラハラとなる言動を厳に慎み、公平公正な指導を心がけます。人格否定や感情的な叱責は部下の心に深い傷を残し、離職を決意させる最大の原因になりかねません。指導が必要な場面でも事実と行動にフォーカスして冷静に伝え、決して個人を攻撃しないことが原則です。職場で許されるべきでないハラスメント行為を上司自らが断ち、万一職場内で発生している場合は速やかに対処・排除することが信頼環境の前提となります。
従業員エンゲージメントを高める施策
個々の上司部下関係に加えて、組織全体として**従業員エンゲージメント(仕事や会社への愛着・熱意)**を高める取り組みも離職防止に有効です。エンゲージメントが高い社員は多少不満があっても踏みとどまり頑張ろうとする傾向があるため、会社として以下のような施策を講じることが望ましいでしょう。
- キャリア開発の支援: 社員が将来のキャリアに希望を持てるよう、研修制度や社内公募制度など成長機会を用意します。たとえば定期的なスキル研修、資格取得支援、メンター制度、ジョブローテーション、あるいは「社内FA制度(社内異動希望を出せる制度)」など、社員のキャリア形成を会社が後押しする仕組みを整えます。自分の成長実感が得られる会社は離れがたくなるものです。
- 適切な評価と報酬: 頑張りや成果が正当に評価される人事制度はエンゲージメントの土台です。評価基準を透明化し、公平で納得感のある評価・昇給を行うよう努めます。特に中堅以上の社員にはキャリアの節目節目で昇格の機会を与え、公平な競争の中で報いることが重要です。また昇給・昇格だけでなく表彰制度やインセンティブ(報奨金)制度を設けてモチベーションを可視化して高める方法も効果的です。
- 働きやすい職場環境づくり: 長時間労働の是正や有給休暇の取得促進、テレワーク制度の導入など、社員の働きやすさを向上させる制度整備は欠かせません。例えば残業削減のためのノー残業デー設定や業務効率化、育児・介護との両立を支援する在宅勤務や時短勤務制度の導入などです。社員がライフイベントを迎えても働き続けられる柔軟な環境を用意することで、優秀な人材の離脱を防ぐことができます。
- 組織風土・文化の醸成: エンゲージメント向上には企業文化も大きく影響します。経営理念やバリューを全社員で共有し、一体感や誇りを持てる風土を築きましょう。例えばミッション・ビジョンを社内イベントや朝礼で浸透させたり、部門を超えたプロジェクトや懇親の場を作ってチームワークを育むことも有効です。風通しが良く、社員同士が協力し合う文化の職場は居心地が良く、結果的に離職率も下がります。
- 従業員の声を活かす: 従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを定期的に実施し、社員の声を経営に反映させることも大切です。パルスサーベイなどで早期に不満をキャッチし、経営陣や人事部が施策を講じたり現場にフィードバックする仕組みを持つことで、「声を聞いてくれている」という安心感が社員に生まれます。実際に寄せられた意見をもとに制度を改善したり、新しい福利厚生(例:カフェテリアプランや社内休憩スペース設置など)を導入するなど、社員参加型で職場を良くしていく姿勢がエンゲージメント向上につながります。
以上のように、上司個人の取り組みと会社全体の制度・文化両面から働きかけることで、社員が「この会社でもう少し頑張りたい」と思える環境を整えることが重要です。「待遇を上げれば辞めない」という単純なものではなく、「自分は大切にされている」「成長できている」「この職場が好きだ」と社員に感じてもらうことが最大の離職防止策と言えるでしょう。
離職率改善に成功した企業の事例
大企業の成功例:サイバーエージェント
大手IT企業のサイバーエージェントは、離職率改善に取り組み大きな成果を上げた代表的企業です。創業当初から急成長する中で一時は「激務で社員の3人に1人が辞める」と言われ、**2000年前後には離職率30%に達していました。しかしその後約20年にわたる継続的な人事施策により、現在では離職率を約8%**まで低下させています。これは日本全産業平均の約15%を大きく下回る水準です。サイバーエージェントが講じた主な施策は以下のとおりです。
- 独自の福利厚生「Macalon(マカロン)パッケージ」 – 若手社員、とりわけ女性社員の定着を促すための支援策として導入されました。「ママ(Mama)がCAで長く(Long)働く」の略とされるマカロンパッケージでは、通常の産前産後休業や育児休業に加え、不妊治療休暇や卵子凍結費用補助などユニークな制度を整えています。これにより出産・育児期の女性でも働き続けやすい環境を作り、優秀な女性人材の流出を防いでいます。実際、女性社員の離職率は大幅に改善し、産休育休後の復職率も向上しています。
- 社内起業・キャリアチャレンジ制度 – チャレンジ精神の旺盛な優秀層が他社へ流出したり独立起業してしまうのを防ぐため、「新卒社長制度」や社内ベンチャー制度を設けています。20代の若手社員にも子会社や新規事業の社長を任せるチャンスを与えたり、社内で新規事業提案を募って自ら責任者になれる制度です。これにより**「会社に属しながら起業家精神を発揮できる」**場を提供し、向上心の高い人材が社内でキャリアを積み続けるインセンティブを高めました。実際にこれらの制度から生まれた事業も多く、社員の成長と会社の発展が両立しています。
- 柔軟な働き方制度の導入 – 「働き方宣言」制度と称して、一人ひとりの社員が自分に合った働き方を会社に宣言し実践できる制度を設けています。例えば早朝に働いて夕方退勤する、在宅勤務メインにする、副業を希望する等、多様な働き方を公式に認めました。また有給休暇とは別に**「S休」(サイバーエージェント休暇)**を設けて連続休暇を取得しリフレッシュできるようにするなど、社員の働きやすさに徹底的に配慮しています。こうした取り組みが社員の企業へのロイヤリティを高め、離職率低下に寄与しました。
以上の施策により、サイバーエージェントは**「激務で人が辞める会社」から「人が辞めにくい会社」**へと劇的な転換を遂げました。特に注目すべきは、単に給与を上げるといった施策だけでなく、社員のライフステージやチャレンジ精神に寄り添ったユニークな制度を次々と打ち出した点です。その結果、社員が長く働ける環境とモチベーションを両面から支え、離職率低下だけでなく社員のエンゲージメント向上・企業ブランド向上にもつながっています。
中小企業の成功例:カネテツデリカフーズ
老舗食品メーカーのカネテツデリカフーズ(関西を拠点とする練り物製品メーカー)は、中小企業ながら大胆な組織改革で離職率の劇的改善を実現した事例です。改革前、この会社では新入社員の3年以内離職率が50%超という危機的状況にありました。せっかく採用した若手の半数以上が数年で辞めてしまうため、人材育成が追いつかず慢性的な人手不足と組織力低下に悩んでいました。そこで同社は「制度を変え、風土を変える」ことをスローガンに離職率改善プロジェクトをスタートさせました。主な取り組みは以下です。
- OJT体制の抜本見直し(マンツーマン制度導入): 従来は新人教育が現場任せで、「仕事は見て覚えろ」という風土が強かったため、新人が十分な指導を受けられず不安を抱えて辞めていました。そこで新人一人ひとりに先輩社員がマンツーマンで指導役としてつき、計画的に育成する制度を導入しました。新人と先輩がペアを組み、毎月目標を設定して振り返りを行う仕組みを定着させています。これにより新人はいつでも相談できる相手がいる状態となり、業務習得も早まりました。先輩社員にとっても指導経験を積む場となり、中間層のマネジメント力向上にもつながっています。
- コミュニケーション活性化とチーム支援: マンツーマン指導を定着させる過程で、先輩社員同士も「自分の後輩に教えきれないことは周囲がフォローし合う」文化が芽生え、部署全体で新人を育てる意識が醸成されました。また新人が悩みを言いやすいよう定期面談の場を設けたり、人事部によるフォロー面談も導入しました。現場だけに任せず管理部門も関与して組織全体で新人の定着を支える体制を取ったことが功を奏しました。
- 中堅社員研修と風土改革: 現場の中間管理職に対してもマネジメント研修を行い、「新人は放っておけば育つもの」という意識を改めさせました。「俺の背中を見て育て」という指導は時代遅れであることを経営トップからメッセージとして発信し、現場リーダー層の意識改革を進めました。同時に会社として人材育成に時間とコストを投資する方針を打ち出し、教育担当者の評価も高めるなど仕組み面でも支えました。
これらの施策の結果、カネテツデリカフーズでは新人離職率50%超→数%台へと飛躍的な改善が実現しました。新人のみならず全社的に離職率が下がり、人材定着率が大幅向上しています。特筆すべきは、古くから染みついた企業風土を変えるためにトップが強い意志で改革を断行した点です。現場主義で属人的だった育成スタイルを組織的な仕組みに置き換え、社員同士が支え合う文化を育てたことで、会社全体のチーム力も増しました。その結果、単に離職が減っただけでなく生産性向上や業績改善にもつながり、人材に投資することの重要性を示す好例となっています。
以上、大企業と中小企業それぞれの成功事例をご紹介しました。前者のサイバーエージェントは制度の独創性と継続的な改善により若手からベテランまで魅力を感じる職場を作り上げ、後者のカネテツデリカフーズは現場意識の改革と徹底した新人フォローによって急激な離職率低下を実現しました。共通して言えるのは、どちらの企業も経営陣が人材定着を重要課題と捉え、本質的な原因に踏み込み対策を講じたことです。離職率の改善には時間と努力が要りますが、上記のように組織の在り方を見直し社員に向き合った施策を積み重ねることで、確かな成果を上げることが可能だということが示されています。企業規模に関わらず、「人を大切にする」経営が離職率改善の鍵となるでしょう。
